第36話 レベルアップによる亜空間ワールドの変化

 「……それでこの状態ってわけか」


 「なんと……」


 現状を見て遠い目をしているのは、僕からここに至るまでの経緯と説明を聞いたフェルトさんとラルクさん。


 そう。丁度報告する時間になったから、ギルド長室まで迎えに行って、実際に見て貰おうと浮島に連れてきたんだけどね。


 でも現状を見たフェルトさん達からすると、たった一日目を離しただけで、亜空間ワールドに浮島はできているわ、ホーリーハルピュイアがいる事に驚くわ、建物や景観が一新されているわで、頭の中で理解が追いついていないみたい。


 その上、今は食事時。で、目の前で何が繰り広げられているかといえばね……


 「だー!もう!駄目だって!食べるときは、フォーク使うの!」(力也)


 『面倒』『『なぜ?』』


 「面倒でもコレに慣れないと、浮島以外の亜空間ワールドに行かせられないんだって!」(空我)

 

 『窮屈』『楽しくない』『手使える』


 「あーそう、良いよ。君達はダンジョンに戻るんだね」(雅也)


 『トータ、一緒』『『否定』』


 「うん。なら頑張ろ」(楓)


 『『『承諾』』』


 はい、今何をやっているんだって思うよね?


 とりあえず、風光の跡メンバーがホーリーハルピュイアに食事指導しているんだけどね。


 因みに、今ここに居るホーリーハルピュイアは3人。


 まとめ役の金色の翼の青年と僕を浮島へ連れて行った水色の翼の青年、おそらく金色の翼の青年の奥さんと思われるピンクの翼の女性だけ。


 え?他のホーリーハルピュイア達はって?えっと、それについては、順を追って説明するね。


 まずは僕らは現在、亜空間ワールドの浮島に出来た洋館の一つ、領主館の大広間にいるんだ。


 そもそも、亜空間ワールドに出来た浮島の半分は元々あったゴム島と同じなんだけど、もう半分の新たに出来た街はこちらの素材で出来た普通の街なんだよ。


 あ、でも街って言ってもね。ホーリーハルピュイア達が文化的生活に馴染んでもらう為の仕掛が各所にある、大きな庭園がメインテーマの開放的な施設って行った方がいいかな。


 まあ、詳しくは後で紹介するとして……ここまでの経緯はね。


 前回の終わりに、僕が贈り物である食事を出す事になっていたでしょう?


 その前に、ちょっとイタズラ心でホーリーハルピュイア達に「すぐにでも亜空間ワールドで生活したい人、前に出てきてくれる?」って聞いちゃったんだよね。


 僕、まだ誰も決めていないと思っていたんだけど、意外にも即座に前に出て来たのがこの3人。


 まとめ役の金色の青年が出てきたからだろうね。一応、みんな続こうとしたんだけど、「覚えて貰う事あるから、前みたいな自由は無くなるよ?」って伝えたら、一斉にみんな下がっていったんだ。


 3人?は覚悟を決めていたらしく、その場から動かなかったから街へ連れてきて、他のハルピュイア達は元々の巣で食事をして貰う事にしたんだよね。


 残ったホーリーハルピュイア達には、一応かなりの量の料理を出して来たけど、足りなければ湖の食糧島に行く事は許可を出しているよ。


 それに、ダンジョンと亜空間ワールドの入り口は、元々の巣の場所に繋げたままにしているから、出入りは自由だしね。


 でも、亜空間ワールドで生活したいと選択するホーリーハルピュイア以外は、基本地上の街に行かない事と、浮島の街の建物に入らない事を、マスター権限で約束させているんだ。


 ダンジョンに戻るなら必要ない事だしね。それに、チラッとダンジョン見たら、やっぱりダンジョンの浮島もすぐに復活してたから不便はないはず。


 それで、ようやく目の前で繰り広げられている食事風景に至るわけだけど……


 僕がフェルトさん達を迎えに行って説明している間、風光の跡メンバーを浮島に呼んで、フォークやスプーンで食べる事を教えて欲しいってお願いしていたら、あんな感じになっていたんだよねぇ。


 だって、こちらの食事には、カレーライスを出しちゃったし。それに、すき焼きにビーフシチューも出したからね。(勿論ジュドに作ってもらったものだよ)


 手づかみじゃ厳しいものを出して慣れて貰おうと思ったんだけど、それ以前の問題だったみたいだね。


 でも今は、風光の跡メンバーの食べる様子を見て、必死に真似している3人。テーブルに着く事や椅子に座る事も初めてだろうに、頑張って居る姿は微笑ましい。


 一応大きめに作っといて正解だったね。翼は小さくは出来ないんだもん。コレは地上の街にいるジュドに報告案件だ。


 なんて僕が思っていると、隣からは笑い声が聞こえて来た。


 『嬉しい!』『好き!』


 「だろー!俺らが待ち侘びていた味なんだぜ!」


 「ほら、トンカツと一緒に食べてみろよ」


 「すき焼きは逃げないから大丈夫だって」


 カレーを口にした金色の翼の青年と奥さんは、それを食べたら驚き、美味しかったのか踊り出してしまったらしい。


 そしてハッと気付いて座り直し、色々口にしては、嬉しい事をメンバーに伝えているみたい。


 ホーリーハルピュイアの対応に慣れてきたのか、力也さんは笑顔で同意しているし、空我さんはカツカレーを教えようとしていたんだね。


 雅也さんは、目線が既にすき焼きを捉えている二人に安心する様に諭してあげたり、楓さんは奥さんの口元を拭いてあげていたりと、メンバーのフォローに僕は助かっちゃった。


 で、僕の隣に座って居る水色の青年も、目の前に座っているフェルトさんやラルクさんの真似をして、一生懸命に食べようとしているんだ。


 新しく出来る様になったカレーやビーフシチューやすき焼きは、フェルトさん達も気に入ったみたいだね。もくもくと食べ進めているんだもん。


 『トータ』


 水色の翼の青年に呼ばれて隣を見たら、僕のスプーンが止まっていた事が気になったみたい。慌てて「食べてて良いよ」と言ってからふと、思ったんだけど。


 「君たちに名前あるの?」


 聞いて見たら水色の翼の青年は『わからない』というし、だったら名前つけて良いかなぁって思ったんだよね。


 「君をソラと呼んでも良い?」


 そう言ったら、彼が嬉しそうな笑顔になってね。良かったと思ってたら、ポンッという音が隣から聞こえてね。隣を見て見たら、あろう事か人間の姿になっていた青年。


 「「「は?」」」


 突然の出来事に、僕もフェルトさん達も口を開けたまま、呆然としちゃったんだけど、そこに扉から一人の執事姿の男性も現れて場は騒然。


 「落ち着いて下さい、マスター。私ですよ、ジュドです。ようやく人化出来ましたよ」


 自分をジュドと言う執事姿の男性は、なるほどジュドと同じ髪色で、話し方もジュドそのもの。何よりマスターとして、彼がジュドだと認識出来たんだ。


 そんなジュドが、僕の隣でくしゃみをするソラに毛布を出して掛けてあげてから、改めて説明してくれたんだけどね。


 「え?明治時代まで人化にロックがかかってたの?」


 「まあ、マスターは私のアレスタックス姿が気に入ってましたから、気にならなかったんでしょう。それは良いとして……マスター覚えていて下さい。名前をつける行為は従属に当たりますし、亜空間ワールドが明治時代になったからこそ、従属すると人化出来ない種族も人化可能になったんですよ」


 サラっとすごい事を教えてくれたジュドが「ほら隣を見て下さい」と僕の視線を誘導すると、そこにはワクワクした表情のホーリーハルピュイアの二人の姿があったんだよね。


 ……えっと、名前付けて欲しいって事で良いのかな?


 確認すると『『早く』』と伝えられたので、金色の翼の青年はコガネ、奥さんはサクラとつけてみたんだ。


 風光の跡メンバーからは安直と笑われたけど、覚え易くて良いじゃんか……と拗ねる僕。


 当然、ボボンッと音と共に人化した二人。真っ裸だったから焦った楓さんがサクラの体を隠し、ジュドも素早く二人に毛布を掛けてあげてくれていた。


 そして驚く事がもう一つ。


 「トータ、ソラうれしい」


 「コガネもうれしい」


 「サクラ、サクラ!」


 声帯を認識したのか、3人が声を出したんだ!コレには僕らもビックリ!


 でもジュドによると、元々言葉を理解していたし、伝達能力もあったから当然だって言われたよ。


 おかげで、亜空間ワールドに住むホーリーハルピュイア達との意思の疎通がよりスムーズになったし、心配も一つ減ったんだ。


 どうせなら人化に慣れて貰う為に、そのまま人として過ごす事を提案したら、喜んで承諾してくれた3人。


 風光の跡メンバーもコガネの面倒を男性陣が、サクラを楓さんが面倒見ることを率先して言ってくれたから、ソラは僕とジュドが面倒を見ることになったんだ。


 フェルトさんとラルクさんも僕らをフォローする為に、今日はこの洋館に泊まってくれるみたいだし、仲間って心強いよね。


 レベルアップの変化はまだまだあるらしいよ。うん、見るのが楽しみだね!


 え?ところで、アクア様とエアはどうしたって?


 それは次回をお楽しみに!

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