第35話 マスター権限
あの後、次の島への攻略より、ホーリーハルピュイアのサポートをしよう、と決めた僕達。
だってね……
「ジュドさま!てえへんだ!店が潰れちまう!」
「てやんでぇ、この野郎!人が大人しくしていりゃ、良い気になりやがって!」
「いやあああ!私の着物なのよぉ!ぬがさないでぇ!」
「この鳥っ子の野郎、ウチの店の酒飲んで潰れちまって、なんとかしてくだせえや!」
『意地悪』『皆で分ける』『嬉しくない』
『まだ』『もっと』『食べる』
『独り占め駄目』
『踊る』『いけない』『なぜ?』
……街の混乱ぶりがわかるだろうか……?
うん、でもコレは僕が悪いね。文化レベルの違う者同士が上手く行く為には、理解と協調性が必要だもん。
という事で、初めて亜空間ワールドのマスター権限を行使したよ。
「【ホーリーハルピュイア達全員、浮島へ集合!】」
すると、全員が一挙に浮島へ飛び去り、残されたのは色々やらかされた江戸温泉街と疲れ切ったセイクリッドジェリーマーメイド達。
……うわあ、本当にごめん……!
ジュドや風光の跡メンバーに江戸温泉街の片付けや補修を任せて、エアとアクア様について来て貰い、僕も浮島へと移動する。
浮島の自分達の巣に戻ったホーリーハルピュイア達も、『不満』『嬉しくない』『なんで?』『疑い』の概念を伝えてくる。
大広間にホーリーハルピュイア全員を集めて、マスターとしてまずしたこと。それは……
「みんな、ごめん!いきなりで驚いたよね?だから、今からみんなに贈り物を渡します!」
やっぱり混乱をさせた責任をとって謝る事。でもね、僕のこの行動に、即座に反応したのはエアとアクア様。
「ちょ、ちょーっと待って!淘汰!力で抑え込めばコイツらいう事聞くんだよ!?」
「いかにも。図にのらぬ様、一度押さえつけるべきだの」
僕の肩に手を置いて力を解放するエアと、ズイっと僕の前に出て力を解放するアクア様に、慌てて抱きつく僕。
やっばい!!ホーリーハルピュイア達の前に、説得しなきゃいけないのはこっちだった……!
焦った僕は、アクア様を理由を話すから一旦力を抑えて貰うようにお願いし、次にエアにも抱きついてなんとか威圧をやめて貰ったけど……ホーリーハルピュイア達の方を見ると、ブルブル震えて固まっていたんだ。
『怖い……!』『怒った……!?』『なぜ?』『殺される?』
ホーリーハルピュイア達から伝わってくる概念は、もはや恐怖といった感情。
あっちゃー、怯えさせちゃったか……!
しまったなぁ……と思いつつ、僕はともかく僕を心配してくれたエアとアクア様に向き直る。
「エアもアクア様もありがとう!僕の為に行動してくれたんだよね?すっごく嬉しいよ!でも、ちょっと僕も言葉が足りなかったね」
改めてごめんと謝ると、エアもアクア様も不満顔。うん、力で押さえつけると簡単なのはわかるんだけどさ。
ここからは亜空間ワールドにいる全員に伝わって欲しいと思って、マスター権限の一つである亜空間ワールドにいる全員の心に直接伝わる様に力を使った僕。
「【突然新しい仲間を連れて来て、戸惑わせてごめんなさい。でも僕は、いろんな種族がこの空間で快適に過ごせるようにしていきたいんだ。
それには、力で押さえ込んだ表面だけの安全な生活は望んでいない。心から笑って、心から楽しむ。そんな毎日を過ごして貰いたいと思っているんだ。
だから僕は、マスター権限で一つだけ守って貰う法律を作らせて貰うね。
[お互いに思いやる心を忘れない]
これを亜空間ワールドの最初の法律にさせて欲しい。勿論、どうしても不服なら元の場所に戻してあげるよ。
君たちには選ぶ権利があるんだもん。
だから、ホーリーハルピュイアのみんなには、僕から提案させて欲しい。
この亜空間ワールドには良いものが沢山あってここに住んでみたい、と少しでも思ったら僕に協力してくれないかな?
協力するかどうかは各自一人一人で決めてね。その為にも、ホーリーハルピュイアのみんなに、一週間考える時間を渡そうと思う。
その間は、少し学んで貰う必要があるから、遊ぶ時間はなくなるよ。でも、食べる事や住む場所の心配は要らなくなる。安心と安全を約束するから頑張ってみてほしい。
そして、先住民のセイクリッドジェリーマーメイドのみんなには、頑張ってくれているから僕から先に贈り物をさせて貰うね】」
僕はここまで言い切って、ジュドに念話でお願いをする。勿論、僕の考えを読んでいるジュドは、タイミングよく僕の考えを実行してくれたんだ。
僕はエアやアクア様を上空に呼んで、一緒に浮島の下にある江戸温泉街や城下町方向を見てみたらね。
中心街から始まった大きな光に江戸の街全体が包まれていき、全体が包まれた次の瞬間、一層強く光出したんだ!
眩しくて目を閉じた僕らがゆっくり目を開けると、眼下に見えてきたのはーーー
ーーー煉瓦作りの建物が並ぶ商店街。ガス灯が大通りの両脇に規則正しく並び、洋館造りの建物が新たに何棟も増え、更に目立つのは湖近くに出来た、大きな白い煉瓦の洋館。
「ねえ、淘汰?あの白い家の後ろにある黒い物は何?」
「淘汰よ、我の湖の外縁を囲っている線の様なものはなんだ?」
二人共からほぼ同時に質問された僕も驚いたんだけど、みんなはエアとアクア様が言っているもの、何なのか想像つくかなぁ?
正解は、明治時代の大きな特徴の一つである、鉄道機関車と線路なんだ。それが遂に亜空間ワールドにも登場したんだよ!
僕も動く蒸気機関車に乗るのは初めてになるから、正直すっごい興味はあるし、早く乗ってみたいんだよね!
因みに、白い大きな洋館は、亜空間ワールド初の駅。こっちも早く中を確認したくてたまらないけど……まずはエアとアクア様にも説明しなきゃね。
「アレは機関車と線路っていって、移動する時に乗る乗り物なんだ。鉄道については後で一緒に乗ってみる予定だけど……アクア様もう一つ気付かないですか?」
「ん?……おお!湖の大きさが更に大きくなったの!」
「へへっ、アクア様にはお世話になっているから、更にゆったり出来るようにしてみたんです。それにエア?エアはこの浮島で気づいた事はない?」
「……ちょっと島を飛んで来る」
見た感じ浮島まで変わっていると思ってなかったエアは、人間の姿のまま上空へひとっ飛び。
『淘汰!浮島がかなり大きくなってるよ!?それに浮島にも街がある!?』
凄いスピードで島全体を確認したんだろうね。念話で驚きを伝えて来たエア。そのまますぐに戻って来て、興奮気味に僕に抱きついて来たんだ。
「淘汰!凄い、凄い!こんなに一度に色々変える事ができるんだね!」
「へへっ、魔障石やジュドやみんなのおかげだけどね」
だってマスターである僕も、レベルアップしてみなければよくわからないからねぇ。でも言えるのは、僕にとっては断然住みやすくなって行くって事。
それでも僕に出来るのは、生活の基盤を整える事だけ。そこで生活をして楽しく過ごしていけるかどうかは、みんな次第。
だから浮島には、ちゃんとホーリーハルピュイア達の元々の巣も残しているよ。実際に住んで良さを実感して選んで貰う為にね。
エアやアクア様からはすでに不機嫌な表情はなくなり、早く確認したい意思が伝わって来るし、ジュドからは下のセイクリッドジェリーマーメイド達からの驚きと喜びの声が上がってきているんだ。
うん、概ね喜んで受け入れて貰っているみたいだね。
でも、変化を受け入れる種族もあれば、戸惑う種族もある。
ホーリーハルピュイア達は、何度も上空に行ったり降りてきたりを繰り返してるねぇ。
ここからが頑張りどころかな?
『【さあ、みんな!レベルアップした亜空間ワールドを楽しもう!】』
まずは、やる気をあげさせる為の贈り物をジュドにお願いしなくちゃね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。