第34話 現状リポートです。
えっと、突然ですが……今、僕はホーリーハルピュイアの群れの中に居ます。
え?何があったのって思うよねぇ。1番ツッコミたいのは、僕なんだけどさ……
「ん?何?ああ、これが気に入った?あ、新しい子連れてきたんだね。うん、わかったって」
仲間意識の強いホーリーハルピュイアは、気に入ったものを巣の中に運び込むし、食べものも分け与える性質があるみたい。
で、僕がアイテムボックスに作り溜めて置いた料理を出して、ホーリーハルピュイア達に食べさせてあげているんだけどね。
「ん?美味しいのかな?そう、良かったねぇ」
僕が独り言言ってるように聞こえるでしょ?一応ちゃんと意思の疎通は取れているんだよ。
例えば、今だって僕があげた唐揚げを美味しそうに食べながら、『嬉しい!嬉しい!』って感情が伝わってくるんだ。
どうやらホーリーハルピュイアは、会話じゃなくて念話で概念を伝えてコミュニケーションをとっているみたい。
とはいえ……細かい意思の疎通が難しくてね。ちょっと困っている事があるんだよ。
うん、だって……ホーリーハルピュイアは男性体もいれば、女性体もいる。で、上半身が人間の裸状態なんだよ?
……セイクリッドジェリーマーメイド達が、最初から多少布をつけてくれていたから、全く気にしてなかったけどさ……
「あーうんうん、わかったからね!満足した踊りは要らないって!」
一匹一匹が食べて満足すると、翼を広げてダンスしてくれるんだ。女性体でも堂々と胸を出されるから、どうしようかなって思っているんだよね。
役得?いや、そうとも言うけど、下半身鳥だからねぇ……
あ、失礼。そもそも、この状況になったのはどうしてって思うでしょう?
本船にホーリーハルピュイアの男性体が一匹、結界を超えて乱入したのは覚えている?
まず結界を超えられた理由は、エアの眷族だったからなんだよ。
でもって、その男性体ホーリーハルピュイアは、初めてみた乗り物の中で美味しい食べ物と美味しい食べ物を出してくれた人間を認識したんだ。
まあ、僕がこっちにも美味しい料理あるよーって唐揚げだしたのが、そもそもの間違いの始まりなんだけど……
うん、僕の善意が、ホーリーハルピュイアの無邪気で仲間思いにの性質よって誤解を産み、行動された結果だね。
平たくいうと、連れ去られました。……俵担ぎで。
俵担ぎされるって苦しいんだね。いや、だからといって横抱きにされても困るから、必死に上半身を起こしていたけどさ。
そして辿り着いたのが、目的地の島のホーリーハルピュイアの巣なんだけど……
『マスター、まだ駄目ですか?』
『僕が出れば1番いいんじゃない?』
『我はいつでも行けるぞ?』
さっきから心配したジュドやエアやアクア様から、ひっきりなしに念話が届いて大変。
『うん、ちょっと待って。僕だけで交渉したい』
勿論、船にいたみんなは僕の位置もわかっているし、なんなら連れ去られた瞬間に助けようとしてくれたんだけど、僕がそれを止めていたんだ。
だって、明らかに僕に害するつもりはないってわかってたんだもん。
ホーリーハルピュイアから伝わってくる概念が『一緒』『連れて行く』『仲間』『喜ぶ』だったんだ。
そもそも、ホーリーハルピュイア達を最初から亜空間ワールドに招待したかった僕。だから、まず生態系を知りたくて、みんなには僕のわがままを優先させてもらった形なんだ。
それで、現在僕一人でホーリーハルピュイアの群れというか巣におじゃましているわけだけど、面白いんだよー!
なんと巣の材料が雲なんだ!?フワッフワで、形を整えると粘土みたいに硬くもなるの!
それが木々の間に作られていてね。森の一部が雪に覆われているみたいに見えるんだよ?
そして、見ていると大広間のような食事の場所(僕はここ)、各自寝る場所、なんと!ちゃんとトイレの場所まであるんだ。
彼らの行動を見ているとね、綺麗好きなのがわかったんだよ。
例えば、食べ残しは腕の翼で履いて下に落としていたり、棲家を綺麗にするため新しい雲を持ってきては壁や床を補修していたり、布団代わりのフワフワの雲を追加していたりと、結構働き者だし。
あと、協力体制が整っているみたい。ザッと仲間全体の様子を見てるけど、誰一人栄養状態が悪かったり、仲間外にしている様子はなかったんだ。
そしてよくみるとね、一匹一匹の外見に特徴もあるんだ。特に翼の色がカラフル!原色から淡い色まさかの蛍光色までいるんだよ!
正直言って、セイクリッドジェリーマーメイド達の見分けが最初つかなかったのを考えると、これは僕が助かった。
だって、一族のボスっていうのかな?まとめ役が蛍光色を持つ翼の青年だってわかったからね。
ん?僕を連れて来た青年?
彼は水色の翼で、どうやら視察組の一人らしい。金色の翼の彼に僕に付いているように言われたのか、ずっと隣にいるんだよ。
さっきから『嬉しい』『役に立った』『守る』って概念が伝わって来ているんだ。素直で純粋なんだろうなぁ。
うーん、どうしようかな?
確かに彼らは浮島の環境がないと生きていけない感じだけど、知能はあるし、教えたら言葉でコミュニケーションも取れそうだって事もわかったけど。
それにジュドによると、浮島を取り込むとこの雲の製造も亜空間ワールドで出来るみたいだから、是非来てもらいたいんだけど……
実はここに来て、亜空間ワールドに取り込みたい1番の理由は変わったんだ。
理由は、島全体がゴムの木でできているからって事なんだよね!ゴムだよ、ゴム!それも森の木、島の植物全体がゴム!
今後の為になんとしても手に入れておきたい素材!
それにね、エアが遊び場って言った意味がよくわかる。だって、子供のホーリーハルピュイアが飛ぶより跳ねて遊んでいるんだもん。
僕も混ぜて貰いたいくらい、すっごい楽しそうだったんだ。
で、確信したね。このゴム島には食べる物が少ないから、僕の隣の青年は船でガツガツ食べてたんだって。
という事は、やっぱり食べ物で釣るしかなさそうだね。
それで取り出したのは、エアにも好評だったお団子!みたらし団子、こし餡団子を、まずは隣の彼に食べて貰おうと渡してみたけど、コレが何かはわからなかったみたい。
僕が一口食べて「美味しいよ?」と言って初めて手?というか翼に取ってくれたんだ。ホーリーハルピュイアは翼を手のように器用に使うからね。
で、食べてくれたんだけど、不思議そうにしていた表情が一変してね。『嬉しい!』『嬉しい!』って伝えて来てくれたんだ。
そしてグイグイ僕を引っ張って、狙い通りに金色の翼の青年のところに連れて来てくれたんだ。
『嬉しい!』『渡す』って彼が伝えて来たから、金色の翼の青年に「美味しいですよ」と言ってお団子を渡したらね……
『嬉しい!』『好き!』『もっと』って僕に伝えながら、仲間を呼んで、自分の食べていたものを分け与えていたんだ。
まあ、僕はその後団子祭りで大変だったけどさ。
団子はアイテムボックスにジュドがいっぱい補充してくれたから、ホーリーハルピュイア全体に行き渡ったけど、更に人数?が増えたのには僕が驚いちゃった。
甘味は種族を超えて愛されるんだねぇ。
よし!ここが勝負どころ!
「みんなで、僕のところに来ませんか?美味しいものたっぷりありますよ!」
そして亜空間ワールドの入り口を開き、江戸温泉街の大通りへと繋げると、一瞬にして警戒態勢に入ったホーリーハルピュイア達。
金色の翼の彼の後ろにみんな逃げていっちゃったんだ。
んー……まだタイミングが早かったか?
なんて思っていたら助っ人登場。
「だから僕が出た方が早いんだって。ほら、みんなおいで!ここは安全だし、美味しいものいっぱいあるんだから!」
人型姿のエアが鰻丼を持ってヒョコッと顔を出してくれたんだ。
エアの姿を見て安心したのか、少しずつ近づいて来てくれたホーリーハルピュイア達。中でも水色の彼が1番に飛び込んで、エアから鰻丼を渡されると、一口食べて大興奮!
『嬉しい!』『平気!』『もっと!』と念話を仲間に伝えて、更にセイクリッドジェリーマーメイド達が持って来た料理に舌鼓を打つ姿は1番の宣伝になったんだ。
徐々に入って行く人数?が増えて、セイクリッドジェリーマーメイド達が率先してもてなしてくれた結果、笑顔が増えて亜空間ワールドの探索へと飛び立って行ったホーリーハルピュイア達。
残るは金色の翼の青年、ただ一人。
エアもおいでって言っているのに彼が来ない理由は、『まだ』『仲間』『沢山』『巣』『守る』って事らしい。
「大丈夫、全員招待するよ!だからおいで!」
僕が彼の翼を掴んで連れて行くことによって、ようやく亜空間ワールドに入ってくれた彼。
それによってジュドがようやく浮島を取り込む事が出来たようで、空にぽっかり浮島が亜空間ワールドに現れたんだ。
いきなり出現した浮島を見て、青年は驚いた様子だったけど、エアも居るし納得もしたんだろうね。
『理解』『感謝』
金色の翼の青年が、僕に向かってようやく満面の笑みを見せてくれたんだ!
僕も嬉しかったなぁ。亜空間ワールドに新たな素材と新たな仲間が増えたんだもん。
それに、フェルトさんとラルクさん、驚くだろうなぁ。この後二人に報告するのが楽しみなんだ!
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