第33話 移動はやっぱり船で。

 とりあえず、フェルトさんとラルクさんに報告必要だろうなぁと思って、ギルド長室に顔を出したんだけどさ。


 「ラルク……!俺は、ギルド長を辞める……!」


 「この馬鹿ギルド長……!あんただけいい思いさせると思っているんですか!?私も辞めますよ!」


 「えええええ!?大丈夫なんですか!?」


 なんて僕が慌てされられたけどね。でもこの二人、最後まで否定しなかったんだよね。


 ……とにかく毎日顔は出せ、と言われたので、ダンジョンから戻って来るたびに報告する事になったんだ。


 だって、フェルトさんもラルクさんも、僕にとっては最初の協力者だもん。大事にしないとね。

 

 さて、ところ変わって現在。

 今日も本船での航海は快適そのもの。


 え?結局、『大海原のダンジョン』なのかって?……それが違うんだなぁ。


 僕は船尾から帆に風を送っている力也さんに近づいて行く。


 「力也さん、大丈夫ですか?」


 「ああ、これくらいなんて事ないさ。風を送るだけだからな」


 「もし疲れて来たら言って下さいね。代わりますから」


 「飯の方が足りなくなるな。悪いがちょこちょこ補充しに来てくれ」


 そう言う力也さんの近くには、おにぎりやちまき、お寿司に太巻きが並んでいるんだよ?これで足りない……?……うん、雅也さん苦労してきたんだなぁ。


 雅也さんのこれまでの苦労に同情しつつ、今度は船首近くで舵を取る楓さんに近づいて声をかけたんだ。


 「楓さん、調子はどうですか?」


 「思ったより平気。それよりこっちの補充お願い」


 楓さんの足元には、お椀が三つ重ねて置かれているんだけどね。


 ……確か鰻丼とステーキ丼と照り焼き丼があったと思ったんだけどなぁ。相変わらず、力也さん楓さんの兄妹の胃袋はどうなっているんだろうね……?


 とりあえず、焼肉丼や焼き鳥、おにぎりと味噌汁を置いてお願いして来た僕は船室へと向かう。


 すると、船内の巨大炬燵には残りのメンバーがお茶を飲みつつのんびり過ごしていたんだ。


 「よお、二人はどうだった?」


 「大丈夫そうですよ?と言うか、空我さんその状態だと寝ちゃいませんか?」


 空我さんは二つ折りの座布団に頭をのせて、首まですっぽり炬燵に入っているんだよ。因みに、ジュドはエアの背もたれになってあげてるし、そのエアは炬燵に入ってうつらうつらしている。


 雅也さんはゆったりアクア様と話していたのか、お茶を飲んでいるし、アクア様も座椅子に座って寛ぎ体制だ。


 「飛んでいく方向を伝えるのが空我さんの役割じゃないですか。って肝心のエアが寝ちゃっているし……」


 「淘汰よ、構わん。我が、浮島の魔力を感知できるでの。随時空我に伝えよう」


 「さっすがアクア様!年長者は違うね!」


 「ん?空我よ。早速楓に右に15度舵を切れと伝えてくれ。……うむ、そのまま……よし、そこで止めたら後は真っすぐだ」


 「了解!だってよ、楓」


 『わかったけど、空我なんか狡い』


 「こればっかりは役得、役得」


 こんな感じでゆるい雰囲気だけど、本船は順調に『深空のダンジョン』を航海中なんだ。


 ネタバラしになるけど、本船全体に結界と消費魔力軽減の付与魔法を張った僕。その後、楓さんの無重力魔法を使って本船を空まで浮かし、力也さんの風魔法で推進力を得て進んでいる本船。


 おかげで、『大海原のダンジョン』がある湖から、『深空のダンジョン』まであっという間に着いたんだ!


 まあ、エアが途中で遊んでスピードアップしたってのもあるけどね。


 ん?地図がないのに大丈夫かって?


 空我さんは【影伝達】と言う、闇魔法と音響魔法の複合を会得し、方向がわかるエアやアクア様の言葉を二人に伝えているから大丈夫!


 燃費の悪さは……うん、必要経費かな。


 で、ダンジョンの中なら敵はって?思うでしょう?だって、アクア様とエアが揃っているんだよ?エア曰く……


 「多分2番目の浮島まで襲ってこないよ」


 だってさ。おかげで、順調すぎるくらい順調に進んでいるんだ。


 だから、安心して僕もいそいそと炬燵に入って、はぁ、と満足のため息を吐けるんだ。


 すると、ジュドが気がついてくれて僕にもあったかいお茶を出してくれたから、僕は炬燵に必須の醤油煎餅を出してみた。


 「お、いいな。淘汰、俺にもちょうだい」


 煎餅の音を聞いた空我さんを皮切りにアクア様と雅也さんも欲しいと声を上げたから、3人に渡すと、バリッといい音が聞こえてくる。


 焼きたてっていいよね。


 これもセイクリッドジェリーマーメイドが頑張ってくれているもの。毎日楽しそうに煎餅を焼いてくれているし、めっちゃ塩梅がよくて美味しいんだ。


 そんな煎餅を齧りながら、ふと思いついたことを話だす僕。


 「そういえばアクア様、最初の浮島はどんな島でしたっけ?」


 「我もエアから聞いただけでの。確かエア曰く『遊び場所』と言っておったな」


 「へえー……遊び場所?」


 「なんか、島全体ふわふわするんだってよ」


 アクア様の説明に疑問を持った僕に、空我さんがさっきまでエアが話していた事を教えてくれる。


 「ただ、あくまでもブルーエアドラゴン基準だからね。用心は必要だと思うよ」


 雅也さんの言葉に同意するアクア様。アクア様も他のドラゴンが持つダンジョンは初めてらしく、ちょっとワクワクしているのがわかって、なんだか可愛い。


 それにしても、遊び場所ねえ。僕の場合、遊園地とか思い浮かぶけど……違うんだろうなぁ。


 なんて考えていたら、【影伝達】から楓さんの声が聞こえてきたんだ。


 『前方にうっすらと浮島の影が見えた。……淘汰、ちょっと来てくれないか?』


 ん?僕を名指し?


 「淘汰行ってらー」


 「何かあればすぐ我を呼べ」


 「マスター、私も一緒にいきましょうか?」


 ヒラヒラと炬燵から出る気のない空我さんと苦笑いしている雅也さん。アクア様は心強い言葉をくれるし、ジュドは気を使ってくれるけど、エアを起こすのは忍びないからとりあえず一人で行く事にしたんだけどさ。


 えーと……この状況は何かな?


 「あ!駄目ぇ!やめてっ!」


 これだけ聞くと楓さんの身に何かあったと思うでしょう?


 でもね、船首に着いた僕の目の前で繰り広げられているのは、舵から手を離せない楓さんの足元にあるエネルギー源の料理を、ガツガツ食べる存在に悲鳴をあげている楓さんの姿なんだ。


 んー……結界はちゃんと敵を排除するように展開しているし……正常だと言う事は……


 「ええっと……貴方はエアの眷族さんかな?」


 僕の言葉が通じたのか、ニパッと笑うこの存在。


 上半身人間男性の姿で下半身鳥の足、腕や手の部分は翼だけど手のように器用に使って料理を口に入れているのは……おそらくホーリーハルピュイアだろうなぁ。


 うん、エアと同じ無邪気な感じ。


 「淘汰あああ!私のご飯!!!」


 悲痛な楓さんの声で遠い目をしていた僕はハッと気付き、とりあえず対処に向かう僕。


 多分偵察としてきたんだろうけど……それにしては食いっぷりが良すぎるのは気のせいかなぁ?

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