第31話 桁違いの力
僕が少し後ろ向きな今回の件だけど、人命には代えられないって事で即座に動き出したんだけどね。
「「規格外だ……」」
「便利でいいの」
亜空間ワールドの入り口の特性を活かして、まずは湖跡地に空間を繋げた僕。
フェルトさんラルクさんはここが既に深淵の森だという事に驚きを示し、慣れたアクア様はさっさと現場検証に外に出る。
結局のところ、ブルーエアドラゴン対策に動いているのは、僕とジュドとアクア様、フェルトさんにラルクさんの合計四人と一匹。
風光の跡メンバーは、ドラゴン相手には役に立たないからと辞退となり、亜空間ワールド内でセイクリッドジェリーマーメイド達の指導を引き継いでいるよ。
まあ、半分は休養かな。毎日ダンジョンに行ってたからね。
「淘汰、どうやらここにはおらん。ただ魔障石の洞窟近くに気配がある。ありゃ入り口近くだからの。下級魔物も逃げて行くだろうて」
即座に場所を把握するアクア様。でも、ブルーエアドラゴンがいるとわかった途端ため息吐いて「面倒な」と呟いているあたり、本当に迷惑だったんだねぇ。
そんなアクア様の一言で不味い!と思ったのは、フェルトさんとラルクさん。
「待て!だとすると、今日も魔物が押し寄せて来ている可能性が……!」
「確か、今日はCランクパーティが担当の日ですよ……!」
二人の願いで急遽ギルド長室へと繋ぎ、二人が装備を準備してから、亜空間ワールドの入り口をヴェルダンの城壁の外に繋げると……
「あー、やっぱり始まっていたか……!」
城壁の近くまで魔物が近づいている様子に、チッと舌打ちをしつつ、善戦している冒険者パーティ二組に向かって走り出したフェルトさん。
「お前らーー!!!動くなよ!」
「そんな無茶な!」と言う叫び声が聞こえる中、フェルトさんが暗唱し終えて魔物に向かって叫び声と共に魔法を放つ。
「気をつけろー!【業火の雨(ヘルファイアレイン)】!!」
ドドドドドドッと魔物の上空から勢いよくおちる火の雨によって、魔物の集団が叫び声を上げる前に灰になるのはいいけれど……
「あの馬鹿ギルド長!加減しないで放ちましたね!!」
街道の木や草にまで炎が移り、慌てたラルクさんは召喚魔法を唱え出す。
「【水の鳳凰(アクアフェニックス)】!!」
ラルクさんが言い終わると同時に現れた、水属性の鳳凰は辺りの火を沈静化させ、後続の魔物を鋭い水刃で薙ぎ倒して行く。
「うわ……!過剰戦力では……?」
僕が威力に若干引いていると、僕らの方を向いてサムズアップしてCランクパーティ二組と合流したフェルトさんとラルクさん。
……うん、大丈夫そうだね。
「ほほう……我に力を見せつけおったか」
安堵する僕の横でニヤっと笑うアクア様は、どうやらあの二人の存在も認めたらしい。
但し「まだ甘いの」と言っていたのは、伝えない方が良いだろうなぁ。
そんな事を思いながら、僕はすぐさま亜空間ワールドの入り口を魔障石の洞窟前へと繋げたんだけど……
「うっわ!!!」
途端に、最初の頃アクア様に会った時と同じように、凄い威圧感で僕が動けなくなったんだ。
その様子を見て、僕の肩をポンと叩いて動けるようにしてくれたアクア様。そして、何もない空中に向かって叫び出したんだ。
「エア!姿を現せ!」
すると、スッと姿を現したドラゴン姿のアクア様と同等の大きさの青い鱗のドラゴン。
『アクア!どこ行ってたのさ!』
アクア様を見るなり、身体を光らせ人化したブルーエアドラゴンは……
「え?子供?」
僕より小さな子供に変化し、腕を組み睨むアクア様の足元にポスっと抱きついている。
「アクアーー!遊ぼー!」
「だから、我は遊ばんと言っておろう」
「追いかけっこでも良いよ。僕が捕まえるから!」
「話を聞けい……!」
「あ、なんか人間とアレスタックスがいる!なに?食べて良いの?」
「馬鹿者。我を敵に回したいのか?」
「ええーー?どう言う事?って……なんであの人間からアクアの匂いがするの?」
「契約したからの。我の主だ」
「え?だって、アクア、人間なんて下等な生き物だって言ってたじゃん……!………………僕を、おいて行くの……!!!」
どうやらアクア様を取られたと思ったブルーエアドラゴンは、またブワッと大量の威圧を放出し始めてしまったんだ。
僕が慌てる中、ヒョイッとブルーエアドラゴンを俵担ぎにしたアクア様。ブルーエアドラゴンの力を力で抑えつつ、ジュドに目線を送って来たんだ。
理解したジュドは亜空間ワールドの入り口を開けて、僕を連れて中に入り、その後アクア様がそのまま担いで亜空間ワールドに入って来たのは良いんだけどさ。
ジュドが入り口を繋げたのは、江戸温泉街の大通り。
アクア様はポイっと道路にブルーエアドラゴンを投げてジュドに「任せた」と言うけど……!
ちょ、ちょっと!アクア様もだけど、ジュドもなんでここにつなげたの!?メンバーのみんなも居るし、セイクリッドジェリーマーメイド達だって居るのに……!!
アワアワする僕の横でブフンッと鼻息を鳴らしたジュドは、カポカポとブルーエアドラゴンの横に行き、声をかける。
「初めまして、ブルーエアドラゴン様。そして、ようこそ亜空間ワールドへ。ナビゲーターのジュドと申します。そしてあちらに居るのが、我が主の淘汰様でいらっしゃいます。どうぞお見知りおきを」
「は?アレスタックス如きが僕に声かけて良いと思っているの?ふざけるなっ!……って………アレ?」
アクア様に乱暴に扱われるのはいつもの事だったのかそれには触れず、ジュドが声をかけて来たことに怒ったブルーエアドラゴン。どうやら、ここでも威圧をしようと思ったんだろうね。
「ふむ、噂に違わず好戦的ですね。ですが、この中に入ったが最後わがままは言わせません」
睨むブルーエアドラゴンに逆に圧をかけてひれ伏させるジュド。
「え?なんで!?なんで!?」
「貴方の力なんて、アクア様にはまだまだ及びませんし、この空間では私の方が上です。良いですか、我が主と主が大事にしているこの空間を傷つけてご覧なさい。……貴方の命はありませんよ?」
力が全く使えなくなったブルーエアドラゴンは、更に強く圧力をかけられ地面がひび割れる程に押し付けられたんだ。
これまで自分の我がままが通って来たブルーエアドラゴンが、初めて自分の思うように行かなくなってもがいていたんだけど、しばらくするとついに感情が決壊して……
「うあああああああああああん!」
そう、あのブルーエアドラゴンが声をあげて大泣き。しかも、人化した7歳くらいの子供の姿だから、さすがに僕が同情しちゃってね。
ジュドに「もう良いよ」と伝えて、うつ伏せになって泣き喚くブルーエアドラゴンに近づいて声をかけたんだ。
「あのね。君さえ良ければ、ここで一緒に暮らさないかい?力は封じさせてもらうけど、遊び相手になってあげれるよ?仲間だって増えるんだけど……どうかな?」
『マスター、甘い……!甘すぎます……!』
ジュドが念話でなんか言っているけど、僕はずっとブルーエアドラゴンから寂しいって感情が伝わって来ていたんだ。
だから、アイテムボックスから金平糖を出して、泣いているブルーエアドラゴンの口に金平糖を入れてあげた。
「……っク、っ!……なに、これ?」
キョトンとしたブルーエアドラゴンは、甘いって初めて感じたんだろうね。どう表現して良いかわからない感じだったんだ。
「美味しいでしょう?ここには、遊び相手も美味しい食べ物もいっぱいあるんだよ。どうかな?僕の友達になってくれないかな?」
屈み込んで出来るだけ同じ目線で話す僕を、ジッと見つめるブルーエアドラゴン。プイッと横を向いて、腕を組む姿勢でこう言ってくれたんだ。
「……仕方ないから、なってやるよ!但し、いっぱい美味しい物食わせろよ!」
耳を真っ赤にして言った言葉に、僕は「うん」と言いながら思わず頭を撫でていたんだ。
頭を撫でる手をそのままにしていてくれるもんだから、これがデレ期?と思いながら、可愛くてしばらく撫でる僕。
その後ろでジュドが「しつけが必要ですね」と呟き、アクア様は「面倒かけるの」と親目線。
改めて、亜空間ワールドに新たな住民が増えたんだけどね。この後、懐かれすぎちゃって、結局ブルーエアドラゴンとも契約する事になった僕。
その様子を見ていた雅也さんが、ため息と共に吐いた不穏な言葉。
「なんとなく、増えて行きそうなのは気のせいか……?」
僕は、ブルーエアドラゴン改めエアにまとわりつかれて聞き逃したけど……気のせいであって欲しい、と切実に願ったのはこの後の話。
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