第29話 報・連・相は大事。

 アレからすぐ亜空間ワールドに戻って、新たな住民を迎え入れた僕ら。


 取り込んだ水属性の洞窟は、食料島の隣となったんだけど……


 「まさか、全員が来るなんて誰が思っただろう……」


 呆然とする僕とブフンと鼻息荒いジュドの目の前では、快適な湖に喜ぶセイクリッドジェリーマーメイド達の姿があるんだよ。


 珍しいと言われる彼らは、どうやら力が弱く、大概は一生を水属性の洞窟か、庇護者に囲われて生きているらしいんだ。


 で、一度アクア様に打診したんだけど「我は一箇所に止まるのは好かん」と断られたんだって。


 それが今回亜空間ワールドに来てみたら、ジュドの管理の下、危険な魔魚すら穏やかに暮らし、アクア様の棲家もあるし、手入れのやり甲斐がある湖はあるし、で再び保護の打診をジュドに伝えていたらしい。


 ジュドはジュドで、アクア様のお世話係をつけられるからと、打診を即座に受けて満足。


 その上、アクア様だけでなく、セイクリッドジェリーマーメイド達が来たことにより、亜空間ワールドのバージョンアップが1段階進めるらしいんだ。


 でもまだ一定の期間が過ぎてないから、しばらくは江戸時代のままらしいけどね。うん、未だこの亜空間ワールドの仕組みがわかんないや。


 で、喜ぶ彼らが湖で往復する巡航屋形船を見逃すはずもなく。


 「ふむ……この酒はもう少し熱めが良いな」


 現在、アクア様の指導のもと、お酒の燗の仕方を習っていたり……


 「うおっ!美味っっっ!マジ、タコしゃぶ美味い!」(空我)


 「空我!タコの唐揚げ青のり入りイケる!」(力也)


 「え?これマジで刺身?味わい深いんだけど……?」(雅也)


 「タコ飯おかわり!」(楓)


 そう、風光の跡メンバーが食べているゴールドオクトパス料理は、彼らが作ったもの。一度教えただけですぐ出来る彼らの能力は高い!


 え?なんでセイクリッドジェリーマーメイド達が、ー屋形船に乗っていられるのか?料理はどこでやっているのかって?


 ジュドが手の入った水属性岩を加工して、屋形船全体に取り付けたんだ。しかも、調理場も併設させてね。


 おかげで屋形船とは言えない大きさになったよ。でも、教え甲斐があるんだ!説明するだけで完璧に作れるんだよ?すっごい羨ましいよね!


 ついでに彼らに着物を着せたら気に入っちゃってね。しかも、それを基に、水底にある水草で器用に編んでは、一人一人個性的な着物を速攻作り出したんだ!


 「織布も彼らに任せられそうですね」


 その様子を見て、湖畔に水属性岩で工場を作り出したジュド。だけど、セイクリッドジェリーマーメイド達が作る布を鑑定するとね……『水魔法強化/回復魔法付き』になっちゃうんだよ……!


 絶対、この亜空間ワールド内から出しちゃ駄目なやつだ……!!


 それはそれとして、働く事が好きと言う事が判明した彼らを、ジュドが見逃す筈もなく、湖畔に製糸工場、酒造工場を作り出したら、喜んで学ぶ姿勢の彼らに僕は感動。


 労働は、ブラックじゃ駄目だ!と身に染みて実感をした僕だからこそ、1日7時間労働を彼らに厳守させる事にしたんだ。


 でも時間の概念のない彼ら。だったらと、ジュドが作り出したのは……


 「ゴォォォォォォン……!」


 そう、江戸時代でも使われていた時の鐘。湖畔に作り、管理も彼らに任せる為に水属性岩を勿論使っているよ。


 なんせ彼らの数は多い。総勢500人魚でお越しくださったからね。そのうち、湖底に街でも作るんじゃないかってジュドに言ったら、当然のように頷かれたよ。


 でも、それって面白いよねぇ。そのうちアクア様の【同調】をかけてもらって見に行こうっと。


 これからの展望にワクワクしながらも、僕らは現状報告の為久しぶりに亜空間ワールドの入り口をギルド長室に繋げたら……


 「アレ?フェルトさんも、ラルクさんもいない……?」


 お馴染みギルド長室に、顔だけにゅっと出した僕とジュド。


 ……書類は積んであるし、紅茶は湯気が立ってるし、サンドイッチ食べかけだし……


 「そのうち戻ってきそうですから、マスターは亜空間ワールドで待機でも良いですよ?私も入り口さえ繋げたら感知できますから」


 ジュドも僕と同じ状況判断したらしい。そっか、と思って戻ろうとしたところに、バタンッとドアが開く。


 「あークソっ!厄介事っつーのはなんでこう重なるんだ!って、うおっ!生首!?」


 「生首?おや、ジュドさんに淘汰君。おかえりなさい」


 頭をガシガシ掻きながら入って来たフェルトさんが、壁から顔を出している僕らを見て驚き、そのフェルトさんの後ろからヒョイっと顔を出したラルクさんが冷静に僕らを出迎えてくれた。


 落ち着いたフェルトさんが来い来いと手招きして来たので、僕とジュドはギルド長室へ入って行くと……


 「淘汰っ!聞いてくれ!お前んとこに慣れたら飯が不味いんだよ!」


 「確かに……この一週間、食欲は余り湧きませんでしたねぇ」


 途端にフェルトさんにガバっと羽交い締めにされ、頭をぐりぐり撫でられる僕。ラルクさんはジュドを撫でながらも、フェルトさんの言葉に深く同意している。


 「えっと……それはすいません?」


 謝るのもおかしいけど、なんとなく雰囲気的に謝っておいた方が良いのかな、となかなか日本人気質が抜けない僕。


 そんな僕に苦笑しながら、「単なるやつ当たりだから気にすんな」とぐしゃぐしゃと頭を撫でるフェルトさんによって、僕の頭は更にボサボサに。


 そんな感じでいつもの二人の雰囲気に戻ったから、落ち着いてソファーに座って、入って来た時話していた言葉について質問してみたらね。


 「え?街に魔物が近づいている?」


 「ああ、そうだ。ここ数日、街道に出て来る魔物の数が桁違いなんだ。俺やラルクも出張っているから、まだ被害はねえが……」


 言い淀むフェルトさんによると……街道の巡回は三日に一度しているものの、それじゃ裁ききれないほど魔物の数が増えて来ているらしいんだ。


 それも、どうやら種類バラバラで、ランクはCやDの魔物が更に強力な魔物から逃げるように来ているみたい。それで、調査の後に編成部隊を組んで討伐に向かう話しにまでなっているんだって。


 「だから、お前らが帰って来る時にぶち当たるんじゃないかって心配してたんだけどよ。要らぬ心配だったな」


 「亜空間ワールドの入り口機能の事まで思い出せなかったですからね」


 どうやら、僕らが帰る時の事も考慮して計画を立ててくれていたらしい二人に感謝をしつつ、こちらの現状も話してみたんだけどね。


 「は?魔障石の洞窟?んなもん見つけてやがったのか?アイツら」


 「ええっと……ちょっと待って下さい。深淵の森とはいえそんな深くない場所にホワイトアクアドラゴンが出たんですか?」


 「はああああ!?ホワイトアクアドラゴンを従魔にしただと!!?」


 「……!!!本当に深淵の森に大海原のダンジョンがあったんですか……!!」


 「「は!?セイクリッドジェリーマーメイドも居る!?」」


 ……開いた口が閉まらないって、こんな顔なんだなぁと思いながらお茶を啜る僕の横で、呆然とした二人に説明を続けるジュド。


 「彼らは亜空間ワールドにとって優秀な人材です。ともかく、まだダンジョンの深部まで到達していない為、もう少し帰って来るまで時間がかかる事をお伝えしに来たのですが……お二人共、大丈ですか?」


 ジュドの話を聞いているうちに、頭を抱え出したフェルトさんにラルクさん。


 「……たった一週間たたない内に、これだけの問題を抱え込むとはなぁ……」


 はあ、とため息を吐いてソファーに寄りかかり天井を見上げるフェルトさんの横で、考え出したラルクさん。そして導き出したのは意外な言葉。


 「へ?アクア様を追って、深淵の森の一角を担うドラゴンが街に近づいて来てるかも知れない?」


 「急に所在が掴めなくなったホワイトアクアドラゴンは、よく邪魔をされると言っていたのですよね?ホワイトアクアドラゴン程の相手を出来るのは、同じく深淵の森の中ではグリーンフォレストドラゴン、ブルーエアドラゴン、ブラウンアースドラゴンの三匹」


 「なら、おそらく来ているのはブルーエアドラゴンだな」


 ラルクさんの説明から推測したフェルトさんが名指ししたのは、ブルーエアドラゴン。こちらもSSランククラスで、どちらかといえば好戦的な性格らしい。


 ……うわあ、アクア様と性格合わなそう……


 なんて思っていると、ガバッとフェルトさんが頭を下げて頼み込んできたんだ。


 「頼む!淘汰!ホワイトアクアドラゴンに交渉してくれ!だとすれば、俺らじゃ手が出ねえ!だけど放っておくと街に被害が出ちまう!なんとかお前から言ってくれねえか!?」


 「私からもお願いします」


 テーブルに頭がつくほど二人に頭を下げられ、アワアワしてしまった僕だけど、二人の気持ちはよくわかる。


 でも、ここ最近いい笑顔のアクア様の事を思うとなぁ……


 うーん……どうしよう……?

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