第28話 深淵の森での一週間生活 大海原のダンジョン編 ⑦

 「そろそろ一週間過ぎるよなぁ……」


 今日も大海原ダンジョンを航海中、本船はゴールドオクトパス(タコの魔物 群れで襲われると危険ランクB。一匹辺りの大きさは2m。強力な吸盤で獲物にくっ付き、海に引き込み生きたまま食べるのが特徴。とても美味)の群れに遭遇。


 本船は結界で守られているとはいえ、周りがゴールドオクトパスだらけとなり流石に前が見えず、力也さんが風魔法で弱点の目を攻撃しながら撃退している。


 「あー……まさかこんな自体になるとは思ってなかったからなあ」


 同じく撃退中の雅也さん。光魔法の【高速連弾(クイックレーザーポイント)】を撃ちながらも、力也さんとのんびり会話をしているんだ。


 「どうする?戻る?」


 楓さんも今回は参戦。重力魔法を使って結界から剥がす作業を展開中。剥がれた隙に素早く剣で倒している。


 「ここまで来といて戻りたくねえなぁ」


 空我さんは、闇魔法で触手を出現させ、浮いたゴールドオクトパスの核から素早く力を吸い取る方法で撃退中。


 因みに、僕とジュドは二手に分かれて、ゴールドオクトパスを回収していたんだけど、僕とジュドからすると、みんなが何故そんな事を言っているのか不思議だったんだ。


 「えっと……心配ないですよ?」


 僕の言葉に一斉に僕を見るメンバー達。


 「亜空間ワールドは一度開いた場所ならどこでも繋げられますからね」


 ジュドがブフンっと自慢気に鼻を鳴らし「街でも、ギルド長室でも、また戻ってくる事も大丈夫ですし」と言うと、みんながそういえば……!と気付いてくれたんだ。


 「……出たよ。規格外が」


 「空我、今さらだよ」


 呆れる空我さんの肩に、ポンと手を置く雅也さんも苦笑いをしていたけどね。


 そういえば、とりあえず一週間って話だったね。驚きと嬉しい事だらけで、すっかり忘れかけていたけど。


 そもそも、僕の訓練って言っても、冒険者の常識はこれからも風光の跡メンバーから教えてもらえるし、ジュドもアクア様もいる今。


 ……僕は、最近付与魔法くらいしかやってないなぁ。


 少し遠い目をする僕の様子に、「淘汰よ。我が鍛えてやろうか?」と言うアクア様の申し出があったんだけど……うん、全力でお断りさせてもらっちゃったよ。


 僕はサポートメンバーとして迷惑かけない程度でいいからなぁ、と考えていると、考えを読んだジュドがそのままでいい、と言ってくれたからね。うん。この件は、よしとしよう。


 でもまあ、連絡は入れた方が良いとみんなで話しあった結果、明日一度ヴェルダンの街に戻ると言う事が決まったんだ。


 そして気がかりが無くなると、ゴールドオクトパスをどう食べようかと言う話に切り替わる食欲旺盛なメンバー達。


 「タコ刺し!これならいくらでも食える!」


 「ばーか力也。タコ唐揚げが1番だろうが!」


 「タコしゃぶもオツだよ?」


 「タコ飯!これ譲らない!」


 力也さん空我さんは定番料理を押す中、雅也さんはサッと茹でてポン酢で食べるのが好きだったらしい。


 ポン酢って醤油と酢と味醂とレモン汁だっけ……?あ、イケルじゃん!


 楓さんはタコの炊き込みご飯だって。え?お酒に生姜に塩で味付けして、タコ入れるだけ?うわぁ、美味しそう!


 既にぐーぐーとお腹を鳴らす力也さんと楓さんに、とりあえずジュドが焼き鳥を船内に用意すると、タコは?と聞く二人。


 僕が夕食のお楽しみ!と約束すると、納得して食べに行ったんだけど、空我さんも一緒に食べに行ったよ……3人共、よく入るなぁ。


 「ほれ、淘汰。見えてきたぞ」


 船室へ向かう3人を目で追っていたらアクア様から呼ばれ、船首へと向かう僕とジュド。


 「へええ……!青い岩の洞窟なんだ……!」


 海面に入り口だけが顔を出している状態で、現れた次の島?と言うか洞窟。ドラゴン状態のアクア様が入れるくらいの大きな入り口の洞窟だったんだ。


 アクア様によると、洞窟内は海水が流れている為この船のままでも最深部まで行けるだろう、との事。


 「よおっしゃ!じゃ、突入!」


 力也さんの号令で、洞窟へと入って行った僕らを乗せた本船。中に入ってみると……


 「なあ……ここ空気あるよな?」


 「うん、空我。言いたい事はわかる」


 「雅也。俺、目がおかしいかも。魚が空を飛んでいる様に見えるわ」


 「力也兄。大丈夫、私も一緒」


 メンバー全員が唖然とする中、僕も同じように目の前の光景に驚きジュドに抱きついていた。


 だって、洞窟内なのに向こう側の海が透けて見えるんだよ?


 しかも水がないのに、沢山の魔魚や大きな貝やオルギヌスオルガ(シャチの魔物)やゴールドオクトパスやグレードテンクラーケン(大王イカのような魔物)が空中を優雅に泳いでいるんだ。


 「うっわ!洞窟通り抜けられるのかよ……!」


 そう、力也さんが気付いたように、洞窟内で浮いている魔物達は洞窟の外の海と行き来ができるんだ……!!


 「だけどおかしくね?あれだけ攻撃的だった魔物達が、大人しく泳いでいるんだぜ?それも船を避けて!」


 「おかしいのはもう一つ。海の中なのに何でこんなに光が溢れているんだ?アクア様と同調している訳じゃないのに……!」


 空我さんが違和感に気付き、雅也さんも海底の底まで日の光が入っている様な明るさに疑問を抱いていた。


 僕も思わずアクア様に確認しに行くと……


 「だから言ったであろう……つまらんと。ここは、言わばダンジョンの中の休戦空間、故に魔物も鎮静化し襲ってくる事などない。ああ、魔魚達が空中に浮いているのは、水属性の洞窟内だからだの」


 ふああ……と、欠伸をしながら教えてくれたアクア様。まあ、水中の中の景色は飽きるだけ見ているアクア様だからつまらないかもしれないけど、僕らにとっては水族館のようで楽しい!


 それに加えてここは、セーフゾーンとして休憩出来る場所だけでなく、魔魚達の回復にも一役買っている場所らしい。


 ……確かに傷ついた魔魚達が洞窟の中を泳ぎ、傷が治っていくのも確認出来る……!


 「へえ……ここで回復してるのか」


 流石に攻撃してくる訳でもない為、力也さんが言うようにさっき一戦したであろう傷だらけのゴールドオクトパスさえ見逃すしかないけど。


 「アレはレインボーシートータル!?しかもデッカ!何年生きてんだよ……!」


 「空我よ、アレはまだ若い。200年未満だろうの」


 「っつか、アクア様何歳?」


 「我の歳など千を超えたら数えておらん」


 「そういや、ここに1番珍しい人いたわ……!」


 珍しいものは身近に、と言う空我さんとアクア様の会話に笑う僕らが気がつくと、どうやら本船は洞窟の湖底湖についたらしい。


 青い光に照らされたエメラルドグリーンの湖底は、宝石のように輝いて綺麗な光景を作り出していたんだ。


 僕らがそんな幻想的な風景に心を奪われている中、更に下からキラキラ光りながら湖面に上がってくる無数の物体。


 「ほう、奴らが上がってくるのは珍しい」


 メンバーに緊張が走る中、アクア様が「見ておれ」と湖面を指差すと……


 現れたのは、青く透明でありながら光を放つ上半身人型、下半身クラゲの生き物。


 「え……!?まさか……!セイクリッドジェリーマーメイド……?」


 雅也さんが目を見開き凝視している存在が、流石に気になった僕は鑑定を使って調べてみると……


 『セイクリッドジェリーマーメイド(海の精霊)

 上半身は人、下半身はクラゲ(雌雄あり)。全体が半透明で光を放ち、海を癒す能力があると言われる海の精霊。普段は決して姿は見せないが、海の上位者が現れると姿を現し、踊りで歓迎すると言われる。その踊りは光の祭典と言われる程美しく、見たものを癒し、その後の航海に祝福をもたらすと言われているが、真偽は謎に包まれている』


 うわぁ……!海の精霊だって!!……ん?でも待って。海の上位者って……


 そう思ってアクア様の方を見てみると、明らかにアクア様に挨拶をして上空へと踊りに行ってるじゃん!


 え?しかもこっちにも来る……!?


 なんと!色鮮やかなのセイクリッドジェリーマーメイド達が、僕の手を取り上空へと連れて行き、僕に跪いてから踊り出すと言う状況に!


 僕、何も魔法使ってないのに浮いてるし、跪かれるし、なんなの!?とパニックになっている中、下の本船ではジュドがアクア様に止められていたらしい。


 「お放しください、アクア様!マスターが!」


 「ジュドよ、よく見るが良い。あれは最高礼の舞を淘汰に見せておる。淘汰が我の主として契約しているのを嗅ぎ取ったのであろう。なあに、踊りが終われば船に戻ってくるだろうて。……その後は知らんがな」


 不敵にニヤっと笑うアクア様に言われて、不承不承に動きを止めたジュド。


 その一方で、僕といえばこの見事な光景に目を奪われていたんだ。


 その動きは花びらが風に舞うように軽やかで、淡い桜色に体を光らせて上から湖へと降りていく。


 それは、まるで風に煽られた後の桜吹雪を思い出す光景だった。


 「湖底の桜吹雪かあ……!」


 「あ、やべえ。力也と一緒の事思ってるわ」


 「!! 力也兄とまさか同レベルとは……!」


 「空我に楓、素直に褒めてやれよ。ほら力也拗ねてんじゃん」


 同じように思ったメンバー達が力也さんを揶揄って遊んでいる中、僕はゆっくり船に降ろされ、ようやく解放されたんだ。


 そして、最後の一人が僕の手を取り、手の甲にキスをしたかと思うと……


 《我らも共に……!》


 と頭の中に声が聞こえて、直後ブワッとまた桜吹雪のようにセイクリッドジェリーマーメイド達に包まれた本船。


 余りの近さに目を閉じた僕が目を開けると……


 そこは海上の洞窟の前。


 だけど、変わっていたのが本船の帆の色と僕の手の甲に追加された桜の蔦マーク。


 「マスターー!やりましたね!まさか、セイクリッドジェリーマーメイドとも契約するとは!!」


 僕が理解するより先に理解したジュドが、僕に擦り寄ってきてわかったんだけど……


 「えええええ!アレって契約だったの!?」


 「淘汰よ。我がいるところにアレらもついて来るのだ。当然の話だの」


 「そんなん知りませんってぇ!」


 慌てる僕を見て、何を今更と言わんばかりのアクア様。ジュドはといえば、何やらフンフン鼻息荒く洞窟を亜空間ワールドに取り込んでいたし。


 そんな僕らの様子を見て、楓さんと雅也さんとこう言っていたそうな。


 「淘汰は、なにを征服したいの?」


 「あー、本人全くその気はなさそうだけどねぇ……」


 ……もう!こっちが聞きたいよ!

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