第27話 深淵の森での一週間生活 大海原のダンジョン編 ⑥

 賑やかな食事がすみ、それぞれお風呂や鍛錬に戻る中……僕はジュドと一緒に亜空間ワールド内の点検。


 「ジュド、湖おっきくなってない?」


 「生息する種類が増えましたし、何よりアクア様が快適に寝る為ですね」


 「あー……ドラゴン姿で寝るとアクア様デカいもんね」


 「おかげで湖底に快適な洞窟用意できましたし」


 カッポカッポと歩くジュドの背中に乗って、湖畔を散策中の僕らの目的地は、今日取り込んだ食料島。


 あ、今の亜空間ワールド内の様子はこんな感じだよ。(注:携帯画面は横推奨)

 

   畑 畑 畑 田 田   →→→→→

  畑 畑 畑 田 田 田 →→→→→→→

   本館  江戸温泉街 →→→→→→→→→

             →→→食糧島→→→ 休火山

   果樹園   薬草園 →→→→→→→→→     

              →→→→→→→  

               →→→→→


 ……うん、簡単にし過ぎて、縮尺とかその通りじゃないからね。因みに→の部分は湖だよ。ただ、湖の大きさで言えば琵琶湖以上愛知県未満だって。……余計、訳分からん。


 因みに、その周りは陸地が広がっているよ。え?今は北海道くらい?うーわぁ、広大だねぇ……!


 そうなると、まだまだ未開拓部分はあるからね。これはやりがいがあるとはいえ、僕の願いは現代までレベルを上げて、悠々自適生活をおくる事!


 「今も悠々自適でしょうに……」


 ジュドが僕の考えを読んでツッコミ入れるけど、やっぱり目標は大きくないと!


 なんて思っていた僕が、現代になったらなったで驚くのはまだ先の事ーーー


 「そ、それよりジュド、どうやってあの食糧島に行くのさ」


 「それは簡単ですよ。ホラ」


 ジュドが顔を湖に向けると、船着場の横に大型の屋形船があったんだ!


 そっか!江戸時代、屋形船あったもんね!


 「うーわぁ!屋形船乗った事なかったなぁ」


 僕が喜んで屋形船に乗り込んで行くと、ジュドも乗り込んできたけど、ジュドが乗ってもまだまだ余裕があるんだよ。


 入り口から入ると、20畳くらいの船内で大きな掘り炬燵が真ん中を占領している。しっかり障子で囲われた船内は提灯で照らされ、高さもあるからアクア様が乗ってもいいくらい。


 え?トイレもあるって?スライムトイレだから?……ハイハイ。付与魔法かけますよ。


 と言う感じで、トイレに消臭と空気清浄付与魔法かけて、ついでに屋形船と掘り炬燵にも、断熱と空気清浄と温度設定付与魔法をかけたんだ。


 うんうん。いい雰囲気だし、ゆっくり出来るねコレ。


 ジュドによると、この屋形船は巡航船。時間になったら出航し、1日のうち決まった本数を、この船着き場と食料島の船着き場を行き来する自立式なんだって。


 「でもさぁ、ジュド。転移魔法で行けば一発だよね」


 「マスター、甘いですよ。快適とは、自分だけ良ければ良いと言う考えじゃ作れません。いかなる対象も快適に過ごせる事、コレが前提としてあるんです」

 

 ブフンと鼻息荒く言い切ったジュド。

 

 ……はい、そうですね。


 まあ、ジュドはなんだかんだいって、快適な空間が欲しいって僕の願いを考えて作ってくれているんだからね。感謝だよなぁ。


 「あ、ジュド。この屋形船、甲板もあるの?」


 「ありますよ?船首に作ってますけど、外出ますか?」


 「うん、出てみたい」


 早速、船首甲板に向かう入り口を開けると、ブワっと寒い空気が僕を包み込む。


 いつのまにか動き出していた屋形船。雪も散らつき、一瞬にして身体の熱を奪っていったんだ。


 「うーわあ!さみーーー!!」


 「だから聞いたんですよ?ホラ、早く中入って下さい」


 ジュドに言われるまでもないけど、僕は寒い中だからこそより一層澄んで見える夜空を見上げる。


 ……亜空間ワールドでも夜空があるんだよなぁ。現代と違って夜景があるわけでもないから、より一層はっきり見えるや。


 理屈はわからないけど、湖に映る月や星の綺麗な景色は僕の心を一層感動させる。……だけどね。


 「うーわあ!寒い!!!もう駄目だ!」


 バタバタと船内の炬燵に直行すると、「ククッ」と笑い声が聞こえた。


 「人間は弱いの。とはいえ、淘汰はもう少し鍛えよ」


 顔を上げると、向かい側の席でゆっくりお酒を飲むアクア様の姿があったんだ。アレ?いつの間に?


 どうやら面白そうな乗り物が湖に出来たから、様子を見にきたアクア様。ジュドはとっくに把握していて、湯豆腐とお燗のお酒を用意していたみたい。


 「あ!ジュド!良いな、湯豆腐!僕にも!」


 身体の芯まで冷えたから、あったかいものが欲しかったんだよね!


 身体を鍛える様に言われた事はスルーしつつ、ジュドにすぐ用意してもらった湯豆腐を口にする。


 「んー!あったまるー!」


 僕が聞かなかった事にした姿を見て「仕方ない主人だの」と苦笑するアクア様と、ホカホカの船内でゆったりとした時間が流れる。


 「そういえばアクア様、次の島って何の島ですか?」


 「次は島と言えるかの……海底へと続く洞窟があるだけの場所だ。我は特に興味がなかったのでな、そこは飛ばしておったわ」


 アクア様にとってはダンジョンの海底も大した事がないとはいえ、聞いてみたら僕らは興味深々!


 「え?もしかして鍾乳洞みたいな感じですか?」


 「その『しょーにゅど』は我には分からんが、滅多に現れる事のない魔物も居るし、岩自体が水属性の岩で人間にとっては貴重らしいの」


 へえーと頷く僕の横で、ジュドは「取り込み案件ですね」と何やら乗り気。


 後は行ってからのお楽しみと笑うアクア様は、美味しそうにクイっとお酒を飲み出した。


 アクア様って実は、ゆったり静かに飲むのが好きらしいんだよね。だから僕も後はジュドと会話をしつつ、湯豆腐を堪能したんだ。


 そんな僕らの会話にたまに入ってきては、僕の事を聞いてくるアクア様。


 ……そういえば、こんなにゆっくり僕の事話した事がなかったよなぁ。


 なんて思いつつ、僕の生い立ちや仕事や日本の話をして、アクア様とジュドとも良い親睦の機会になった屋形船での一時。


 食料島についても話題は尽きず、結局そのまま停泊時間がすぎてそのまま屋形船で戻ってきたんだけど。


 気持ちいい時間って、やっぱり眠くなるんだよ。


 結局寝落ちした僕は、ジュドに連れられてちゃんと自分達の部屋に戻ってたんだけどね。


 翌朝、本船に乗り込もうとした時に、風光の跡メンバーに屋形船が見つかって、ダンジョンへの出航が伸びてしまったのはお約束。


 「すっげえ、良いなあれ!」


 「ああ、あの船で宴会も良いな」


 「つか、今日の夜は屋形船で食べようぜ!」


 「……湯豆腐狡い」


 力也さんは、提灯の雰囲気が日本っぽくて良いとはしゃぎ、雅也さんは旅行で乗った時を思い出したみたい。


 空我さんは安定の宴会好きで、提案というよりもはや決定済み。楓さんは、ツマミが羨ましかったみたいだね。

 

 まだ出していなかった、田楽や各種鍋、煮物やおでんもつける事を約束させられて、次なる島へ出航した本船。


 さあて、次は何が待っているのかなぁ?

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