第21話 深淵の森での一週間生活 ⑥
食べて飲んで騒いで歌ってーーーー
……僕はいつ寝たんだろう……?
目を覚ましたのに、真っ暗だし。
「マスター?起きましたか?」
「その声はジュド?」
ジュドの声が聞こえたと思ったら、フッと辺りが明るくなった。ん?ああ、魔道ランプがついたんだね。
昨日は、ジュドが寝ていた僕を運んでくれたらしい。それで、いつものようにジュドと一緒に寝ていたんだけど……
「ジュド?ここって中庭の蔵の中?」
「そうですよ?蔵と言っても特に入れるものもありませんから、私の寝床にしました」
「にしては凄い綺麗だね」
「マスターの寝室も兼ねてますから」
ジュドがフスンッと自慢気に息巻くのもわかる。
白い壁に黒い梁。畳敷きは勿論、ふわっふわビックファビットの敷物が敷かれた上に、自慢の大判敷布団が敷かれていて肌触りがサラサラ。
僕はジュドの体温とシルクのかいまき毛布で、ぬくぬくのほこほこ。正直、この場所から抜け出したくない……!
「さ、みんなも起き出しましたよ?マスターもそろそろ起きましょう」
そう言いながらも僕の顔をペロペロ舐めてくるジュドのせいで、起きるに起きれない。
「くすぐったいって!ジュド」
ジュドと戯れつつもようやく起き出した僕は、着替えとトイレを済ませて外に出る。
因みに蔵にもトイレがちゃんと作られてたのは、さすがだったね。早速付与魔法かけまくって、便座も作って貰ったよ。
そういえば、江戸時代ってインフラしっかりしてたんだね。下水の整備がされていたんだよ。しっかり管理もされて臭いなんてなかったんだって。
因みに亜空間ワールドでは魔法も駆使してるから、更に快適だけどさ。
使用した水は浄化させて、街中を走る川に戻しているから安心だし安全。お水もたっぷり使えるからお風呂も朝から入れるって。
「いいね!朝風呂!」
「あ、今は雅也と空我が入ってますね。楓と力也はまだ夢の中のようです」
「そっかぁ。じゃ、いいや。ところで、アクア様は?」
「起きてらっしゃるようですよ?様子を見に行きますか?」
「行く!」
こういう時はジュド用通路が便利だね。誰の邪魔もせずに外に出られる訳だし。
ジュドと共に本館を通り抜け、見応えのある回廊式庭園を横目に家の門までくると、向こうの通りから既にいい匂いが立ち込めている。
「ジュド?商店街の食べ物屋さんもう動かしてるの?」
「いつでも食べれるようにしておくと、便利だと思いましたし」
今は大食いメンバーがいますから、と準備万端のジュド。うん、確かに……!起きてすぐ勢いよく食べるもん。特に今寝ている二人。
「あれ?うなぎ屋が開いてる!?」
門を抜けて商店街に入ると、昨日は閉まっていた鰻屋の店に暖簾がかかっていたんだ。それも香ばしい匂いを辺りに漂わせて。
「昨日湖を取り込んだら、ビックシルバーイール(Cランク 3m級の鰻の魔物。キングクラムやマッドマロンクラブが主食の為美味)がいまして。アクア様の棲家だった事もあり、綺麗な水で生息していた為、すぐ食用に回す事ができたんです」
「そっかぁ!成る程ね……!」
頷いてジュドの話を聞きながらも、気がそぞろの僕。蒲焼の匂いって本当にお腹すくんだよ。
「アクア様を連れてすぐ戻ってこよう!」
匂いに負けずに、まずはアクア様に挨拶に行く事にした僕達。
ジュドによると、アクア様の湖は商店街の先の広場辺りに作ったらしいけど……
「うーわぁ……ジュド、頑張ったねぇ」
なんと未開発の土地がほぼ湖になっているくらい大きな湖を作ったらしい。え?日本でいうと、琵琶湖くらい?……デカいね。
湖には、キングクラムもマッドマロンクラブもビッグシルバーイールも勿論いるらしい。ジュドが数を管理できているから、諍いもなく湖で泳いでも大丈夫なんだって。
湖からくる爽やかな風がすごく気持ちよくて、しばらく風と光を感じていると、パアアッと湖面が光ってアクア様が現れたんだ。
「淘汰よ、とても良い棲家に感謝する。こんなにも穏やかに過ごせるのは久しぶりだ」
人化したアクア様は着物が気に入ったらしく、着物を既に着こなした姿で現れたんだ。一応、楽な甚兵衛も渡しているんだけどね。
「ジュドが頑張ってくれたおかげですよ。それより、朝ごはんに鰻食べに行きませんか?」
「おお、何やら嗅いだことのない匂いがすると思ったら、それか!」
起きたばかりで空腹を訴えるアクア様と雑談をしながら来た道を戻っていくと、お店巡りをしている空我さんと雅也さんも見つけたんだ。
「おはよう。淘汰とアクア様とジュド」
「ぐもも……っはよ!アクア様と淘汰にジュド」
雅也さんは笹の葉に包まれたおにぎりを持って、空我さんは両手におにぎりを頬張りながら歩いていたんだ。味噌焼きおにぎり美味しそうだったもんね。
「空我の食いっぷりは見事よの。まだ入るようなら鰻とやらを食べに行かぬか?」
昨日の宴会で仲を深めたアクア様が、先に二人に声をかけたんだ。二人とも勿論、即了承。
四人と一匹で鰻屋の暖簾を潜り席につくと、ジュドが出来立ての鰻丼を出してくれた。ほっかほかでジュウウウとタレが染み込んでいるのが、これまたたまらない!
ガツガツと食べる空我さんに、しっかり味わって食べる雅也さん。僕もしっかり味わって食べてたら、隣のアクア様はもう三杯目。食べるの早っ!
そんな賑やかな食事中に、僕は気になっていた今日の予定を確認したんだ。
「今日はアクア様のナワバリの探索でしたっけ?」
「そ。それもアクア様がいるから、湖底の洞窟探索だ!」
僕の質問に嬉々として答えたのは空我さん。斥候職だからいろんな経験しておきたいって乗り気だったんだよ。
「それにしても、アクア様の【同調】は凄いですよね。それをかけて貰うと、水中でも陸地同様に息ができるようになるんですから」
「まあ、我には不要なものとばかり思っていたからな。昨日、話に出て思い出した程度のものよ」
「いやいや、十分凄いですから!あ、でも、水中の情報が増えるのは嬉しいです。それに、ジュドも一緒に行けるんですよね!」
雅也さんが言ったアクア様の【同調】魔法は、水中を陸地のように動ける魔法だから、泳げないジュドでも水中移動可能なんだって。すっごいよね!
「うむ。それに、洞窟の中に入ってしまえば空気があるからの。魔法に頼るのは洞窟に行くまでくらいなものだ」
既に五杯目のアクア様。ズズッ……とお茶を啜りながら、サラッと重要なワードを言ったような?
「ん?アクア様?水中の洞窟で空気があるってどういう事ですか?」
あ、雅也さんも気になったらしい。アクア様を見ると、ニッと笑ってこう言ったんだ。
「昨日は言わんかったが、我の遊び場よ。確か、人間達はダンジョンと言っておったな」
アクア様の言葉に、ガタガタッと席を立つ僕達3人。
「それって……!もしかして、『大海原のダンジョン』ですか!?」
「すげえ!早速ヒットじゃん!雅也!」
「えええ!僕まだ初心者ですよ!?」
三者三様の反応に「「「んん?」」」と顔を見合わせる僕達。
そして「「そういえば……」」と声を揃えて言う雅也さん空我さんのみならず、アクア様まで「そうだったのか?」と聞いてくる始末。
皆さん、お忘れじゃないでしょうか?一応、今は僕の訓練期間だって事……?
「よお!置いていくなよ!」
「お腹すいた……!」
そんな間の空いた時に入ってくる力也さんと楓さん。何があったと聞いてくるから、説明すると……
「そんなん、淘汰ならなんとかなるって!それよりやっぱりあったんだな!ダンジョン!」
「絶対行く……!」
席について鰻丼を掻っ込む二人に、「だろ?」とノリノリの雅也さんと空我さん。
ジュドは「なんとかなりますよ」と楽観的だし、アクア様は「何かあったら我を頼れ」と言ってくれているし。
……うん、なんとかなりそうだね。
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