第22話 深淵の森での一週間生活 大海原のダンジョン編
……うん、なんとかなりそうだね。
安堵した僕も含めてしっかり食事を食べ終えた後は、全員でダンジョンに向けて出発準備に入ったんだ。
僕は簡単装備だけだからすぐだしね。
そして、本館の入り口に全員集合してから、亜空間ワールドの利点(一度繋がった場所へ再接続できる事)を利用して、昨日の湖から出発することになったんだ。
「楽だなぁ。この能力」
「力也兄、やっぱり違う」
「この景色見てそっちかよ」
「まあまあ、力也だしね。でも、これはものすごいね……」
亜空間ワールドから湖があった場所に外にでると、景観が思いっきり変わっていたんだ。その光景よりも亜空間ワールドの力に注目する天然の力也さん。メンバーからいつものツッコミも聞こえてきたんだけど……
うん、確かにこれはものすごい……!
僕も湖の跡を見るのは初めてだったからね。まさか、ジュドが亜空間ワールドに地形ごと取り込んだと思わず、唖然としちゃったんだ。
だって湖のあった場所が大きな穴になっちゃっているんだ。鬱蒼とした森にできた大きな穴……!空から見たら、隕石でも地面に衝突したか!?って思うほどだったんだ。
「ん?ならばまた水で満たせば良かろう?」
僕らの懸念を察したアクア様。サラッとなんでもない事のように、手を前に出して魔力を放つと……
湖底だった地面が割れて、大きな噴水のように水が勢いよく吹き出してきたんだ。
その光景は幻想的で、吹き出した水が光に反射して虹をうみだし、幾つもの虹がかかる湖へと戻っていった。
「流石ですね、アクア様」
「なに。ジュドには及ばんよ」
カポカポとアクア様の側に近づき、賞賛を伝えるジュドに、謙遜はしているけど満更でもないアクア様。
そんな様子を見てた空我さんが僕に一言。
「アクア様とジュドを従えといて、不安だとかは言わせねえぞ?」
「………ですね」
この二人?がいれば大抵の事は心配ないな……と遠い目をしてしまった僕を尻目に、アクア様が次の行動に出たんだ。
「では、我に乗るといい」
自らすすんで竜の姿に戻ったアクア様。両手を地面につけて、乗るように「ヴォ」と僕らに呼びかけてくれた。
ジュドは1番に乗り込み、その後を嬉しそうに風光の跡メンバーが乗り込む。ドラゴンの手に乗る経験なんて、一生に一度だってあり得ないからね。
僕もなんだかんだいって、ウキウキと手の上に乗る。
『淘汰。飛ばされないよう手の周りに結界を張れ。温度の調整も任せるぞ』
アクア様に竜語で指示を受けた僕は、早速結界を張り、その結界に空気循環と適温の付与魔法をかける。
僕の魔法が発動したのを確認したアクア様は、翼を広げて力強く空に飛び立ったんだ。
「「うおおお!」」「すっげー!」「……綺麗」
風光の跡メンバーがテンションを上げる中、結界のおかげで息苦しくも寒くもならず、快適な空の旅を満喫する僕ら。
下の景色は線のようになっているからかなりのスピードなんだろうね。それでも、アクア様が気を使って飛んでくれているのがわかる。
……振動もないから飛行機より楽だなぁ。
呑気にそう思っていると、もう目的の湖に着いたらしい。
ジュドによると、アクア様だからこんなに早く着いたのであって、僕らが飛ぶと最低でも一日はかかる距離だったらしい。
うん、凄すぎてわかんないや。……これに慣れたら大変だね。
街にドラゴンに乗って行くなんて混乱を呼ぶだろうし、と僕が妙な事を考えていると、地面に到着したアクア様が僕らに降りやすいように両手を地面に近づけてくれた。
「到ーー着っ!」
「すっげー!俺の夢叶ったー!」
すかさず地面に飛び降りる力也さんとテンションの高い空我さん。
「空我、珍しくテンション高い」
「楓はこんなときでもマイペースだねぇ」
スッと降りる冷静な楓さんにそんな事を言う雅也さんも動じないよなぁ、と思いながらジュドと一緒に地面に降りると、パアアッとアクア様が光り、人化した姿に戻ったんだ。
「あれ?アクア様、ドラゴン姿で行くんじゃないんですか?」
「いや、たまには我も淘汰達と同じ立場で行ってみようと思ってな」
僕の質問に答えてくれるアクア様だけど、着物と下駄(昨日ジュドが作った)姿なんだもん。一見、夏祭りに行くのか?って思うよなぁ。
「おー!アクア様と共闘できるなんてラッキー!」
「うん。いっぱい稼げる」
まあ、姿なんて関係ないと思っている力也さんや楓さんは大喜びだけどね。だけど、そんな二人からはもうお腹の音が聞こえてきたんだ。
へへっと笑いあう力也さんと楓さんの姿に、アクア様もお茶にしたいという事で、湖の湖畔で休憩する僕ら。
深淵の森でお茶って凄い事だよね……うん、考えたら負けな気がする。
なんて僕が思っているのに、今回ジュドが用意したのは、なんとおでん!江戸時代におでんあったんだねぇ。(もはや遠い目)
「野菜もラルクのおかげで種類が増えましたし、白身魚や貝にお肉も沢山ありますし、良いかと思って」
ジュドの説明に歓喜する元日本人組。アクア様は物珍しそうに見て楽しんでいたけど。
ただ、流石に量が凄いよ……!
大食いメンバーだから張り切って作ったというジュドのおでんは、大きなおでん鍋に具がぎっしり詰まってて、味が染みてて美味しそうだけどね。
ただ、卵は足りないんだって。一人一個って言われたんだ。1番に味付け茹で卵を食べて、卵の旨さに目覚めたアクア様はここでやる気に満ちた。
「なんと!卵とはこのように美味いものだったとは……!これはなんとしても、プリマスランドレッドを捕まえねば……!」
因みにジュド曰く、プリマスランドレッドは、ニワトリの魔物らしいけど幻の鳥なんだって。肉質も卵も最高に美味いらしく、ダンジョンの中でしか見つかった事がないらしい。
力也さん達も知ってたけど、かなりの希少種で売りに出されると、必ずオークションにかけられるほど高額で食べた事がないみたい。
という事は……!これから行くダンジョンに確実に居るって事……!?
俄然やる気になった僕は、アクア様と力也さんと楓さんに後でしっかり食べさせるからと説得して、即座に片付ける。
「アクア様、お願いします!」
急にやる気になった僕に苦笑いしながらも、全員に【調和】をかけてくれたアクア様。
どうやら【調和】という魔法は、伸縮性のある薄い膜が体全体に張り伸ばされるもので、手をみると姿が二重に見えて面白いんだ!
僕と同じようにみんなが面白がっている中、最初に湖に飛び込んだのは斥候の空我さん。
「アクア様の視界も同調しているからか、底までハッキリ見えるぞ!」
来てみろ!と誘う空我さんの声に、次々と湖に飛び込む僕ら。
ザプンッと湖に入っても視界は良好だし、息苦しくない!
『綺麗……!』
『うわっ!声が聞こえる?』
『え!本当だ!』
しかも楓さんの声や雅也さんと力也さんの声が聞こえてくるんだよ!?会話までできるなんてすごい!
『我の力と同調すれば容易い事よ。さあ、まずは我の遊び場へ行くぞ』
はしゃぐ僕らの姿を笑いながらも、前を行くアクア様は水中なのに歩いて移動しているんだ。アクア様の隣で陸を歩いているように進むジュドもいるし。
不思議な光景だけど、面白すぎる!
よーし!初ダンジョン、気合いを入れていこう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。