第20話 深淵の森での一週間生活 ⑤
「我ほどの年を重ねると人化もわけないのだ。何より、ジュドがその方がより多く楽しめる、と勧めおるし」
………ジュド、すごいね。なんか仲良くなってない?
「マスター、アクア様はこの世界にとても興味をお持ちです。いっそ、アクア様も引き込みませんか?」
「ジュ、ジュドぉ!本人の前!言葉、選ぼうね!」
「なに、構わんよ。ここの中に入ったらお前さんの方が力が強い。何よりこの世界に溢れる神気は心地よい。深淵の森の棲家よりもな」
……ん?神気って何の話?
『マスター、亜空間ワールドの力の元ですよ。創造神の力が託されてますからね』
僕の考えを読んだジュドが説明をしてくれるけど、そんな大層なもんだったなんて知らなかったし。
「えっと……?という事は、ホワイトアクアドラゴン様が力を貸してくださると考えて良いでしょうか?」
「ふむ……そうだの。むしろ、我を使役してみるのはどうだ?」
突然の申し出に「は?」と間抜けな声が出ちゃった僕だけど、ジュドが代わりにホワイトアクアドラゴン様に交渉を始めちゃったんだ。
「アクア様、見返りは亜空間ワールドの土地でよろしいですか?」
「うむ。こんなに心地よい場所に過ごせるならば、多少の年月拘束されようと釣りがくるわ。湖は勿論つくれるのだろう?」
「アクア様の棲家の湖を取り込ませて頂けたら出来ますよ」
「ほう、さすれば湖全体が神気に満ちるのか……!」
ジュドとアクア様の交渉をしている姿に唖然とした僕だったけど、風光の跡メンバーは僕の後ろで興奮中。
「うっわ!すげえ!マジで人化出来るんだな!」
「力也兄、そこ?」
「むしろ、従魔になるってとこだろうに……!」
「空我、良いんだって。それが力也だからな。でも、そうなると、俺達も行動を共にする事になるんだな……」
何やら雅也さんが冷静に考えているけど、僕としては、え?大丈夫?って不安でいっぱいなんだけど?
なんて考えている内に、話を終えたジュドに呼ばれてアクア様のところに近づくと……
『では、契約に入ろう。我、ジュディン・アクア・ドグラルは、冴木淘汰を主人とし、主人の生涯中常に仕える事を盟約する』
スッとアクア様が僕の目線にまで屈み、さっさと竜語で盟約を語り終えちゃったんだよ!
あまりの急展開に「へ?」と驚く僕と、してやったりと笑うアクア様。
「これでもう、美味い飯と居心地のいい棲家を探さんでも良くなるな」
ニッと笑って「これからよろしくな」と僕の頭に手を置くアクア様曰く……
静かな場所でのんびり過ごすのが好きなのに、いつも他の魔物の邪魔は入るわ、他のドラゴンのナワバリ争いで巻き込まれるわで、最近はストレスが溜まっていたところだったらしい。
イライラしながら比較的静かな湖に戻ってきたら、タイミングよく棲家を荒らしていた僕らがいた訳で……
「気晴らしに殺すところだったわ。すまんの」
って言われてさ。僕、竜言語わかっててよかった……!!と心から創造神に感謝する一幕もあったりしたんだ。
自己申告だけど、本来のアクア様は、気ままに人間の街にぶらりと現れるくらい温厚なんだって。
言われてみれば、今のアクア様の雰囲気が柔かいかな。
とまぁ、良い雰囲気になってきたところで、これから行動を共にする風光の跡のメンバーを、僕の仲間としてアクア様に紹介したんだ。
「ふむ、面白い。淘汰の仲間となると、我にも仲間が出来たという訳か。こりゃ、愉快だの」
むしろ、アクア様の方から手を伸ばし握手をするという光景に、僕はちょっとホッとした。
おかげで、力也さんはちょっと緊張してたけど、空我さんは元気に、楓さんはマイペースに、雅也さんは穏やかに挨拶が終わり、僕はみんなを拠点となる本館に案内したんだ。
因みに、ジュドにはアクア様の棲家だった湖の取り込みに行って貰ってる。アクア様は寝る時はドラゴンの姿で寝たいって言ってたからね。
そうそう!江戸時代にバージョンアップしたから、本館もリニューアルされたの覚えてる?
みんなを案内するついでに改めて紹介するね。まずは、入り口の門を潜ると……
「ここは兼○園か……?」
力也さんがぱかーっと口を開けたまま見惚れるほど、見事な回遊式庭園が出来てたんだ。
あ、回遊式庭園って大きな池を中心に配し、その周囲に園路を巡らして、築山、池中に設けた小島、橋、名石などで各地の景勝などを再現した庭園だよ。
それに加えて、ところ何処に休憩所や茶室まであったんだ。空我さんなんか「俺らここで住んでも良いんじゃね?」だって。
いやいや……!本館に部屋があるはずだからって思わず説得しちゃったよ。
マイペースなアクア様は、池を見て「我が住むには狭過ぎる」って言ってたけどさ。池も結構広いけどドラゴン用でないのは確かだね。
そして、しばらく歩いてようやく着いた本館の玄関を開くと、大きさが異世界版の武家屋敷だったんだ。2mのアクア様でも天井に余裕があるくらい高いんだよ。
「おおーー!襖を開けても開けても部屋がある!」
武家屋敷にテンションの上がった空我さん。慣れたように靴を脱いで、スパンスパン襖を開けて中を探検して歩いていると、中庭もある事に気づいて僕らを呼びにきた。
僕らもその後に続いて入ったら、これまた風流な日本庭園があったんだ。
「へえ、中庭も手が入っているし、蔵まであるとはね」
雅也さんは蔵のある景色が気に入ったのか、どっかりと腰を据えて見入っていたなぁ。ボソっと酒が有ればなぁって聞こえてきたから、お酒とツマミ出したらアクア様も腰を据えちゃった。
「あ!おっきいお風呂!!」
二人にお酌しながら、楓さん何処行ったんだろうって思っていたら、奥から楓さんの嬉しそうな声が聞こえてきたんだ。
ジュドはもうお風呂に入れるようにしていたんだね。
銭湯のように広くて洗い場もある浴室に、楓さん目で入りたいって訴えてくるんだもん。タオルを渡して「お先にどうぞ」って言ったら、鼻歌歌って入って行ったよ。
そして中庭が見える部屋に戻ると、空我さんと力也さんも加わって、アクア様を囲んで親睦会が既に始まっていたんだ。
アクア様が穏やかになったものだから、3人共色々質問攻めにしてたけど、困っている様子もなく、むしろ楽しんでいたアクア様。
楽しそうな雰囲気はいいけど、やっぱりこのメンバーじゃ食べ物がなくなるのが早い早い。
だからある程度アイテムボックスから出来合いの料理を出して、僕は料理を作りに台所に向かったんだ。
で、台所に入って一言。
「うーん!やっぱり釜があるのって風流!」
そう、江戸時代になったから、ご飯釜があるんだよ!それにお酢もあるし、魚や貝も手に入ったとなると……
「やっぱり寿司でしょ!」
「じゃ、巻き簀でも作りましょうか?」
僕がワクワクして調理台に立っていると、台所の側の通路から顔を出すジュド。どうやらこの屋敷にはジュド専用の通路があるみたい。
良いところに!と思った僕は、ジュドに巻き簀と押し寿司用の容器を作って貰って、早速料理開始!
お米を洗って、かまどに火をつけて、お釜をセット!その隣で油を鍋にたっぷり入れたら、小麦粉をかるく溶いてっと……
「ジュド!天麩羅はよろしく!」
「わかってますよ」
へへっ!ジュドが出来る料理に天麩羅が加わったからね!大食いのメンバーが増えたから、いっぱいあげてもらうんだ!
ん?アレスタックスのジュドがどうやって料理するのかって?
亜空間ワールド内ではジュドに出来ない事はないんだ。一瞬でも加工出来るけど、時間がある時は僕に合わせて浮遊魔法?念動力?で作ってくれるよ。
具材が勝手に動く光景は、まあ相変わらず不思議だけどさ。
忙しく動いている間、楓さんもお風呂から上がったらしく、宴会に合流したんだろうね。お座敷から更に賑やかな声が聞こえてきたんだ。
その様子に、ジュドが僕のやっている作業を変わってくれて、みんなの側へ行くように言ってくれたんだよ。
ジュドー!ありがとう!!
優しいジュドに感謝をしつつ揚げたての天麩羅とお寿司を持って、僕も宴会場へ突入!
「さあ、まだまだありますよー!いっぱい食べて下さいねー!」
メンバーの歓声と、その様子さえもツマミにしているのか、美味しそうに酒を飲むアクア様。ジュドも中庭に移動してきたからこれからが本番だね!
今日は騒ぐぞー!!
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