第19話 深淵の森での一週間生活 ④
【ほう……ただのアレスタックスではなかったか。だが、まあいい。まずは、その食い物を我によこせ】
寄越せと言われても……!
『恐れ入ります、ホワイトアクアドラゴン様。我が主もその仲間もまた貴方様のお力の前では、動く事は叶いません。どうか威圧を止めて頂けませんか?』
よくぞ言ってくれた!ジュド!そうなんだよ!身体が萎縮しちゃって動かないんだ。おかわり作らなきゃって思っているのに……!
【ふむ……つい美味そうな匂いに、奪われない為の威圧が出ておったか】
すると、いきなりフッと身体が軽くなり、動き出せるようになった僕。ホワイトアクアドラゴン様が威圧を解いてくれたんだね。
【これでよかろう。どれ……】
ホワイトアクアドラゴン様は僕らが動くのを待てなかったのか、キングクラムのバター醤油炒めのお椀を持ち上げて、一気に口に流し込んだんだ。
【うっ!!!コレは……!!】
食べながらグオッと鳴くもんだから、こっちは何かあったかとハラハラしてたんだけど……
【もっと寄越せ!コレじゃ足りん!】
更に【早く!】となんとも子供のように駄々を捏ね始めたホワイトアクアドラゴン様。
僕らも急いで作り始めたんだけど、出来た側から奪われるし、合間に出したジュドのお団子やぼたもちも、すぐにペロリと食べきっちゃうんだ。
そしてお酒も一口で飲みきっちゃうんだよ。だって、身体が高層ビルのように大きいんだもん。その様子に雅也さんなんか、飲み干される度に残念そうな顔してたし。
うん、大丈夫!生きてたら浴びるように飲ませてあげられるから!
そんな中、僕らは必死!で作り続け、自分達も食べたかったけどそんな暇はないと来た。で、当然材料が先に無くなるわけで……
「すみません、もう材料がございません……」
全員が精神的肉体的に疲れた状態で、ホワイトアクアドラゴンに申告したんだけど、まだ3分の一程も満足していないそうで、【食い足りん!】と跳ね返されちゃった。
どうしよう……?力也さん楓さんは既に空腹により戦力外。空我さんも同様でへろへろ。雅也さんと僕だけだと時間かかるし。
万事休すか……!と思ったその時……
『ならば、ホワイトアクアドラゴン様。我が主の世界にお越し下さいませんか?』
ジュドが提案したのは亜空間ワールドへの招待。
えええ!!!だってあそこに入れるのは、僕に危害を加えない存在だけじゃん?ホワイトアクアドラゴン様、弾かれるに決まっているよ!
【ほう……先程感じた妙な気配か……!そこに行けばたらふく食えるのか?】
『勿論です。我が主の力をご覧にいれましょう』
僕がアワアワしていたら、ジュドとホワイトアクアドラゴンの間で決まってしまったこの後の予定。
『マスター、亜空間ワールドに連れて行けさえすれば大丈夫です』
そんな中、ジュドが僕に送って来てくれた念話。ランクアップしたジュドからの確信のこもった言葉だ。
うん!ジュドを信じてやってみよう!だけどその前に……
「ホワイトアクアドラゴン様!今しばらくここで食材を仕入れる事をお許し下さい。ホワイトアクアドラゴン様には、我が僕のアレスタックスのジュドをおつけ致します」
僕はメンバーにもちゃんと説明したい……!その時間が欲しくて、時間稼ぎを願い出たんだ。
【よかろう。アレは美味かった】
意外にもすんなり許可が出たけど、多めに用意せよとの注文も当然来たわけで……
「畏まりました。では、ジュド。ホワイトアクアドラゴン様を任せるよ」
『はい、マスター。では、先に行ってお待ちしております』
僕の意図を汲みとってくれたジュド。今回は入り口を地面に出したようで、ホワイトアクアドラゴン様の巨体と共に一瞬で亜空間ワールドに移動していったんだ。
で、残されたのは、この状況についていけない四人のメンバー達。
とにかく僕は、空腹で動けない力也さん達の為、アイテムボックスから肉を出して焼いていく。
江戸にランクアップした事で、みりんが手に入ったからね。今回の味付けは、照り焼き一択でしょ!
アイテムボックスから既に捌いていた肉を取り出し、ジュワジュワと焼き上げていくと、色々言いたい事はありそうだったけど、香ばしい匂いに負けてまずはガツガツと食べ始めた四人。
僕は焼き続けながらも、そのまま聞いて欲しい、と亜空間ワールドについて語り出す。
僕には、人も住める亜空間ワールドと言う異次元スキルがある事。
ジュドがナビゲーターである事。
文化と亜空間が成長する事。
亜空間ワールドを充実させる為に採取が必要な事ーーー
出来る限りわかり易くいったつもりだけど、やっぱり驚いたのか言葉もなくジッと僕を見つめる四人。だけど、いち早く復活したのは空我さん。
「ん!見なきゃわかんね〜事がよくわかった!けどよ、淘汰。そんな大事な事話してくれたって事は、俺たちを信頼してくれたって事だろう?」
空我さんが肉を頬張りながら、ニッと笑って僕の肩に腕を回す。
「まあ、こんな流れになったのは予想外だったけど、淘汰君が俺達に打ち明けてくれた事が嬉しい。それに、俺達もスキルの成長の為に協力していいって事だよね?」
僕の頭を撫でながら優しく話す雅也さん。それに、僕の言いたい事を既に理解してくれたみたい。
「と言うか、淘汰はもう俺らのパーティ入り決定だから、当然だろ!」
「うん、淘汰はもう風光の跡のメンバー。だから淘汰に協力するのも当たり前」
力也さんと楓さんは、今更かよ、と言わんばかりに僕の肩や頭を軽く叩いてくる。
気のいい人達だし、危険な時には僕をすぐ守ってくれる頼りがいあるメンバーだし、何よりやっぱり同郷って大きいよね。
亜空間ワールドのレベルが現代に近づく事を、一緒に喜べる仲間が出来た事は本当に嬉しい!
笑顔で僕も「よろしくお願い申し上げます!」と頭を下げると、力也さんが早速場をまとめ出す。
「よっしゃ!じゃあ、サッサと素材集めて、その亜空間ワールドに急ごうぜ!雅也!」
「ハイハイ」
力也さんに指名された雅也さんが、湖に向かって一人歩き出す。僕が雅也さん一人で大丈夫かな、と不安に思っていると、いきなり空我さんに目を塞がれたんだ。
「雅也ー!いいぞー!」
「了解。っ《雷豪(ライゴウ)》!」
雅也さんの声が聞こえたと思ったら、激しい落雷音と目を瞑っていても目の前が真っ白になるほど光が迸ったんだ。
「よーし、みんないいよー!」
バチバチ……と未だ燻る音が聞こえる中、雅也さんの合図で目を開けると、湖面に浮かび上がる無数のキングクラムとマッドマロンクラブとマッドスチールトラウトの姿が……!
「ほんじゃ、俺の出番だな。《影操作》っ!」
その様子を見た空我さんが、影を触手のように無数に出して止めを刺して行く中、力也さんは風を纏い、楓さんは無重力を調整しつつ浮かび上がり、湖面を移動しながら空我さんのサポートに入っていったんだ。
「ええええ……?さっきまでの苦労は……?」
思わず呟いた僕の言葉に、「んー、大きな魔法は気付かれると思ったし」と言う雅也さん。
確かに……!この湖の主が許可したから、思いっきりできるんだよなぁ。
魔法も場所によって使い分ける事を教えて貰いつつ、僕も次々にアイテムボックスに入れていき、準備は完了。
ワクワクする風光の跡メンバーの目の前で亜空間ワールドの入り口を開き、全員で入って出てきたところは……
「すっげー!まんま映画村か、撮影所だな!」
「え?ちょっと!人いないのに美味しそうな団子売ってる!」
「うわっ!蕎麦屋じゃん!」
「鰻屋あるけど閉まってる……!え?食えないの?」
僕もビックリしたけど、本館の近くに江戸の街の商店街があったんだ!
それに、力也さんが言うように正に撮影所って感じ。だって周りには本館や畑や田んぼ、果樹園があるんだよ?違和感ありまくり。
団子に目が入った楓さんは美味しそうに3食団子を食べ出すし、空我さんは蕎麦屋から香るだし汁の匂いに釣られて店の中を覗き込んでいるし、雅也さんは鰻屋さんが閉まっている事にショックを受けてるし……
メンバーみんな元日本人なだけあって、順応が早い早い。
ワイワイと騒ぎながら商店街を歩いていると、カポカポと前から歩いてくるジュドと大柄な男性。
……?誰アレ?
思わずジッと観察すると、その男性は力也さん達より大きい2mクラスの身長に、長い青い髪を一つに縛った着物姿の男性。整った顔に、明らかに鍛えられた身体つきがわかるんだけど……
え?まさか!?
「マスター、遅かったですね。アクア様も大概食べ尽くしましたよ?」
「ジュ、ジュド?アクア様って?」
「なんだ?我にここに来る許可をくれたのはお前だろうに」
「え?って事は……!やっぱり、ホワイトアクアドラゴン様ですか!?」
「我以外に誰がいる?」
はああああああ!?そんなこと言ったって、人化出来るなんて言ってないじゃないですか!?
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