第18話 深淵の森での一週間生活 ③
その答えは、ジュドのから念話でわかったんだけどさ。
『マスター?お忘れですか?異世界言語には竜言語も入ってますよ?』
……いやいや、ジュド。そんなんわかんないって!
『マスターは普通に話せば通じますよ。あ、でもホワイトアクアドラゴンは深淵の森を治める竜の一角ですから、丁寧な対応をして下さいね』
え、ジュド?……それだけ言って念話切るなって!!もうっ……!
仕方ない腹を括るか……!
「あの……!ホワイトアクアドラゴン様、棲家を荒らして申し訳ありませんでした!」
後ろから僕が叫び出した事で、ギョッと振り返る四人。四人が反応するよりも早く返答したのは、ホワイトアクアドラゴンの方だった。
【ほう……!我が言語を話せる人間か。珍しいこともあるものだ。して、言葉だけで済むと思っておるのか?】
「いえ!宜しければ貴方様の棲家から取れた食材で、おもてなしをさせて頂きたく存じます!」
【ほう……面白い……!確かに、同じものばかりで飽きて来たところだ。よし、やってみろ。我を満足出来なければ、死を覚悟するがいい……!】
「畏まりました!では、ここにいる我がメンバー全員で精一杯努めさせて頂きます!」
【ふむ。ならば出来たら我を呼べ……!それまで我はしばし横になっていよう……】
僕の返事も待たずして、浮いていた水面からそのまま湖の中へと移動していったホワイトアクアドラゴン。
すると、湖面が今までの空の色を映した水色ではなく、銀色の湖となったからこれまた不思議……!
と、同時にホワイトアクアドラゴンの気配が一旦消えた事に、力が抜けた僕。「ふあああ……!」と変な声を出しながらドサッと腰を下ろす。
「死ぬかと思った……!」
すると、風光の跡メンバーも警戒を緩め、それぞれ肩の力を抜いて腰を下ろす。そんなみんなの姿に、斥候役の空我さんが口を開いたんだ。
「みんな、悪い……!俺の選択ミスだ……!」
青覚めた表情の空我さん曰く、この湖はホワイトアクアドラゴンのナワバリだという事は理解した上で案内したらしいけど、魔力残滓の関係からここは滅多に来ることがない場所と予測していたらしいんだ。
「でも、それは俺らも知っていた事だし」
「雅也の言う通りだ。何よりリーダーの俺も許可したんだ。空我だけの責任じゃない」
「……力也兄。むしろ今は淘汰に感謝すべき」
3人が反省している中、楓さんは未だヘタリ込む僕の手を握って「ありがとう」って言ってくれた。
そしたら3人も、ハッと気づいて僕に感謝を伝えてくれた。僕も「お互い様だよ」とみんなと笑い合って、また仲が深まったのは良い事だけど……まだ終わってないからね!
「僕が勝手に決めちゃった事ですけど、すみませんが皆さん協力お願いします!」
頭を下げて協力を願う僕の言葉に「「「「勿論!」」」」と頷いてくれた四人。
へへっ、なんか仲間がいるって嬉しいね。
メンバーのみんなが協力くれる事に安堵しつつ、楓さんと空我さんにまずは大きな竈を作って、木を集めて貰う事をお願いさせて貰ったんだ。
このメンバーでは、料理は僕しか出来ないからね。
力也さんと雅也さんには、キングクラムから身を取り出す作業をお願いした僕は、四人から魔障石の使用許可を頼みこんだんだ。
「え?魔障石?何に使うんだ?」
不思議そうに尋ねる空我さん。
うん、もう亜空間ワールドを隠している場合じゃないからね!
ともかく了承を貰った僕は、隠す事なく亜空間ワールドを開き、驚くみんなを残してジュドと合流したんだ。
入ってすぐに亜空間ワールドの様子が変わっていたのがわかった僕は、時間もないのについキョロキョロしちゃう。
うわあ、雰囲気がまた違うもんだなぁ……!
「ジュド!もうランクアップやってくれたの?」
「勿論です。ですが、詳しくは後ほどご説明します。マスター、魔障石で鉄板を作るんですね」
今回ばかりは、僕の考えを即理解してくれるジュドに感謝!
あ、勿論亜空間ワールドの詳しい変化は、後でしっかり伝えるよ。今は時間がないからね。
「さっすがジュド!大きめの鉄板作ってくれる?」
「注文がざっくりすぎますよ……」
多少呆れていたけど、僕の頭の中のイメージを読み取ったジュドは、早速魔障石の洞窟へ向かってくれたんだ。
よし!じゃあ、僕は僕で必要なものを取りに行かないと!だって、江戸時代へとレベルアップした事であれがある筈だからね!
そう思った僕が新しくなった台所で探していると……
「あったーーー!!醤油!白味噌も!」
目的の醤油を見つけて、思わず両手をあげて喜ぶ僕。そんな僕の様子にササっと加工を済ませて来たジュドが、鼻で自慢気にフンッと息を吐く。
「ランクアップと同時に加工しときましたからね。後は、魚と海藻さえ手に入れば、鰹節もどきや昆布もどきが出来ますよ」
うん、ジュドの気遣いに感謝!
「その為には、まずはこの案件を乗り越えなきゃね!」
気合いの入った僕は、ジュドから魔障石板を受け取り、すぐにみんなの待つ湖へと戻る。
亜空間ワールドを使って僕が戻ると、驚きの表情で何か言いたそうにした四人だけど、まずはこの場を優先してくれたらしい。
すぐに僕に指示を求めて来てくれたから、楓さんや空我さんにもっと薪を集めて貰い、僕はジュドが作ったクラスの魔障石板を作って貰った竈の上に出して火をつける。
「うーわー……魔障石を鉄板代わりに使ってるよぉ……!」
「……めっちゃ贅沢案件だな」
火を灯す僕の後ろで雅也さんと力也さんが半ば呆れていたけど、気にしない!気にしない!
だって鑑定したら、魔障石は魔力伝導もだけど熱伝導もいいんだ!更に僕の付与魔法を使うと、簡易ホットプレートになるからね!
楓さんや空我さんも木を持ったまま唖然としていたけど、気にせず雅也さんにはそのままキングクラムの剥ぎ取りをお願いして、力也さんには、以前買って来ていた牛乳(ホルスターカウという魔獣のミルク)を思いっきり入れ物ごと振って貰うのをお願いする。
ここまで来るとわかるよね?そう、僕が作るのはビックサイズのアサリのバター炒め。でももっと僕が好きなものを足すよ!
「ほれ、出来たぞ」
流石は力也さん!あっという間にバターができてる!
早速受け取って力也さんには追加の牛乳を渡し、熱が行き渡った魔障石板の上にバターを広げると……ジュワアアアア……!とバターのいい香りが周囲に広がる。
正直言って、深淵の森の中でこんな匂いさせるのは死ぬ行為だけど、この点ではホワイトアクアドラゴンに感謝なんだ。今のところ、他の魔物が動き出す様子はないからね。
「雅也さん、力也さん、鉄板の上にキングクラム入れて下さい」
「はいよ」「うん」
二人がドサッと入れて貰ったキングクラムが入ると、更にアサリのいい香りして来て僕のお腹も減って来た。
更にジュドに作って貰った大型木ヘラ二つを雅也さんと空我さんに渡し鉄板のアサリをかき混ぜて貰う。
因みに、匂いにやられた楓さんと力也さんは、空腹が限界の為倒れて離脱。
「淘汰……!なんか、食いもんくれぇ……!」
「同じく……!」
それでも、匍匐前進で手を伸ばす二人。手の離せない僕は、こうなったらジュドに来てもらう事にしたんだ。
念話でジュドに説明をすると、ジュドが持って来たのは……
「うおおお!今川焼き!」
「きゃああ!みたらし団子!!」
ぼたもちや醤油せんべいまで持って来たジュドに、歓喜の声をあげて食いつく二人。
江戸時代まで来ると、お菓子の種類も格段に増えたからね。ジュドが加工出来るのも増えたんだけどさ。
あ、先にやられた……!
「え?淘汰?醤油なんてあったか?」
してやられた、と思っていた僕に、鋭いツッコミをする雅也さん。空我さんに至っては、もはや目にはお菓子しか映っていない。
雅也さんには後でしっかり説明をすると説得し、戦力外になった空我さんをジュドに託して、雅也さんと仕上げをする僕。
「こっちも行きますよ!」
浮遊魔法を使いお酒と醤油を適量を全体にかけると、ジュワワワワ……と音を立てながら、暴力的な匂いのする大量のキングクラムのバター醤油炒めが出来上がり!
土魔法で大きなお椀を即席でつくり、浮遊魔法で料理をお皿に移動させ、更にもう一つ。
大きな湯呑みも作って、江戸時代にランクアップしたからこそ出来た清酒もつけると完成!
「ちょ、待て!日本酒?」
「え?マジで?」
匂いから力也さんと空我さんも気がついたらしい。雅也さんはお酒を出してから、食い入るようにお酒しか見てないし。
うん、みんな酒飲みだったんだね。
そう思ってみんなの様子を見ていると、いきなり後ろから大きな影が……!!
【……出来たのか?】
「うわあああ!!って、ホワイトアクアドラゴン様!」
僕の後ろに大きな大きな竜の顔。しかも、すごい威圧もあるから僕もみんな動きがピタッと止まってるし。
その中でジュドがカポカポ歩いてホワイトアクアドラゴン様の前まで来て、項垂れながら言ってくれたけど……
『動けない我が主の代わりに失礼致します。我が名はジュド。亜空間ワールドのマスター淘汰に従う者でございます。どうか、我がマスターの誠意をご賞味下さいませ』
ジュドおおお!ホワイトアクアドラゴンにまで正直にバラしてどうすんの!!!
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