第17話 深淵の森での一週間生活 ②

 より賑やかさが増した食事が終わり、ワイワイ日本の話をしまくった昨日。


 ここが異世界って忘れるくらい盛り上がったんだよね。


 力也さんはアウトドアが大好きだった事とか、空我さんはゲームオタクだった事とか、楓さんはコスプイヤーだった事とか、雅也さんの好きな某有名星戦争映画の事とか……


 僕?僕はラノベとかネット小説オタクって言ったら、結構みんなも読んでたらしくて、アニメ化した某有名スローライフ話で盛り上がったなあ。


 夜まで騒いで話して、みんなとの距離がグッと近づき、昨日は自慢の布団でぐっすり就寝。


 そして風光の跡メンバーが歓喜した、ご飯と味噌汁と肉野菜炒めの朝食をしっかり食べて、現在は深淵の森を移動中。


 一応、拠点には見張り役としてジュドを残しているよ。


 この機会に、ジュドにお願いしているんだ。亜空間ワールドのランクを江戸時代にしておいてほしいってね!


 んん?魔障石がいっぱい手に入るから、時代を一挙に上げる事もできるんじゃないか?って?


 そこはまだ『風光の跡』メンバーに許可もらってないし、亜空間ワールド自体にも一定のところでロックがかかっているから、それは無理なんだって。


 だから、今のランクアップは江戸時代まで。


 それで昨日、大きめの魔障石を拾わせてもらってたからね。ジュド曰く、今まで貯めてきた魔石と合わせる事でランクアップ可能だって言ってたし。


 うーん!早く帰って確かめたいよね!


 だって、江戸時代になったら、白砂糖、醤油(濃厚醤油)、白味噌、昆布に鰹節、豆腐の加工が可能になるんだよ!


 だったら、久しぶりに魚がほしいところ。という事で、今日目指すは深淵の森中部にある湖!


 あ、みんなには亜空間ワールドの事はまだ話してないよ?


 ただ、魚食べたいねって話したら、ノリノリで湖に行こうって事になっただけなんだ。で、今ここ。


 「……淘汰に、常識って教えた方がいいよな……!」


 「全くだ……!結界魔法と浮遊魔法の合わせ技だぞ!それも全員を同時に運ぶってどういう事だ?悔しいのが、それで魔力消費量が一桁ってありえねえ!!」


 えー……現在、湖河口近くの広場で結界魔法展開中の淘汰です。着いた途端に、ぐったりしていた力也さんと空我さんが叫んでいます。


 「楽でいい……!」


 「まあ、規格外も規格外だよなぁ。でも、淘汰君に普通は必要ないんじゃない?」


 楓さんは空中移動も楽しんでいたからご機嫌だし、雅也さんはもう達観している感じだなぁ。


 だって、雅也さん移動中のホワイトフェザーバードの群れ、普通に倒してたんだもん。楓さん曰く、無になってたらしいけど。


 勿論、素材はしっかり収納してあるよ!ホワイトフェザーバードはいくらでも欲しいからね。


 「え、えっと。なんか、すいません?」


 「いやいや、淘汰君が謝る必要はないよ。というか、ありがとうね。ここまで連れてきてくれて」


 にっこり笑う雅也さんは、さすが精神年齢が1番年長なだけあって、まだブーブー言っている力也さんと空我さんを宥めてくれてる。


 アレ?そういえば、楓さんは?


 「楓さん、何処かに行っちゃいましたよ!?」


 楓さんがいない事に気づいた僕が慌てて3人に駆け寄ると、機嫌を直した力也さんが「出遅れたか!?」と素早く動き出したんだ。


 湖に向かって走り出す力也さんの前方では、足元まで湖に浸かって剣を構える楓さんの姿が。


 「え!?いつの間に湖に?」


 僕が驚いている間に、空我さんも「淘汰!デカいの来るぞ!」と僕の肩を叩いて走り出す。


 え?え?と思っていると、雅也さんが隣にきて「まあ、見てて」と湖を指差したんだ。


 すると、楓さんの剣がホワッと光りだし、「来たっ!」と声を出す楓さん。


 ザッパアアアン!!と飛び上がってきたのは、人よりでっかい二枚貝!


 「キングクラムっ!」


 嬉しそうな雅也さんの声に思わず鑑定すると……


 『キングクラム(Cランク)

 地球で言うところの2m級のアサリの魔物。獲物を素早く二枚貝の中に閉じ込め、ジワジワと消化させて食べる魔物。貝の繋ぎ目にある核が弱点。貝殻は武具や加工品に人気。身は肉厚で美味』


 アサリじゃーん!!うわあ、コレ絶対欲しい!


 僕も!と思い動こうとすると、雅也さんの腕で止められ、「見てて」と言われたんだ。


 目線を前方へ戻すと、あえて口の中に飛び込んでいく楓さん。危ない!と思って叫ぼうと思ったら、貝の口がパカって開いたままになってんの!


 そのまま素早く楓さんは核へとたどり着き、一閃してビッククラムを仕留めたみたい。


 そして「空我!」と叫んだ楓さんがキングクラムの口の中から飛び出すと、空我さんの身体から出た黒い触手がキングクラムを包み込み、そのまま僕らの前方に投げてきたんだ。


 「淘汰ー!収納よろしく!」


 サムズアップする空我さんに、とにかく「は、はい!」と返事をすると、そこからはキングクラムが投げられるわ、投げられるわ。


 のんびりしている雅也さんに聞いてみると、どうやら楓さんは魔力放出で自ら囮となって魔物を引き寄せ、キングクラムが口を開けた瞬間口の中を無重力にさせたらしい。


 そして、剣に重力を纏わせて核を一閃させ、空我さんに回収してもらうのがいつものやり方らしいよ。


 「さあ、ここからだ!淘汰は森からの魔物を警戒しといてね!」


 僕がキングクラムを収納していると、雅也さんも飛び出して行く。ここからが『風光の跡』のメンバーの独断場だった。


 続けてビッククラムが何匹も出てきては楓さんがポポポポポッと口の中を無重力にさせるから、力也さんは風魔法をまとって更に切れ味の良くなった剣で核を一閃。


 雅也さんは光魔法のビームで核を壊していたし、空我さんに至っては他の人が倒した獲物を回収しつつも、黒い触手で核の力を吸収させて回収という凄技を見せてくれた。


 僕は積み上がるビッククラムにウハウハしながら、結界の中で時々森から襲って来るキラーレッドベア(Bランク)やビックホーンディア(Cランク)を雷魔法や風魔法で撃退するだけ。


 すると、時々キングクラムに混じって、3m級のマッドマロンクラブ(Bランク)[頑丈で大きなハサミを持ちと消化液を吐く地球でいうカニ。弱点は腹の中心核。甲羅は何にでも使え、身は絶品]が出てきたり……


 「よっし!来たぞ、淘汰!」


 なんと!空我さんが黒い触手を釣り糸に見立ててキングクラムの身を餌に、8m級のマッドスチールトラウト(Bランク)[地球で言う魚のマスの魔物。最大で15m級。湖底に住み、湖面に獲物を見つけると渦潮を発生させて餌を引きずり込む。弱点は喉の奥の核。身は白身で、キングクラムが好物の為、味は美味。鱗は武具に加工出来る]を釣り上げたんだ!


 さすがに巨体だったから、投げられたら地面が揺れたよ……!でも、空我さん曰く、コレで小さいんだって……!!あ、勿論、マッドスチールトラウトの核の力は空我さんが吸引済み。


 こりゃ大漁、大漁!


 って久しぶりに魚が食べれるって思ったら、突然、空から来た影がマッドスチールトラウトを掴んで飛んでいっちゃったんだ!


 僕のサーチにも引っかからずに、湖の真ん中に着水したその影は……


 「やべ……!帰って来る日だったか……!!」


 素早く戻ってきた力也さん曰く、この湖の主のホワイトアクアドラゴン(SSSランク)らしい……!!


 次々に僕の近くに戻ってきて全員揃うと、僕の結界を解除させて空我さんが闇魔法を唱えたんだ。


 「シェイドサークル!!」


 僕はどうやら空我さんに口を塞がれているらしい。そのまま僕は空我さんと共に後ろに下がり、僕らを含めメンバー全員言葉も出さずにゆっくり後退している。


 後から聞いたんだけど、このシェイドサークルは、周囲の木の影と同調し気配を拡散させて、敵に味方を認識させない空我さんお得意の闇魔法らしい。


 何とかその場を乗り切れる、と僕以外のメンバーが思っていたその時……


 「グオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ホワイトアクアドラゴンが叫び声を上げただけで、全員の姿がはっきり認識出来るようになっちゃったんだ!


 「やべぇ、格が違うわ……!」

 

 メンバー全員一斉に僕を守るように戦闘態勢になり、僕もこうなったらヤケだと思って、SSSランクの攻撃に耐えれるかわからない結界を張る。


 すると……


 【矮小な人間ども……我の棲家を荒らすとは、いい度胸だ】


 え?何?ドラゴンって話すの?


 頭の中に聞こえてきた声に、ビックリした僕。思わず、周りの風光の跡メンバーを見回しても、全員が警戒を解いていない。


 えええ?もしかして、僕だけ聞こえてるの!?

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