第16話 深淵の森での一週間生活 ①
あの後は、その場で拠点準備って流れになったからね。僕とフェルトさんが準備した道具のお披露目をしたんだ。
まずは、1番拠点に必要なテント。
「うおおお!た、畳だ!畳!」
靴を脱ぎ、入り口で武具を外して、畳にスライディングをする力也さん。畳の匂いまでスゥゥッて嗅いでたよ。新しい畳の匂いってなんか良いもんね。
そう、もちろんテント内も空間拡張済み。大体30畳くらいかなぁ。僕、みんなで寝てみたいって思ってたからね。
「!!……此処、使って良いの?」
その奥で遠慮する楓さんに勿論!と頷く僕。
実は、女性用に六畳は小部屋にしているんだ。入り口は襖で仕切っているよ。和紙をジュドが作れたからね。
「もしかしてコレって……!やっぱり、風呂だ!良いのか?野営で風呂って!!」
嬉しそうに畳を撫でる楓さんの近くで、喜びの叫び声を上げているのは空我さん。
壁に設置されている二つの木戸の内、一つを開けると脱衣所と浴室があるんだ。脱衣所には、壁棚にふわふわタオルも設置済み。床に脱衣カゴと足拭きマットもあるよ。
その隣の浴室は、木の浴槽とすのこ敷きの洗い場。排水口から流れるお湯は滅菌処理後、転移陣から外へ排出。室内は空気清浄、除湿付与魔法施工済みという優れもの。
あ、シャワーはまだ出来てないんだ。早く作らなきゃね。
感動している空我さんに入ってもらう為、お湯を張って声をかけたら、目の前で素っ裸になって入って行ったんだもん。慌てて身体はヘチマスポンジと石鹸で洗うように、と叫ぶ僕。
浴室の木戸越しに空我さんの鼻歌が聞こえてきたと思ったら、今度は隣のトイレから「「おおー!」」という声が。
「すげえ!臭くねえ!」
「トイレの便座がある!」
脱衣所からヒョコッと顔を出すと、併設しているトイレを見て感嘆の声を上げる力也さんと雅也さんの姿があったんだ。
特に、トイレに感激していたのは雅也さん。
「この世界で、浄化式トイレは高い宿屋しかなくてさぁ。それでも、便座なんてないし。で、俺らの泊まる安宿は、大概スライム式ボットン便所で臭いも臭い。生まれてからずっとそうだったから、流石に慣れたけどさ。やっぱり、いいものは良いよなあ!」
……うん。僕は元々全属性で物づくりも付与魔法もできたから、その苦労はそんななかったもんね。
そんな感じで男性陣がワイワイ騒ぐ中、楓さんの姿がない事に気がついた僕。
「ありゃ」
「……淘汰。なんか勝手に使って悪いなぁ」
開いていた小部屋を除くと……敷き布団とかいまきと枕を押入れから出して、スヤスヤ寝ていた楓さん。その様子を見て、済まなそうに謝る力也さんはやっぱりお兄さんなんだなぁと思う。
今回用意した布団は、自慢のファビット毛皮とホワイトフェザーバードの羽毛を使ったフカフカ布団に、抗菌/防臭に加えてリラックス作用も付与しているんだ。
それにシルクスパイダーの糸で作ったかい巻きにも、ホワイトフェザーバードの羽毛も詰め込み、厚手毛布みたいになってるんだ!この二つが組み合わさると、それはもう極上の寝心地なんだよ……!
って……ハッ!力也さんも、既に布団敷いてるし!
僕が今回の力作布団の思いに浸っていると、力也さんも布団を敷いて既に横になっていたんだ。そして、すぐ寝落ちした力也さん。
おお……我ながら凄い効果だ……!
気持ち良さそうに眠る力也さんの為に、かい巻き毛布を押入れから引っ張り出してかけてあげて、そっと小部屋を閉める。
「ん?力也と楓は?」
すると、テントの中を探索し終わった雅也さんが僕の方に歩いて来たんだ。
布団でぐっすりおやすみ中と言ったら、苦笑しながら楓さん力也さんはよく眠るんだって教えてくれた。
「ついでに起きるとよく食うぞぉ」
「そっか。じゃ、用意しないと!」
脅かすように言う雅也さんに、僕はそりゃいかん!と動き出した訳だけど、その様子を見て僕の頭を撫で撫でし出す雅也さん。
「良い子すぎて、お兄ちゃん心配だわ」
苦笑いして手伝うと言ってくれた雅也さんと一緒に、テントの外へ出ると……
『マスター、私の寝床と食事場所作っておきましたよ』
カポカポと歩いてくるジュドの後ろには、きっちり整地された20畳程の場所に畳が敷かれていたんだ。
ジュドの寝床用のビックファビット布団も、畳の上にきっちり敷いてたよ。ジュドも布団はお気に入りだからね。
そして、こだわりの道具その2、魔導コンロの登場!
そう、僕が地球で読んでいたWEB小説のスローライフ物の物語で出てくる物をイメージしたんだ!
とはいえ、材料が足りなかったりしてそんな万能には出来なかったけどさ。
煉瓦作りの作業台に複製させた魔導ミニコンロを三つ取り付けて、シンクの排水口の浄化/殺菌/転移付与つけて、オーブンに似せたものは作ったんだよ!随時付与魔法が必要になる僕専用になるけど、結構頑張ったでしょ。
「そういえば、今まで食事ってどうしてたんです?」
そんな自慢の魔導コンロに寸胴鍋をセットして、作業台に材料をとり出しながら、ふと思った事を素材を手にする雅也さんに聞いてみたら……
「えええ!?焼肉オンリー?」
「そうなんだよ……ウチのパーティ、大喰らいが3人もいる上に、みんな前世通して料理出来ない組でさぁ。一応、俺は材料切るまではまともだけど、味付けすると不思議な味になるわけ。だったら大量に肉焼いて、塩で味付けすりゃ食えるだろ?」
はあ……とため息を吐きながら言う雅也さん。
「食事に金かかるし、装備に金かかるし、宿代は外せないし、背に腹は変えられなかったんだよね……」
そう言って雅也さんは遠い目をしていたけど、確かに元日本人舌を持っていると、毎日少しでも美味しい物を食べたい気持ちはよくわかる。
……3食外食は、確かにお金かかるよなぁ。
パーティの資産管理をして苦労していたと考えると、労ってあげたい気持ちになった僕。
「よっし!オークカツとポトフ思いっきり作ろう!」
僕おススメの栄養豊富なメニューも決まり、腕まくりをしながらすぐ行動したんだけどね。意外にも、雅也さんが素材の下準備はめちゃくちゃ早い事がわかったんだ。
「何せ、この世界に来てから、あいつらの食べる分はほぼ俺が作ってたからね」
ここぞとばかりに張り切る雅也さんの言葉に、納得した僕だけどコレで味付けが壊滅的とは……不憫な……!
まあ、ともかく雅也さんのおかげで、それはもう大量に仕込む事が出来たんだ。後はひたすらカツを揚げまくったよ。
その間にお風呂から上がってきた空我さんは、自分のスペースでくつろいでいたジュドのブラッシングを申し出てくれた。
手が離せなかったから、助かったぁ。ジュドも気持ち良さそうだしね。
しばらくして準備が整うと、タイミングよく起きてきた力也さんと楓さん。
畳の休憩所にある大きな木製の円卓テーブルに、「懐かしい」と声を上げて喜んでくれた。やっぱり和式ってなんか落ち着くんだよね。
和式の空間に、異世界感たっぷりの魔障石の洞窟。そこに異世界人姿の元日本人転生者四人と僕とジュド。
大分異色で異様だけど、他に人来る訳じゃないし!
開き直ってなんちゃって和式拠点を楽しみながら、賑やかな深淵の森生活が始まったけどさ。
まさか、次の日から早速不測の事態になるとは思わなかったんだよねぇ……
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