第15話 採取無双と優しさと
聞いてなかった僕が悪かったけどさぁ……
『む?アレは水毒カズラ!毒成分も欲しかったんです!』
かと言って、僕も知らない冒険者としての動き方があるだろうなぁって思って、大人しくしてたんだけど……
『おお!あれはフラグレシア!魔物を惹きつけてくれますよ!マスター、お早く!』
……うん。でも、ジュドが真っ先に動くから、僕の出番はないようなもので……
『……なんです?オーガやレザーウルフしか来ないじゃないですか……!』
シュンっと消えては倒し、シュシュンッと目に見えない速さで動くジュドに、現在僕と風光の跡メンバーは、みてるだけという展開になっているんだ。
「おー!流石、音速のアレスタックス!やるね!」
『深淵の森』に着いて馬車から降り、モグモグとカステラを食べながら歩く空我さんの後について、僕と残りのメンバーも歩きで移動しているんだけどさ。
『む。これは最も美味しいきのこ、マルタケ!!なんと!群生地ですか!』
目の前で、いいもの見つけました!とその空間ごと亜空間ワールドに取り込むジュド。うーん、確かにここは宝の山だけどね。
ジュドが斥候の空我さんより先に入って、色々採りまくってて、どんどん目の前が開けて行くから歩き易くていいんだけど……
「ジュドー!左側にクレツボ草の群生地もあるぞー!」
『なんと!おひたしに最高じゃないですか!』
まあ、こうやって力也さんがちょいちょいアドバイスするものだから、ジュドも大張り切り。シュンッとその場から消えては、ズポッとその空間ごとを取り込むジュドに、正直僕は不安も不安。
……ジュドぉ……流石にインベントリで誤魔化し効かないよお……!
「淘汰。右、15秒」
ハラハラする僕に楓さんからの声が聞こえてきたかと思ったら、僕に向かって現れたのは、2m級のワイルドボア。
「お肉!!」
僕はもうボア系はお肉にしか見えず、即座に風魔法で首を落とし、鮮度を落とさないように瞬時にアイテムボックスへ送る。
「よーし!食料ゲット!」
『マスター!コレまだない種類の木ですね。採取しましょう』
「え?どれどれ?」
ジュドに呼ばれて近くに行くと、さくらんぼの味の大粒の実のなる木。当然、即座にジュドに取り込んでもらって、結局僕もジュドと一緒になってアイテムボックスへ入れまくる。
そんな僕らの様子に、後ろでまったりしている空我さんと雅也さん。
「俺らいらなくね?」
「そういうな、空我。美味しい依頼なんだから」
「そ!雅也の言う通り。アイツら、まだまだ脇は甘いしさ」
ズルズルと倒したマスターオーガを引っ張り、空我さんと雅也さんのところへ近づく力也さん。
「右に同じ」
こちらもズルズルと倒したキングレザーウルフを片手で持ってきた楓さん。
その後ろ、ガサッと音を立てて現れた5m級キラーアナコンダだったけれど、雅也さんから光が迸り、声を立てる間もなくズルリと首が落ちる。
「まあ、その為に俺達がいるんだけどさ。……うーん、淘汰君はいつ俺達に教えてくれるだろうね?」
「なんだ?雅也、何かあったか?」
「いーや、力也はそのままでいいよ。あ、アレも淘汰君に収納してもらおっか。淘汰君呼んできて、空我」
「はいよ」
って会話があったらしい。ジュドが聞き耳立ててたんだって。
この時の僕は知らなかったけど、雅也さんと空我さんは僕らが何かを隠している事に気づいていたみたい。
初日から気づかれていた事を後から教えられて、凹むのはもう少し後の事だけどね。
『深淵の森』初日は、いつも風光の跡が拠点としている岩山の洞窟を目指していたんだけど、そこまでの道中でもかなりの収穫があった僕達。
『ヒーリングウッドの大木は、いい収穫ですね!これは早く増殖させて家に使いたいものです!』
「この世界、綿の木ってあるんだねぇ。これもまた活用出来るね!」
岩山の麓に着いても僕らの興奮は冷めず、ジュドと僕は念話を交えてずっと会話をしっぱなしだったんだ。
その様子に笑いながら雅也さんが「着いたよ」と指差した先には、岩山の裂け目があった。
……ジュドでも通れる大きさの裂け目で助かったけど、魔物の侵入対策はどうするんだろ?
そう思いながら、岩山に斜めに入った裂け目を潜ると、岩山の中なのにパアアアッと明るい光が目に飛び込んできたんだ。
『……マスター!……此処は、凄い場所に連れてきて貰いましたよ……!』
ジュドが本気で驚いているのが珍しい……!そう思いつつ、目が慣れるのを待っていると、見えてきたのは……
「うわあ!虹色の岩だぁ……!」
辺り一面が虹色に光る、ドームのように広い洞窟。空気も澄んで気持ち良いし、奥で岩に囲まれた泉が渾々と水を湧き出している。
不思議なのは、その水が地面に流れ落ちない事と、泉の上に虹色の球体が浮かんでいる事。
「此処は、俺らだけが知っている、秘蔵のセーフティポイントさ」
「魔物が絶対入って来れないんだぜ」
自慢気な力也さんと空我さんを横目に、虹色の10cm程の小石を持って「鑑定してみろ」と僕に渡す雅也さん。
試しに鑑定してみたら……
『魔障石』
純度の高い魔素の塊。魔石よりも魔法伝達の高い石。魔物を寄せ付けない。(亜空間ワールドのレベルアップにも使用可能。手元の石で魔石100相当)
「ほわああ!?」
「な?凄いだろ」
僕は後半の()の中の鑑定文章に驚き声を上げたんだけど、雅也さんは前半の部分だけで僕が驚いたと思ったらしい。
だって、改めて鑑定したら、僕が鑑定しないと出てこない文章だったんだ!それにこの魔障石は、市場でかなり高額で売り買いされているものらしい。
……これだけの魔障石の量……本来ならパーティだけの秘密にする場所だろうに、僕らを連れてきてくれるなんて……!!!
「……あの?僕に教えてくれてもよかったんですか?」
さすがに心配になって聞いてみたら、雅也さんが即答してくれたんだ。
「うん。淘汰君だから此処を見せたんだ。昨日の様子やこの道中で、信頼出来るって思ったからね。それも全員が全員、今日はこの場所を教えたいって意見だったし……って、イテ!」
ニコニコ笑って言う雅也さんの肩に、体重をかけて腕を回した力也さんも頷いている。
「だって、淘汰どう考えても人が良すぎるだろう?」
……そうかなぁ……?
「そうそう!最初から手の内見せすぎだって!つーか、俺らが胃袋掴まれたから、離れなくさせたれって意味も込めてるけどさ!」
「何より……モフモフは抗えない……!」
悩む僕にガバッと背中から抱きついてくる空我さんと、熱い視線でジュドを見る楓さん。
更に聞いてみると、同じ元日本人だからってだけで油断してなかったのは、あちらも一緒だったみたい。
でも、僕が最初っからあり得ない馬車は出してくるわ、ある筈のない食材は出してくるわ、お人よしだわで、全員一致でこりゃ早めに仲間に引き込んじゃえ、と思ったらしい。
そして、まだ僕らが何かを抱え込んでいるのも気づいていたらしくて……
「まあ、でもその点に関しては、どうせ副ギルマスからなんか言われているんだろう?信頼できると思ってから話したければ話せばいい……とかね?」
元40代の雅也さんは流石によく状況を読んでくれていて、優しく「無理強いはしないよ」と言ってくれている。
「まあた、副ギルマスは勿体つけやがって!気に入ったものは人でも物でも出し惜しみするんだよなぁ」
「言えてる!まあ、今まではそれで俺らも助けられた部分もあるけど、淘汰に関してはあからさまだったからなぁ。ついでに、俺らに甘いギルマスの場合、もうバラシちまえって言ってたんと違う?」
雅也さんの言葉に笑いながら愚痴を言う力也さんに、ズバリ言い当てる空我さん。
……フェルトさんにラルクさん、思いっきり人柄読まれてるなぁ。というか、それだけ気を許す間柄なんだね。
僕は、今更ながらフェルトさんとラルクさんに守られているのがわかって、心があったかくなった。
僕の為にわざわざ信頼出来るパーティをセッティングして、自然の流れで仲間を作れるようにしてくれた二人。
そんな二人に感謝しつつ、笑いながら頷く僕。
更に、雅也さんの提案によりこの一週間、風光の跡メンバーの様子を見てからの返事で良い事になったんだ。
『マスター。チョロすぎます』
僕の考えを勝手に読んだジュドの言う通り、答えはもう決まっていたけどね。
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