第14話 目的地までの道中
あの後、ジュドと『風光の跡』メンバーの触れ合い時間という名を過ごして解散になったけど……
「なんですか!元日本人という生き物は!!私の事をモフモフ、モフモフって!!」
……うん。ジュドが触っても良いと言っていると告げたばかりに、みんな自由に触り過ぎたらしく、プリプリとご機嫌斜めのジュドを宥めるのが大変だったよ。
でもね、その分メンバーの背景がわかったんだ。
全員この街の孤児院出身で、小さな時からの幼馴染。はっきり転生と理解した時期は、孤児院に預けられた1〜3歳の頃なんだって。
この世界の名前もあったらしいけど、転生してから日本人の意識が強くて改名したらしいんだ。
四人共話を聞くと、転生特典みたいなのは前世の知識だけみたい。
僕みたいに創造神にあったりした訳でもないけど、前世で同時期同日の列車事故で亡くなった事はわかっているんだって。
何故孤児院に四人が集まったのかは、本当に単なる偶然としか言えないそうなんだ。
ただ、前世年齢が20〜41歳の四人は、それぞれラノベやWEB小説を見ていたらしく、この世界を認知してすぐ魔力を練る行動にでたり、ステータス表示で自分の能力を知ったりと、早々に力をつけていったんだって。
……僕と違って、完全に自分達の力で能力を開発していったから、みんな生き生きとしていたんだね。凄いや!
で、大食漢の3人がいる雅也さんのグループは、男子3人が10歳の冒険者登録の頃には、孤児院を寝泊まりするだけにして自分達の食い扶持は稼ぎ、冒険者ギルドでも稼ぎ頭になってたらしいよ。
そのまま楓さんが10歳にるまで孤児院で暮らして、楓さんが冒険者登録した段階で宿屋暮らしに変更して、それからずっと冒険者として生計を立ててたんだって。
その日の夕飯時、転生者だと知っていたギルマスのフェルトさんが言うには、『風光の跡』は孤児院に寄付やお肉の寄贈も良くしていたみたい。
だから、この街では『風光の跡』は人気者。お店からの信頼も高く、値引きは当たり前にしてくれるし、差し入れを貰う事も多いんだって。
それもあって、フェルトさんと同じく転生者と知っていたラルクさんは、僕が一週間一緒に過ごして信頼出来ると思ったら、仲間に引き込むのは賛成って言ってた。
フェルトさんに至っては、自身のお気に入りパーティだったから「もうバラしてしまえ」とか言ってたけどね。
で、更に二人から『風光の跡』メンバーの食べっぷりを聞いて、その日の夜にかけてジュドと二人、明日からの食料を仕込みまくったんだ。
ラルクさんなんか、わざわざ「あの四人に食べさせてあげて下さい」ってオークの団体を召喚するんだもん。思わず「ひえええ!」って叫んじゃったよ。
でも、見かねて手伝ってくれたフェルトさんやラルクさんのおかげでしっかり準備が出来た僕ら。
ぐっすり眠った次の日の早朝にラルクさんに起こされて、ギルド長室でフェルトさんとラルクさんに「行ってきます!」と挨拶をして出発した僕。
ジュドも一旦獣舎に戻り、僕も一階に降りて冒険者ギルド前に集まっていた風光の跡メンバーと合流して、今ココ。
「マジで良い仕事してくれたぜ、ギルマス!」
馬車の中でのんびり寛ぐ力也さんの手には、大事そうに抱える金平糖の大袋がある。
「まさか……あんこ餅に出会えるなんて……!!」
同じく、馬車の中で広げられたお重にぎっちり入っているあんこ餅を美味しそうに頬張る楓さん。
「つーか、この馬車凄すぎね……?」
馬車の内装に若干引きつつ、それでも両手にあんこ餅とちまきを手にする空我さん。
「フェルトさんの協力の元、僕の付与魔法で頑張りましたし!」
そんな『風光の跡』メンバーに自慢気に言う僕は、3人をおもてなし中。
あ、残りの雅也さんは御者席に居て、ジュドが馬車を引っ張ってくれているよ。勿論、雅也さんにも差し入れはしているし!
で、馬車はどうした?って思うでしょう。
ラルクさんの許可の元、冒険者ギルドの所有している馬車を一台亜空間ワールドに取り込ませてもらったんだ。
勿論、復元と複製をして、付与魔法で振動対策もした一台を冒険者ギルドに卸しているよ。
でも、今僕らが乗っている馬車は、更に工夫したんだ!
室内は空間魔法で広くした上で、魔導ランプに適温付与に空気清浄付与もつけて、ファビット敷き布団を座席と背もたれに取り付けて、お尻も背中もフッカフカ!
勿論、外を見るための窓も大きめにして、マジックミラー付与してるから中の様子は全く見えないから安全。
更に、馬車の外だって安全さ!
「ジュドさん!僕にも残して下さいよぉ!」
「ブルルルッ……!(反応遅いですよ)」
馬車の目の前でドサッと倒れるブラックキルベア(獰猛で体長3mの魔物 Cランク)を、ジュドはあっさり風と雷を合わせた『風針雷』(1000ボルト雷を避雷針の形に練り上げて、突風で魔物の核に直撃させる)で倒したみたい。
そのままカポカポ歩いて鼻先でチョンと触り、亜空間ワールドにブラックキルベアを取り込ませるジュド。風光の跡メンバーには、ジュドにはインベントリがあると伝えているんだ。……嘘では無いよね?
そんなジュドに、御者席から声をかける雅也さん。雅也さん自体も道中グレードディア(大きな角を持つ素早い鹿の魔物 Dランク)を5体、瞬殺させている(勿論、ジュドが亜空間ワールドに取り込み済み)。
それも!光魔法のレーザーで一閃だよ!?……いやいや、光魔法って治癒魔法じゃなかったっけ?
僕が窓から見えた景色に呆然としてたら、空我さんが教えてくれたんだけどね。
「ほら、俺ら前世知識あるしゲーム脳してるじゃん。それぞれの属性魔法を思考錯誤してたら、なんか出来たって言うか……」
「そうそう。それに、雅也が1番こだわっていたもんなぁ。ほら、スター○ォーズにどっぷりハマってたみたいだからさ」
空我さんの補足に横から加わる力也さんは、「まさか本物のライト○ーバーと訓練するとは思わなかったけどよ……」と呆れ顔で教えてくれた。
ふおおおお!ラ○トセーバーって……!僕、思いっきり世代なんですけど!やばい……!雅也さんと語り明かしたい……!!
ついでに前世の話を聞くと、それぞれ前世年齢と職業はこんな感じだったんだって。
雅也 現在17歳←前世41歳 会社員 営業係長
力也 現在17歳←前世34歳 建設営業
空我 現在17歳←前世27歳 エンジニア
楓 現在15歳←前世20歳 大学生
あー……なんかしっくりきた……!そりゃ、雅也さんまとめるの上手いはずだよ。え?でも今世ではもう役職やだ!って言って力也さんがリーダーになったの?
……うん、何故だろう。深く同情してしまうよ……
それにしても、力也さんも建設営業って似合うわ……!むしろ、本職大工でも行けたんじゃない?え?手伝いしてた?うん、そりゃ凄い。
空我さんがエンジニアなのもなんかわかる!エンジニアってなんの?モバイルアプリケーションエンジニア?なにそれ?
「あー、スマートフォンやタブレットといったモバイル端末で動作するアプリケーションの開発・実装・運用に従事するのが仕事って言えばわかるか?まあ、アンドロイドやiOSのアップデートやバージョンアップもやってたか……あーーーーー!思い出したくねえ!」
ウガーと叫び出した空我さんも前世では苦労組だったんだなぁ……で、楓さんは?
「私?気楽な女子大学生。……でも、レポートや課題折角終わらせたのに……!」
静かな怒りと共に、パクパクとあんこ餅を食べていく楓さん。
……良いんですよ、あんこ餅くらいいくらでも食べて……!でも、それだけ食べても太らないって凄いなぁ……ああ!!だから……って寒気が!?
「……変な事考えてない?」
「滅相もございません!」
危ない危ない……!禁忌案件は、考えただけでも危険だった……!
……アレ?ところで……
「今更ですけど、どこ行くんです?」
僕の間抜けな質問に、ブハッと笑い出す力也さん。
「と、淘汰……!お前、出発の時の説明サラっと流しただろう?どうせなら、俺らの狩場に行くって言ってただろ?」
「ん?と、言うと?」
「……『深淵の森』。淘汰、ちまき無くなった」
「ええ!?もう無いんですか!?楓さん食べ過ぎですって!……って、ん?『深淵の森』って、確か……」
「ホレ、一角ドラゴンの話聞いてねぇ?Sランクの魔物やSSランクの魔物がうじゃうじゃいるところ。あ、淘汰。お茶、おかわり」
「あ、はい。……じゃ、なくて!!」
反射的に空我さんにお茶を入れ直す僕だったけど、僕、ほぼ新人ですよ!?
「なんてところに連れて行くんですかああああ!」
そんな僕の魂の叫びもなんのその。
無常にもジュドが引く馬車は、着々と『深淵の森』へと近づいていた。
『マスター、話はしっかり聞くものです』
……しっかりジュドにも念話で駄目だしされる僕。うん、浮かれていたのは認めるけどさ……とほほ。
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