第13話 サポートメンバーと初対面。
ゆっくり休んで日が暮れてーーー
朝がやってきました。
おはようございます。トウタです。
今日も朝からフェルトさんと蒸し風呂に入って、昨日の残りで朝ごはんです。
と言ってもアイテムボックス内に保管しているから、出来立てのパンと大量に作ったオークシチューと唐揚げ、新鮮な亜空間ワールド産フルーツというもの。
そう、昨日フェルトさんが腕によりをかけたのが、オークシチューと焼きたてパン。塩唐揚げは僕が作ったやつ。
朝だというのに塩唐揚げを気に入ったフェルトさんもラルクさんは、ガッツリ唐揚げを平らげて既に二皿目。僕も負けずに取らないと、あっという間に無くなっちゃう人気ぶり。
作った側も満足の喰いっぷりに、僕も自然と口角が上がるよね。
しっかり食べながらも、このメンバーでの食事は賑やかなんだ。もちろん内容は、今日の予定の事なんだけどね。
「僕らが『風光の跡』と会っている間、フェルトさんラルクさんどうしますか?」
「今日は私もマスターとともに行動しますからね」
「ん?ああ、ジュドもいねえのか。だったらラルク、ちょっとギルドの様子を見ておこうぜ」
「おや?珍しいですね。いつもは逃げようとするのに」
「そのあとの書類の山が嫌なんだって……」
口いっぱいに唐揚げ詰めながら器用に話すフェルトさんに、水を渡しながら「良い事です」と笑顔のラルクさん。あの笑顔に逃しませんよ、と書かれている気がするのは、気のせいじゃないと思う。
そんな2人の様子をニコニコしながら見つつ、僕もしっかり食べ終えて、口の中にクリーンの魔法をかける。
……歯ブラシないからなぁ。魔法あってよかったよ。
因みに、ジュドに戦国時代はどうしてたの?って聞いたら、塩を指につけて磨いていたらしい。フェルトさん、ラルクさんたちは生活魔法使えるから、歯ブラシ要らず。
僕は良いとこ取りが出来るから助かるよなぁ。
なんて思いながらクリーンをかけたお皿を片付けていたら、ジュドから声がかかる。
「マスター、私は先に獣舎に戻ってます」
「うん、わかった。僕もすぐいくよ」
ジュドの便利なところは、亜空間ワールドを出した事のある場所ならすぐに戻れる事。ジュドも何処からでも亜空間ワールドに戻って来れるからね。
片付け終わった後僕も入り口をギルド長室に繋げ、2人と共に亜空間ワールドを後にする。
「終わったら顔出せよ」
「お気をつけて」
もはや保護者と化している2人に見送られて、僕は一階の受付窓口に降りていく。
時間はちょっと早いくらいかな?
まだいないだろうな、と思いつつもナウラさんの窓口へと向かうと、何やら賑やかな声が聞こえてきたんだ。
「やべ……腹減った……」
「力也(リキヤ)、早くないか?って楓(カエデ)ちゃんも思いっきりお腹鳴ってるけど?」
「空腹……」
「あー、仕方ねえよ、雅也(マサヤ)。いつもの事だし」
「空我(クウガ)……なんで2人にパン渡しながら、お前まで食ってるんだ……!」
ぐおお!エンゲル係数がぁ!って言いながら頭を抱えている青年とモグモグパンを食べている青年2人と女性1人。
……気のせいかな?名前を漢字で呼んでる気がしたんだけど?
でも、目の前にいるのは、明らかに現地人パーティと思われるんだよ。明らかにガタイ良いし、髪の毛の色が深緑やオレンジや金髪に赤のメッシュが入っているし。
思わずジッと見ていたら、ナウラさんの窓口近くで足が止まっていた僕。ナウラさんが僕に気づいてくれて、僕と目があったらおいでおいでと手招きしてくれたんだ。
「おはようございます。ナウラさん」
「おはようございます。トウタさん。早速ですが、あそこで賑やかに騒いでいるのが『風光の跡』のパーティメンバーです」
ナウラさんは、リーダーのリキヤさんを呼んで僕とリキヤさんの仲介をしてくれたんだけど……
「やっぱり!名前からしてそうだと思ったんだよ!」
僕を見るなり嬉しそうに肩に手を置くリキヤさんに、なんの事!?と驚く僕。そんな僕の肩に手を置いたまま、ナウラさんに休憩所の確認をしてパーティメンバーのところへ連れて行ってくれたんだ。
すると、残りの3人も僕の姿を見て「おお!」「なっつかしー!」「黒髪……!」と僕を見て騒ぎ出したんだ。
ん?……もしかして……!
流石に僕も気がついて「あの……」と声をかけたら、「話は後々!」と言われ、背を押されながら獣舎に連れてこられた僕。
そして……
「ジュドぉ、迎えにきたよ……」
「マスター、何やらお疲れですね?」
「ちょっと予定外でね……」
ジュドの小屋の柵をあげて、迎えに来た僕は、気持ちがすでにぐったり。だって、さっきまで質問攻めだったんだよ。それも全員から。
『トウタ君13歳?もしかして年齢小さくなってね?』
『あ、だとすると!神様と接触あった?』
『うおおお!羨ましい!チートもらってるんじゃね?』
『食事どうしてる……?此処物足りなくない……?』
『待て待て、テイムも持ってるんだよな?』
『定番だとアイテムボックスと鑑定は必須だろ!』
『もしかして箱庭ある?』
『お醤油見つけてたりする……?』
……お分かりだろうか……?僕は一切何にも言ってないのに、全て僕の事を見透かされたように質問されているのを……!
そして、『風光の跡』のメンバー全員から次々に飛んで来る質問だけど、全部『日本語』で話していたんだよ……!
僕は驚きで「え?」「あの」「えっと……」としか返事が出来なかったけど、獣舎前まで来たら「先に隣の休憩場に行ってるなー!」ってサラッと現地言葉にして置いて行かれたんだ。
もうこれ、僕の事は確定されているし、風光の跡メンバー全員の立場も確定だよなぁ。
「ふむ……面白い事になりましたね。流石に亜空間ワールドは言い当てていませんが、マスターの立場をほぼ理解されてますね」
「うん。それに、まさか……全員、元日本人の転生者だとはね……」
「マスター?例え同郷者でも、今回はラルクの言う通り、亜空間ワールドの事は無しで進めますよ?」
「わかってるって。まずは、相手の意図を知りたいし」
「……すでに気を許しているみたいですが……まあ、私も判断しますけどね」
「うん、頼むね」
そんな会話をジュドとしつつ獣舎を後にして、休憩場の扉を開けるとーーーー
そこは緑の芝生が敷き詰められ、光が降り注ぐ体育館のような大きさの室内に、6人がけの木のテーブルと木の椅子が二組並んでいる場所だったんだ。
「おーい、こっちこっち!」
室内を見入って立ち止まっている僕に、わざわざ立ってこちらに手を振ってくれるリーダーのリキヤさん。遠慮してるって思われたかな?
呼ばれてジュドと共にメンバーが座っているテーブルに近づくと、「おおおお……!」という声が聞こえて来たんだ。
「すっげえ!本物のアレスタックスだよ……!」
「迫力あるなぁ……!」
「ん?結構可愛くね?」
「モフモフ……!」
どうやら風光の跡のメンバーは、アレスタックス姿のジュドを見て驚いているみたい。それを聞いたジュドも、なんだか褒められて嬉しそうに胸を張って歩いているし。
ジュドの様子に笑いを堪えながら近くまでいくと、僕はリキヤさんに勧められて隣に座ることになり、ジュドは休憩所の見回りに歩いて行った。
まあ、このくらいの広さなら、ジュドは何処にいても僕を通して聞こえるからね。
「さあて!まずは、改めて自己紹介といこうか!最初は俺から行くぞ?俺は、風光の跡リーダーの力也(リキヤ)だ。因みに歳は17な。チームの中では前衛の剣士職だ」
率先して場を仕切ってくれたのは、緑髪のウルフカットヘアで茶色の瞳の体格の良い180cmくらいの力也さん。剣は二刀流で、使える魔法は身体強化と風魔法だって。
「次は俺か。俺は前衛職で斥候の空我(クウガ)だ。歳は力也と同じ。宜しくな」
空我さんは、金色の瞳とオレンジの髪色のツーブロックショートヘアで、体格は力也さんと同等くらい。使える魔法は闇魔法と音響魔法だって。短剣がメインらしいけど、音響魔法って初めて聞いた……!
「次は私。力也兄の妹の楓(カエデ)。今年成人したばかり。私も前衛職剣士。身体強化魔法と重力魔法使える」
次に自己紹介してくれたのは、力也さんと同じ茶色の瞳と緑のポニーテール姿の楓さんは、スラッとした170cmくらいのモデル体型なのに、剣士という驚きの職種。
綺麗系の顔だけど……成人なんだね。
そう思ってつい胸を見てしまったその瞬間、何やらズシッと肩にのしかかって来て、「ウ“ッ」とテーブルに突っ伏す僕。
「ちょ、楓!止めろって!ほらほら、これで機嫌を直せ!」
メンバーの男性から何かを貰い、楓さんが機嫌を直してくれたのか、フッと軽くなって顔をあげる事が出来たんだけど……
うん、もう胸については禁忌事項なんだな……!触れないようにしよう……!!
決意を固めた僕に「悪い……!」と本人に代わり両手を合わせて謝ってくれたのが、サブリーダーの雅也(マサヤ)さんだったんだ。
「歳は17で、後衛職の魔法士だ。光と水と雷魔法を使える。さっきは、メンバーがいきなり失礼した……!」
水色の瞳で金髪に赤のメッシュが入ったマッシュヘアの雅也さんは、楓さんよりちょっと大きいかな?くらいの体格で、ほどほどに鍛えているだろうに、小さく身体をまとめて僕に頭を下げてくるんだ。
……この人、苦労しているんだなぁ。
ちょっと哀れみを込めて見ていた僕に、人の良さそうな雅也さんはメンバーの追加情報を教えてくれた。
「力也と楓は魔力過多症の家系で、常に魔力を放出しているからとにかく食事の量と回数が多いんだ。で、空我はただの大食い。……うちのパーティは宿屋暮らしだから、Bランクでも常に金が足りないんだ……!!」
悲壮感漂いながら内情を話す雅也さん。え?初対面の僕にそれ話す?と、ちょっと引いている僕の手をガシっと掴み熱弁する。
「そこに!ギルドからの依頼が入り、更にギルマスから食事は淘汰君持ちで良いと聞いた……!こんな美味しい依頼、逃すつもりはないからね!同じ元日本人として宜しく頼むよ!」
「ええと……は、はい!お願いします!」
もはや隠す気もない風光の跡のメンバー達に、押された僕も改めて自己紹介したんだけどさ。
全属性魔法より、アイテムボックス持ちをめちゃくちゃ喜ばれたんだよ。
これまでは、空我さんが闇魔法で収納していたらしいけど、時間経過はあるから食料を大量に詰め込めなかったんだって。
ワイワイと賑やかに僕を受け入れてくれたのは良いけど……フェルトさん!食料、僕持ちなんて聞いてないよ……!
とほほ……と思いながら遠い目をしてしまう僕に、念話で話かけてきたジュドが一言。
『マスター、このパーティ「当たり」ですよ』
……えええ?本当?
ジュドの見立てにもちょっと疑惑がかかる『風光の跡』のメンバー達だったけど、とりあえず「明日から宜しくお願いします」と頭を下げておいた、日本人気質の僕なのでした。
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