第11話 欲しいものが沢山あるよなぁ。
……ん?なんか匂いがする……?
ぼー……としながら起き上がり、目を擦りながら状況を確認すると、ジュドも起きたみたい。
と、同時にグワングワンと頭痛と吐き気が僕を襲ってきて、パタッとまた布団に横になる僕。
「うー……頭がガンガンするよぅ……」
「マスター、完全に二日酔いですね」
仕方ないですねぇと言いながら起き上がるジュド。そのまま小屋を後にし戻って来たと思ったら、うんうん唸る僕の前にコトッと陶器を置く音がした。
「大丈夫ですか?二日酔いにはコレが効きますよ、トウタ君」
「……ラルクさん……ありがとうございます」
どうやらジュドは本館に行って、ラルクさんを呼んで薬を貰って来てくれたらしい。ラルクさんの後ろで立っているジュドにも感謝を伝えておく。
頭痛に耐えながら起き上がりクイっと一気に飲み干すと、ハーブの様な爽やかな風味が喉を通り、スウッ……っと頭痛が消えていく。
「……!凄い……!あの怠さと頭痛が一瞬で取れた……!」
「これは酔い止め草を煎じたものですからね。ジュドさんに頼んで亜空間ワールドでも栽培してもらっているんです」
にっこり笑うラルクさんによると、酔い止め草は需要が高い割に発見率が低く栽培も難しい品種らしく、何とか定期的に納品出来ないものかと画策していたものの一つらしい。
きっちり成功させている辺り、流石ラルクさんというか、ジュドもちゃっかりしてるというか、亜空間ワールドが流石というか……おかげで助かったけどさ。
その話の流れで今後の予定も打ち合わせしているラルクさんとジュドを横目に、体の軽くなった僕は昨日入れなかったお風呂へと向かう事にした僕。
ササッとタオルと下着と替えの服を持って、お風呂に向かうと脱衣所でフェルトさんに会ったんだ。
「お?トウタも今から風呂か。蒸し風呂も準備できたから、お前も入るか?」
「あ、それじゃあ僕もご一緒させて下さい」
そうそう。戦国時代式蒸し風呂も、魔石と僕の付与魔法で簡単に入れる様に出来たんだ。だからフェルトさんはここに来て以来、蒸し風呂にしっかり入ってから水風呂、そしてじっくり湯船に浸かるのが習慣になっている。
……僕は蒸し風呂あんまり得意じゃないけどね。この体だと、すぐ茹だっちゃうんだ。
それに、このナヨナヨボディでフェルトさんのムキムキボディとあんまり一緒に並びたくないからなぁ。
なんて思いながら服を脱ぎタオルを腰に巻くと、既に蒸し風呂に入っていたフェルトさんの後に続く。
「うわ!フェルトさん熱くしすぎですよぉ!」
開けるとムワッと熱風が僕を迎えるけど、暑さに強いフェルトさんはなんのその。
「コレくらいじゃなきゃ思いっきり汗かけねえだろ?」
「うひぃ!」
流石はフェルトさん、熱さにも動じずニカッと笑いながらも隣に来いと、床を叩いて僕を呼ぶ。
うっ、あそこ1番熱い場所なのに……!
仕方なく二人並んで座り、たわいのない会話をしつつジワジワ汗が出始める頃になると、僕はもうアウト。フェルトさんにギブアップ宣言をして、蒸し風呂の外の水風呂にザボンッと入る。
「ふああああ!気持ちいい!」
頭まですっぽり水に浸かりザバッと顔を上げた瞬間って、最高にスッキリするんだよなぁ。
それに、亜空間ワールドにいるのはジュドと僕とフェルトさんとラルクさんという気が知れた男性陣だけ。ってなると、風呂場も脱衣所も木戸をガラッと全開放しても問題はない。
そう!室内にいながら露天風呂気分になるんだ。これがまた開放感が増して、更に気持ち良さが上がるんだよ!
「はあ……贅沢だよなぁ……」
水風呂に浸かりながら外の景色を満足気に見る僕。とはいえ、景色を見ていると、まだまだ足りないものが見えてくる。
「……生き物も欲しいよなぁ。それに山だって、湖だって、海だって欲しい。植物の種類もまだまだ足りないし……やっぱり仲間だって欲しいし……」
人間、贅沢言ったら際限ないんだなあ。
そんな事を思って水風呂から出ると、珍しく早めに蒸し風呂から出て来たフェルトさん。
「っかあ〜!やっぱ蒸し風呂から出た瞬間がサイッコウだわ!つか、トウタ。お前、何独り言言ってんだ?思わず出て来ちまったじゃねえか」
「あれ?口に出てました?」
「おう。欲しいものには際限がねえとかなんとか言ってたろ?俺は今でも十分だと思うがなぁ」
ザブッと水風呂に入りながら僕を見上げるフェルトさんは、「仲間が欲しいのはわかる気はすっけどよ」と言って顔をバシャバシャ洗っている。
……欲しいものが次々出てくるのは、現代日本人としての性だろうけど……仲間といえば、冒険者ってパーティ組んでるよな?有力なパーティを引き込むってどうだろう?
思いたった僕が早速フェルトさんに相談すると……
「駄目だな」
「うえええ?」
速攻で否定された理由が、僕のやり方だと危険だという事らしい。
「お前、どうせすぐ亜空間ワールドに連れてこようとか思ってただろう?お前、俺たちが普通に接してるから忘れているかもしれんが、そもそもここは異常だからな?」
フェルトさんのアドバイスという鋭いご指摘によれば……まず大前提として、亜空間ワールドはスキルとしても超規格外という事。
「復元、複製、再現ありの、作業工程無しで加工品も制作可能だの、とんでもない能力だからな?まだ未知数の能力もありそうなこのスキルは当面俺達だけが知っていればいい。……更にお前だ」
どうやらあり得ない魔法をポンポンと使い、アイテムボックス持ちで、アレスタックスをテイムしている子供はそうそういないそうで……
「下手に公にすると、ほとんどのパーティから狙われるだろうなぁ」
あ、その辺は納得。でも……
「だから、フェルトさんに頼っているんじゃないですか。誰か居ませんか?慎重で仲間思いで信頼できて、できたら強い人」
「お前なぁ……自分がまだなりたての新人だっつう事忘れてるだろ?お前だって同じ様に見られるんだぞ?まずは、お前がある程度依頼こなして信頼出来る事を周りに示してみろ」
水風呂からザバッと上がり、体を洗い出すフェルトさん。「信頼、信用は一日にしてならず」なんて言われたら、やるしかないよね。
「うしっ!」と気合いを入れて僕も身体を洗い、今日はサッサと上がって一つでも依頼をこなしに行こうと決意をした僕。
身体を拭いて服に着替えると、フェルトさんからギルドカードは既に出来ている事を伝えられたんだ。受付行けばもらえるんだって。
「あ、トウタ。お前のランクはCから出発させてるからな。実力はもっと上だが、常識が足りなさすぎる。って事で、1ヶ月間サポート役をつけといた。顔合わせしておけよー」
……なんだかんだ言っても、フェルトさん優しいよなぁ。結局僕の為に人を仲介してくれるんだから。
僕は感謝の気持ちと共にフェルトさんに返事をして、歩きながらジュドに念話を飛ばす。
『ジュドー?今どこにいる?』
『今はラルクと薬草園に居ます。どうしました?』
『あ、冒険者ギルドに行ってカード取りに行こうかと思って』
僕は念話でジュドにサポート役の事やランクの事を報告し予定を相談すると、今回は待機する事になったジュド。
ジュドの隣にいるラルクさんによると、今からやれる依頼は街の依頼くらいしか残ってないらしいからさ。
まあ、採取や討伐の常駐依頼もあるらしいけど、僕はサポート役の人と一緒がいいだろうという事で、ともかく受付にいって相談する様に言われたから、まずは行ってみて決めようと思ったんだ。
でもさぁ……どんな依頼あるんだろう?どんな人がサポートについてくれるのかな?ちょっとドキドキして来たね!
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