第10話 あれから一週間……
「やり切った……!!」
ドサッと地面に倒れ込む僕に、ジュドがカポカポ歩いて覗き込んでくる。
「マスター、お疲れ様でした。こちらとしても良いデータが取れてとても良い感じです」
「うん、だろうね……」
なんせ倒れ込んだ僕の向こう側には、おびただしい数の魔物の死体が転がっているからなぁ……
あれから一週間……ラルクさん主催のスパルタ魔法教育は、場所を亜空間ワールドへ場所を移し行われたんだ。
そのラルクさんといえば、地面に仰向けになりげっそり疲れ切った僕とジュドに向かって拍手をしながら歩いてきている。
「お疲れ様、トウタ君。後はゆっくり休んで大丈夫ですよ」
「……ラルクさん。ありがとうございました……!」
「いえいえ。今回はジュドさんの協力もあり楽をさせて頂きましたし。……でも、改めて驚きですよねぇ。【召喚】が亜空間ワールドでも出来て、更に、亜空間ワールドでは欲しい素材だけ取り出せる事も出来るとはね」
よっぽど嬉しいのか、珍しく表情に出して喜ぶラルクさん。毎回の訓練内容を、ジュドと遅くまで打ち合わせしていたくらいだからなぁ。
そう、この訓練は僕が魔法に慣れて上手く使えるようになる為っていう建前はあるんだけどさ……
「素材を丸ごと取り込めばデータは取れますから、複製や復元は可能ですし。こちらは魔石も頂けて有り難い限りです」
「いやあ、こちらこそですよ。なかなか取りに行けない深淵の森素材が手に入るんですよ?正直、埃を被った依頼が消化出来るとは思ってませんでしたよ!」
ジュドやラルクさんが言う様に、どうせなら年季の入った依頼の消化と、亜空間ワールドに召喚魔物を取り込みデータ採取の一石三鳥にしようって事になってたんだ。
「こちらもフィラメントスパイダーやスパンスパイダー、シルクやコットンスパイダーまで出してもらえて助かりました。おかげでマスターの為に服や布が制作できます」
「いえいえ。こちらもビックファビットやロングホーンゴート、まさかグレートディアやイエローボアの肉の定期的な仕入れが出来るなんて街の人が助かりますよ!」
二人の話にどこかの商人の話だろうか?と思いながら聞いているも、これらが僕の倒した魔物達。
ラルクさんは一度倒した魔物は召喚出来るらしく、冒険者のランクアップ試験の時にこの能力を使っているんだって。
……でもさぁ、いくらなんでも人サイズの大きな蜘蛛に囲まれるのは、叫んだよなぁ……
糸を取る為に火魔法駄目だって言われたって、うじゃうじゃいたら焼き払いたくならない?……まあ結局、蜘蛛めがけて雷撃喰らわしたけど。
でも、それで終わりじゃないのがラルクさんなんだよ……
いきなり大型のビックファビット(大きな兎魔物)を出されたり、群れでロングホーンゴート(角の長いヤギ魔物)出されたり、何度危険に晒されたか……!!
うん、生きてるって素晴らしい……!!
それにさ、僕、全魔法使えていたって、元日本人だっての!もう、最初は血を見たり、切り裂いたりするのは慣れないなんてものじゃなかったよ!
でも、スパルタラルクさんの調整と指導もあって、一日で慣れざるを得なかったけど……よくやったよ、僕。
あ、そうそう!この訓練でホワイトフェザーバード(大型の鳥の魔物)の羽毛が手に入ったんだ!
これで、羽毛布団が出来る!!
そう思って、ファビットカバーにホワイトフェザーバードの羽毛を入れて作って貰ったら、フワフワの肌触りの良いサイッコウの布団が出来たんだ。
あ、これは訓練中に作ったんだ。だから、付与魔法で熟睡、疲労回復をつけてすでに使っているよ。これがなかったら、毎日の特訓もこなせなかっただろうなぁ……
勿論、ラルクさんとフェルトさんにも差し入れしたよ?そしたら二人共金貨50枚(約50万円)をポンッと出すんだよ。布団が金貨50枚⁉︎って驚いていたらね……
「馬鹿か!お前、ファビットだけでも高いっつーのに、ホワイトフェザーバードの羽毛に付与魔法だぞ?これでも安いくらいだ!」
なんてフェルトさんに怒られたよ。その横で有無を言わさず笑顔で「断らないで下さいね」というラルクさんにも押し切られたけどさ。
この辺は、価値がわからないから僕が妥協しなきゃいけないんだろうけど……まあ、おいおい覚えていこうと思う。
で、もう良いよね……?後は、自由で良いんだよね?
「マスター、良いですよ。やりたい事があるんですよね?」
あ、また僕の考え読んだな、ジュド!でも良いや、OKが出た!
「よっし!じゃ、ジュド片づけ頼む!僕は果樹園に行ってくる!」
さっきまでの僕はどこへやら。やっぱりやりたい事って力が出るよね。
ガバッと起きて、僕は亜空間ワールド内の果樹園に向かったんだ。あ、果樹園っていつの間に?って思うよね?
ジュドがコツコツ本館の裏に作っていた果樹園。因みに菜園も田んぼも畑もあるよ。街で買ったいろんな物を、亜空間ワールドに取り込んでいたからね。
まあ、当然規格外なんだ。この亜空間ワールド。だって、取り込んですぐに芽が出て、成長して実がなるんだよ?それも、全て最高品質で。
そんな摩訶不思議な現象にも慣れてきたら、僕の舌もおかげで大分肥えちゃった。だって、街の食事じゃ物足りないんだよ。でもね、それは僕だけじゃなくて……
「トウタ君、今日もフェルトがくるそうだよ」
「はーい!じゃ、ラルクさんはお風呂先にどうぞ!」
「いつもありがとう。ゆっくり入らせてもらうよ」
そう。ここ最近は、亜空間ワールドの味に慣れたラルクさんとフェルトさんも一緒にご飯食べているんだ。しかも本館に泊まって行く事が多い。自宅より近いからって言う理由だけどね。
まあ、賑やかなのは僕も嬉しいし。
そうそう、ラルクさんに一度料理手伝って貰ったんだけど、人間不器用な人はトコトン不器用なんだって実感したよ。……あの人、ジャガイモ剥くのにすっごい時間かかるんだ。他にも味付けはおかしくなるし。人には向き不向きがあるんだねぇ。
っと、果樹園到着!
やっぱりここに来ると圧巻だね。周囲がフルーツの香りで充満していて美味しそうだし。
果樹園はね、今は葡萄棚に梨に林檎にオレンジとレモン、苺にブルーベリーもあるんだ。
やっぱり街の市場は揃っているからすごいよね。ただし、異世界産って事もあって、形はそれぞれ地球とは違うよ。味で名前つけているんだ。
それでいて亜空間ワールドのすごいところは、熟した状態で腐る事なくずっと木になっているってところなんだ。だから僕は使う分だけ取りにきているんだよ。
って、説明してないで、早く採って戻らないと。ええっと……オレンジ、林檎、葡萄を今日は採っておこうかな。
僕が果物をアイテムボックスに入れて運び台所へと戻ってみると、ジュドがすでに庭で待機をしていて、必要な物を作業台に出していてくれたみたいだ。
「ジュド、具材たっぷり出してくれた?」
「勿論です。マスター、味噌焼き多めに作って下さい」
「了解!じゃあ、今日はボア肉の粕汁と肉の味噌漬けとご飯だね!」
きっちりリクエストをしていくジュドが囲炉裏部屋の縁側へ移動していくのを横目に、僕も今日の献立を立てて調理開始!
と、言っても簡単なんだ。味噌漬けはもう昨日のうちにたっぷり仕込んでいるから、後は焼くだけ。ご飯もたっぷり炊いた時に、アイテムボックス内に入れているからこれもOK。
後は粕汁鍋だけ。
サッと野菜とお肉を下準備して、鍋で灰汁を取りながら肉、野菜をクツクツ煮て、しばらくしたら味噌と酒粕を合わせて投入。はちみつ欲しいけど、今日は砂糖で代用して……よしっ!完成!
後は今日の主役の登場だ!
「そろそろ良いかな〜?どぶろく君は」
そう!米も見つかったし、ジュドに出来るかどうか聞いてみたんだ。そしたら出来たんだよ、お酒!だから酒粕もあるんだ。
とはいえ、文化レベルは未だ戦国時代。主にのまれていたのはどぶろくなんだって。清酒もあったとはいえ、僕はどぶろくに興味を持った。以前は飲んだ事なかったからね。
ただ、牛乳や果汁で割って飲むのも良いって聞いていたから、それを用意していたんだ。一応こちらの世界ではまだ13歳だし。
え?未成年飲酒?良いんだ、ここは異世界だ!(強気)
頭の中で屁理屈を言いながら、肉を焼いたり果汁を絞っていると、お風呂から上がったラルクさんがこちらに来たみたい。
「お風呂はやっぱりいいですねぇ。ん〜、今日もいい匂いです」
縁側から靴を脱いで囲炉裏の間に入って来たラルクさん。最初に靴を脱ぐのに驚いていたのが嘘の様に、慣れた様子でいつもの場所へ座る。……手伝われるとその方が大変だからね。
「トウタ君。もう今日は解禁でいいんですよね?」
「はい!用意してますよ!」
僕だけじゃなくて、ラルクさんもどぶろくを楽しみに待っていたらしい。最初に出した時、寝かせる為に3日後って言った時の顔は悲壮感が漂っていたからね。
そんなラルクさんの表情を思いだしながら、お湯で燗していた徳利をふきんで持ち上げる。やっぱり最初は熱燗で飲んで貰いたいよね。
因みに、事前に土魔法で和食器作った時に、徳利とお猪口もついでに作っていたんだ。
「へえ、変わった形の入れ物だね」
「へへ……僕の故郷でも余り使われなくなっていましたけどね。風情があっていいでしょう?」
僕はお盆で運んだ徳利とお猪口の使い方をラルクさんに教え、まずは飲んで貰う。
「……ふむ……甘い酒とは。それに体が温まるね」
ラルクさんの口にあったのか、クイッと飲んでは口の中で余韻を味わっている姿にホッとする僕。良かった、異世界でも受け入れられるんだな。
そう思ってご飯を準備し終わって座ろうとしている所に、タイミングよく現れるフェルトさん。
「よお!お待たせ!つか、腹減ったわ」
「先に頂いてますよ、ギルマス」
「おっ!待望の異世界の酒だな!トウタ!俺にも!」
……僕は二人の料理人じゃないんだけどなぁ。
なんて思いつつもちゃんと準備していた熱燗を、いつもの席に座ったフェルトさんにも持っていく。
鍋は囲炉裏にかけているし、肉も多めに焼いたし。全員に配膳し終わった僕も自分の席に座り、手元のお猪口にどぶろくを注ぐ。
「へえ、これはこれで有りだな」
「米の粒々感もまた楽しいですね」
「ああ、どっしりと濃い酒だ」
フェルトさんとラルクさんの会話に、フェルトさんにも受け入れられたのを見て、僕もクイッと飲んでみた。
……うわぁ、結構強い……!
僕にはちょっと濃すぎたのか、一口でそのまま飲むのは無理と判明。そんな僕の様子に「お前はまだ早いって」とフェルトさんに笑われたけどさ。
その為に準備した割材の登場に、二人も興味深かったらしい。お酒に混ぜて飲む事を伝えると、面白そうに二人もやり出した。
「へえ、これも悪くないですね」
「ん?果汁入れ過ぎると苦くならね?」
なんて二人共色々試した結果、やっぱり最後は熱燗に落ち着いていた。今は囲炉裏の火にはやかんをかけているから、二人共自分で燗をしながらご飯を食べてる。
僕は牛乳とどぶろくの半々がスッキリ飲みやすくって、ついつい飲み過ぎちゃった。
酔った僕は、どぶろくを水代わりに飲んでいるジュドに絡みに行ったり、歌いだしたり。酔っ払った僕をみて笑う二人に、更に調子に乗る僕。
正直言って、この時の記憶は余りないんだ。でもはしゃぎ過ぎたみたい……
そんな賑やかな夕食は僕の寝落ちと共に終わり、その日もフェルトさんとラルクさんは本館にお泊まり。
僕はジュドの定位置で、むにゃむにゃ寝言を言いつつ、その日も気分よく熟睡した。
うん、やっぱり食事は人数が多い方がいいね!
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