第9話 二人目の協力者

 時間に囚われ無いのも良いけど、やっぱり動いて行かないと!


 だってお米は食べたいし、醤油だって欲しいし、布団だってフッカフカなモノ欲しいし!畑も果樹園も田んぼも欲しい!魔石は足りないし、まだまだ亜空間ワールドに情報も足りない!


 ……と言う事で……


 「相談に来ました!」


 「……お前はこの状態を見て物を言え」


 駆け込んできたのは、昨日協力者になってくれたフェルトさんのギルド長室。だっていつでも来いって言ってくれてたし!


 なんて言ってもやはりギルド長は仕事がいっぱいあるらしい。昨日は無かった書類の山に追われて、少し雑然としていたからね。


 「アレ?昨日はスッキリ綺麗な状態だったのに、いきなり仕事が増えたんですか?」


 「アイツのせいだよ……ったくめざとい奴だ」


 頭をガリガリ掻きながら書類にサインをしていくフェルトさん。するとドアをノックする音が聞こえ、フェルトさんが入れと促す。


 「好きな仕事だけして、ギルドがまわっている訳じゃないですからね」


 そう言ってガチャッとギルド長室の扉を開けて入ってきたのは、長い銀髪を後ろで一纏めにしてメガネをかけた長身の男性。


 ……フェルトさんと同じくらいの体格の良さだなぁ。


 「……わかってるっての。ともかくラルク、コイツが期待の新人だ」


 顎で僕を紹介するフェルトさんから僕を見て、にっこり笑うラルクさん。


 「初めまして、トウタ君。私はヴェルダン支部副ギルド長のラルクと申します。それにしても、アレスタックスが従魔とはすごいですね。そして、何やら興味深い事をウチのギルド長とやっているようですが、私も仲間に入れて貰えませんか?」


 思わぬ提案にバッとフェルトさんを見る僕だったけど、フェルトさんは首を横に振る。


 「俺は何も言ってねえよ。コイツは俺がギルド長室から消えた事を知っているだけだ」


 ……あ、そうなんだ。疑ってごめん、フェルトさん。


 「ええ、ギルド長から何も聞いてません。ただ、部屋から出ていないギルド長が居なくなって、部屋の一角に強力な魔力残滓を感じただけですよ?」


 ……魔力残滓って……アレ?亜空間ワールドの入り口ってやっぱり関係のない人には見えないんだ。でも、わかる人にはわかるって事?


 僕が不思議そうに黙ってラルクさんを見ていると、フェルトさんが僕に説明してくれたんだ。


 「あー……コイツは魔力感知が桁違いなんだ。どこに誰がいるか常時把握していてな。……おかげでサボれやしない」


 「そう言うギルマスがいるからですよ。まあ、このスキルで異変に気付きやすいので重宝していますが」


 「あ、因みにコイツもAランクの腕を持ってるぞ。それ以上にコイツの交渉の腕は頼りになる。腹黒い奴だが、俺が保証しよう。後はお前の判断次第だ」


 フェルトさんが安心するように説明する中、その時の僕の頭の中では違う事でいっぱいだったんだ。


 そっかぁ、バレる人にはバレるんだ……!って事は使う場所にも気をつけないといけないかぁ。いや、でもそうだったら、僕の部屋で亜空間ワールド開いていたのもわかっているって事だよね?


 頭の中で僕なりに整理していると、ジュドの声が聞こえてきた。


 『マスター、本来はそうそう気付かれる事はありませんよ。この二人がおかしいんです。それに、もう一人からも害意は感じられません。後はマスターの判断でいいと思います』


 うわ、僕次第か……!


 思わずラルクさんの姿をじっと見る。


 ……しばらくは此処を拠点としたいし、ギルド長や副ギルド長がついてくれたら確かに心強いよなぁ。何より腹芸が出来ない僕には、保護してくれる人も必要だし……


 「……わかりました。ラルクさん、まずは僕の話を聞いてくれますか?」


 僕は、フェルトさんに話したように、そのまま話せる事を伝えたんだけど……







 「……これは……確かに。ギルマスが心配するはずですよ。まさか初見で此処まで話をしてくれるとは……ね」


 ラルクさんは僕見ながら、少し困ったように苦笑していたんだ。でもさ、一応フェルトさんとジュドを信頼したから話したんだけど?


 「ああ、すみません。久しぶりにこんな素直な子に出会えたので、つい……!」


 僕がちょっと不機嫌になったのを察してか、笑顔で僕の頭を撫でるラルクさん。


 「でも、わかりました。まずはトウタ君の冒険者レベルをなんとかしましょう。ギルマス、今練習場は空いてますよね?」


 「ああ。今の時間は予約は入ってないな」


 「じゃ、早速行きましょうか」


 僕だけよくわからないままラルクさんに背中を押されて連れて行かれた、冒険者ギルド一階の中庭練習場。


 「うわ……広い……!」


 そこは練習場という名前の通りグラウンドがあったんだけど、ちょっとした野球場のように広く、緑の透明なドームで覆われていたんだ。


 ……アレ?でも街中でこんなに広いスペースがあるっておかしいよなぁ?


 僕が首を傾げていると、ラルクさんがその様子を見て説明してくれた。


 「此処はウチのギルドの自慢の練習場なんです。空間魔法で拡張し、魔法・物理防御結界も張ってますから、気軽に魔法の練習もできるんですよ」


 「へえ!凄いですね!……でも、なんで僕を此処に?」


 「まずは、トウタ君の実力の確認ですかね」


 そう言ってラルクさんが手をスッと前に出すと、かなり離れた前方に現れた人形の土人形。ええっと……10体動いているんですけど……?


 「私の得意魔法は召喚魔法でしてね。あの10体のゴーレムをトウタ君の力で倒してみて下さい」


 「えええ!あの、まだ戦った事ないんですよ!僕!」


 「大丈夫。ランクは低く設定しています。実践に勝る物はありませんから」


 そう言ってポンッと背中を押された僕。うえええ、と思っているとそこにジュドの念話も届く。


 『マスター、良い機会ですよ?やってみましょう、サポートします』


 ジュド〜!助かるよ、相棒!


 念話で感謝を伝えていると、僕に向かってスピードを上げて走ってくる10体のゴーレム達。


 怖いけど……やるしかないか!


 ようやく気持ちが固まり、僕は即座に自分の周りに球体の結界を張る。


 物理もだけど一応魔法も防ぐイメージを持って……!


 『マスター。土ゴーレムですから、そのまま風魔法で切り刻みましょう』


 「了解!」


 頭の中で風刃を乱れ打ちするイメージで両手を前に出すと……


 ゴオオオオオオオッッ!!


 「アレ?」


 爆風と轟音と共にゴーレムに向かっていった巨大な竜巻。力を入れすぎたのか、10体のゴーレムを吸い込み粉々にさせたのは良いけど、そのまま蛇行して暴走を始めちゃったんだ。


 「うわあああああ!消えろ!消えろ!!」


 慌てて魔力を使って消すイメージをすると、シュンッと消えたのは良いけれど……かなり地面を抉ってしまっていたんだ。


 「ええっと……その……」


 やりすぎた……と思って後ろを振り返ると、冷静に「あらら」と言って惨状を見にいくラルクさん。


 そのまま地面に手を付き「復元(リペア)」と唱えると、なんとあっという間に地面が元通りになったんだ!


 どうやらフェルトさんかラルクさんのどちらかなら、修復が簡単に出来る様にされているらしい。ホッとしたよ。


 でも、真面目な表情で僕を振り向くラルクさん。


 「おそらく落ち着いた状況では上手く使えても、動揺が生まれるとコントロールが大幅に乱れるようですね」


 「えっと……すみません」


 「いえいえ、想定内です。むしろこれくらいで済んで何よりです。但し、明日から行われる魔法初心者講習に、一週間びっちり参加して下さい。基礎はコントロールするために大事ですから」


 「はい!」


 元気よく返事をする僕に笑顔で提案してくれるラルクさん曰く、まずは僕自身のレベル上げを優先するらしい。採取の際の危険をなくす為と周りに対する牽制の為だって。


 勿論、亜空間ワールドもラルクさんに見せたよ。すっごい驚いていたけど、フェルトさんと同じくおっきなため息吐いていたけどね。


 「……これは、本腰を入れて鍛えないといけませんね」


 なんてボソッと呟いていたのを、この時の僕は知らなかった。


 そして、次の日の講師はラルクさん本人で生徒は僕だけという事や、スパルタ実践方式だった事も……

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