第8話 トイレリフォームと初クッキング

 寝付きも良ければ寝覚めも良い。

 おはようございます!

 ホカホカの場所から動きたくないトウタです。


 「マスター、朝ですよ」


 「うおっ!」


 訂正。熱源に逃げられたトウタです。……ジュドいきなり起きるなよぉ。


 「マスター、今日はどうしますか?」


 ジュドに逃げられて頭をかきながらようやく起きた僕にジュドが聞いてきたけど、出来るなら拠点を改善したいんだよなぁ。


 だって、夜中にトイレに起きた時、真っ暗でボットントイレに落ちそうになったし。今も朝とはいえ室内は薄暗いし。


 「うん。今日は拠点のカスタマイズかな」


 「特に厠ですね?」

 

 「……ん?なんでわかった?」


 「夜中に厠から『うわっ』って声がしましたから」


 「起きてたんかい……!」


 恥ずかしいところを聞かれた僕だけど、どうせなら開き直ってジュドの小屋の隣に厠を作ってもらう事にしたんだ。もうジュドと一緒に寝るのに慣れちゃったし、あったかいし。


 「マスター、このくらいの大きさでどうです?」


 「うん、良いね」


 なんて心の中で言い訳しつつ、ジュドに小屋から行くことの出来る二畳くらいの大きさのトイレを作って貰ったんだ。で、ここからは僕の出番。


 「【材質変化 水晶】」


 手に魔力を乗せてトイレの床と壁を触ると、パアアアッと光りながらイメージ通りに変化していく。これは、土魔法の応用みたいな感じ。


 そして、腰の高さまで床と壁をシトリン(黄水晶)に変化したのを確認してから「【構築】」を唱えると……イメージ通り、トイレの穴を覆う背もたれ付きの水晶便器が出来上がったんだ。


 それを見ていたジュドが一言。


 「……マスター。高級な厠になりましたね」


 「うっ!……やっぱり?でも、悔いは無い!トイレは綺麗な方が良いに決まってるんだ!それに、まだまだ!魔導ランプを窓際に置いて……付与魔法で消臭と浄化を便器に常時発動させて……っと」


 「もはやトイレである事が勿体ない気がしてきました」


 ……確かに。


 完成形を見たジュドが呟いたように、トイレだけが時代を超えているし、性能は現代日本以上って違和感満載すぎるかもなぁ。


 だけど!頻繁に使うものだからこそ自重したくない!って言うのが、この世界に来てから思っている事なんだ。どうせ僕のスキル内の事だし。


 よっし!だったらジュドの小屋もやっちゃえ!


 「ジュドー、小屋にも消臭と浄化魔法かけとくよー?」


 「マスター、だったら適温設定も追加しておいてください。今は春の気候ですが、これから暑くなるんですし」


 「了解!あと思ったんだけどさ、亜空間ワールドにファビットの皮取り込めば、複製と加工って出来ない?」


 「勿論複製は出来ますが、文化工芸レベルが戦国時代ですので加工するモノによりますよ?」


 「じゃあ、ファビットの毛皮で、大きな敷布団と掛け布団に加工出来る?」


 「いえ、当時は畳が敷き布団の役割を果たしていたみたいですので敷布団は難しいですが……大きな袋状には出来ますね。掛け布団は夜着(着物に綿を詰めたもの)が制作可能です」


 「ん〜……って事は綿が欲しいね。やっぱり寝るなら柔らかいところが良いし」


 「出来たら、ファビットも仕留めて一匹丸ごと欲しいのが本音ですね。肉と皮両方が亜空間ワールドで生産可能になりますし」


 「ファビットを仕留めて、綿を探すのか……この世界で快適さを追求するのって、結構大変なんだなぁ」


 「マスターの故郷は物が簡単に手に入りましたからね」


 なんてジュドと相談しながらも、朝の時点でトイレだけは完成。因みに座布団の大型版は?って聞いたら、それを亜空間ワールドの能力で作るには、江戸まで時代設定をあげなきゃいけないんだって。


 え?自分で作れって?……自分で作れたらそりゃ良いだろうけど、裁縫は苦手だし。かと言って街で頼むのも目立ちそうだし……


 しばらくは、ファビット絨毯とファビット夜着でいいかなぁ。


 なんて考えながら、ジュドに頼んで本館の屋敷に台所を作って貰ったんだけど……土間に竈に囲炉裏の文化レベルだったんだよ。


 流石にちょっとどうしようって思ったけどさ。気を取り直して、まずは台所の光源を確保しないと。


 そう思った僕が台所の窓という窓を全開にして、光を外から入れると大分明るくなったけど……一応魔導ランプも出して置こう。


 それにしても、竈に囲炉裏かあ……風情があって良いと言えば良いけど…


 「うーん、水は魔法で出せるから良いとして……鍋は雑貨屋で買ってあるし……まずは、やってみるかな!」


 ともかく試行錯誤!と気合いを入れた僕は、土間に土魔法で作業台を作って、天板部分を【材質変化 大理石】で加工してみたんだ。


 「ナイフは雑貨屋で買っといたし、まな板代わりの板も見つけたからコレも浄化してっと……」


 つい独り言を呟きながら作業台に材料とまな板を準備したけど……おっと危ない!火がすぐ使える訳じゃないから先に火をつけないと!


 「ジュドー!乾燥した木を出してくれる?薪のサイズにして出してー!」


 そうそう。ジュドは本館の台所に入れないから、庭からこちらの様子を見ているんだ。ジュドに叫んで頼んでいるのはその為。


 ……まあ、ジュドは亜空間ワールド内なら見えない場所はないって事、後から思い出したけど……


 「マスター、壁際に詰んでおきますよ」


 だからこそ、的確な場所に適量出せる有能助手のジュド。そしてジュドの有能さは止まる事はない。


 「ありがとう!で、例の物は作れるんだよね?」


 「アイテムボックスに材料ありましたので、既に作ってますよ?」


 「さっすがジュド!」


 すかさず僕がアイテムボックスから出したのは、日本料理に欠かせない味噌!昨日、市場で大豆見つけていたからね!


 だって味噌は戦国時代からもあったっていうから、ジュドに加工出来るか確認してたんだ。出来るってわかった時はやっぱり嬉しかったからなぁ。僕、生粋の日本人だし。


 で、鍋と味噌が揃っていたら、やっぱり豚汁しかないでしょ!


 「ん?オーク汁って言うのかな?まあ、どっちでも良いや」


 フンフンと上機嫌に鼻歌を歌い、薪を竈に焚べて火魔法で点火する。マッチの火をイメージしていたから、火が着くのにちょっと時間かかったけどさ。木屑も集めておかないとなぁ。


 吹子代わりの風魔法で火力を強めて……よし、良い感じ。


 水を入れた鍋を竈にかけて、僕はパパッと野菜を下準備して、オーク肉をちょっと厚めに切る。


 ダシがないから変わり種のベーコンも入れてみよう。


 火の調整をしながら、お肉、野菜、ベーコンを入れて、クツクツ煮込むと台所に優しい匂いが充満する。勿論、灰汁はちゃんと取ってるよ。


 でも、その間に隣の竈にも火をつけて、今度は竈にフライパンを乗せてオーク脂を溶かしてニンニクを炒める。あ、胡椒買い忘れた……まあ、お肉炒めはニンニク塩味でいっか。


 そんな感じで竈の前で調理する事しばらくーーー


 「ジュドー!お待たせ!出来たよー!」


 土間の隣の囲炉裏の間に完成した豚汁鍋を置き、庭に居るジュドを呼びながら、お椀に豚汁を盛りつける僕。勿論、ジュドにもジュド専用のお椀を用意してあるよ。


 そして、ジュドの為に縁側には山盛りのお肉のニンニク炒めをどーんと用意してみたんだ。ニンニクの匂いが食欲をそそるのか、ジュドがヒクヒク鼻を近づけている。


 「ちょっと待って」とジュドにお願いしながら、ジュドの豚汁も盛り付けて僕もジュドの隣で一緒に食べる事にしたんだ。一人で食べても面白くないからね。


 ジュドと一緒に「「頂きます」」をしてから飲むオーク汁は、優しいお味噌の味で、やっぱりコレが無いと朝じゃないって思ったよ。


 残念だったのはお米を炊く時間が無かった事。だってお腹空きすぎて我慢できなかったから、ちょっと合わないけど僕は昨日買ったパンで豚汁を食べた。……けど、やっぱり不満は残る。


 「ジュド、お米の精米やっておけばよかったよ……」


 「お米ですか……お米よりお肉が美味しいと思いますけどね」


 「あ、言ったな?よし、美味しい白米絶対食べさせてやる!」


 「別に白米じゃなくても良いですよ?」


 お肉があれば良いですし、と食べさせ甲斐のない発言をするジュドだったけど、豚汁もお肉も美味しそうにガツガツ食べてくれたのは嬉しかったなぁ。


 そんな僕らを包む亜空間ワールドは今日も晴れ。


 ポカポカの日差しと爽やかな緑の匂いと共に、本館の縁側で食後のんびり過ごすのも気持ちが良い。


 時間に縛られないって贅沢だよなぁ。

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