第5話 ギルド長室にて

 ええっと、もちろん逃げれる筈もなく……


 「ほれ、焼き菓子でも食え。茶はウチの街自慢の紅茶だ」


 ギルド長室でフェルトさんからもてなされています。


 ……この人オカン属性だ。


 だってさ、入るなり僕の上着をわざわざコート置き場に置いてくれるし、シワ伸ばしているし、椅子に座らせてくれるし、お茶は淹れてくれるし、クッキー?かな?これ手作りだって。しかも……


 「美味しい……!サクッとしてる……!」


 「だろ?今のところ俺の焼き菓子が1番美味えんだ」


 ニッと笑いながら自分の席に着くフェルトさん。男前で強くて料理まで出来るって、なんだこの人……羨ましすぎる……!


 紅茶をコクッと飲みながら思わずジッと見てしまった僕とフェルトさんは目が合うと、フェルトさんは真剣な表情に変わる。


 「さあて、聞かせて貰おうか?『不運な異世界人』さんよ?それか、『亜空間ワールド』って奴の方がいいか?」


 言われて思わずブッと紅茶を吹き出してしまった僕。ここでも「あーあー、やっちまったか」と即座に布巾を出して拭いてくれるフェルトさん。あ、すいません。……じゃなくて!


 「なんで僕の能力知って居るんですか⁉︎」


 「あん?ああ、俺は鑑定だけはSランクなんだわ。ここらじゃ有名な話さ。俺に隠し事は出来ないってな」


 ニヤニヤしながら説明するフェルトさんに、ガックリ項垂れる僕。参った……!もう見つかるなんて……!


 「……フェルトさん。僕、捕まります?王宮に閉じ込められるんですか?」


 「は⁉︎ なんでそうなる?」


 「だって、異世界人ですし……変なスキル持ってますし……危険人物って事で目をつけられたのでは?」


 ……ラノベではそれが定石だったし。あ、ジュドの件もあったか。


 急にオドオドし出した僕に、今度はブハッとフェルトさんが笑い出す。


 「ハッハッハ!そりゃ、危険人物だ!なんせ、アレスタックス従えてる時点で危険人物だわ。……だがなあ、見くびってもらっちゃ困るぜ。俺だってAランク保持者でギルド長だぜ?これでも人をみる目はあるんだ」


 ニッと笑って、僕の頭を優しく撫でるフェルトさん。その手はおっきくてあったかい。


 「それに、人の事を聞く前に自分の事を言うべきだったな。じゃ、改めて俺は、フェルト・ヴェルダン。ヴェルダン都市のギルド長でAランク保持者、で、ここの領主の三男だ。鑑定だけはSランク、一応『爆炎のフェルト』って名もある。因みに、趣味は料理だ。菓子、美味かっただろ?」


 「はい、美味しかったです!」


 「ん。子供はそれくらい素直が1番だ。で、まあ、ギルド長でAランクで辺境伯三男。これだけ揃えば大抵のものから守ってやれる。どうだ?話す気になったか?」


 そう言って片目ウィンクしても、男前は不自然じゃ無いから狡いよなぁ……


 『マスター、この男を巻き込みましょう。この街での採取が楽になります』


 既に絆されかけた僕に、念話で語りかけて来たジュド。ん?ジュド獣舎にいなかったっけ?


 『人が集まって来そうだったので、とっくに亜空間ワールドに戻ってますよ。それよりも、この男。マスターにとって役立ちます。多少腹黒いところもありますが、今のところ大丈夫でしょう」


 ……まあた、勝手に僕の思考を読んで……!


 『ジュドもフェルトさん鑑定してたの?』


 『同期してますから、マスターの能力はほぼ使えますよ?というか、誰かさんは異世界初の街に浮かれていましたからねぇ。私がやっておきましたよ』


 わざわざ念話でふうとため息まで送ってくるジュドに、イラッとしたり、ちょっと感心したり。


 だけど……うん、流石は相棒。だったら、安心して話が出来る。


 「フェルトさん、お気遣いありがとうございます。僕の事を話す前に念のため言っておきます。僕はこの世界では自由に各地を回って生きていきたいと思っています。だから一般人として過ごしたいんです」


 「ああ、わかってるよ。お前を囲おうなんて思っちゃいない。もちろん、知ったからと言って情報を流したりしない、と約束しよう」


 僕が言いたい事を先読みしたフェルトさん。真面目な表情で語ってくれたし、子供だからって侮る事もしないし……うん、大丈夫だ。


 「ありがとうございます。では……ジュド!」


 「ようやく呼んでくれましたか」


 僕が呼ぶとすぐに反応して壁に入り口をだし、そこから首だけニュッと出すジュド。……うん、壁掛けの剥製みたいだ。


 「っ!!壁からアレスタックスの首が!!!」


 その様子にガタタタッと椅子を倒し驚くフェルトさん。いや、まあ、気持ちはわかる……


 「ジュド……入り口だけ開いてくれたら良かったのに」


 「こんな面白い機会を私が逃すとでも?」


 相変わらず首だけ出してフンッと息巻いているジュドに呆れる僕の横で、フェルトさんは「アレスタックスが喋ってる!!」と驚きを隠せないようだ。


 「あー、それも含めて説明しますので、さあさあ中へどうぞ」


 ジュドがシュポッと首を亜空間ワールドに戻した後、フェルトさんの背中を押して亜空間ワールドの入り口を潜ると……


 「は?木や果樹がある?」


 「え?なんでお前が驚いてるんだ?」


 そう、まず声を上げたのは僕。そんな僕を見て更に戸惑うフェルトさん。……だって、つい朝までは草原風景だったのが、森林風景に変わっているんだ。


 そんな僕達を見て、自慢げにカポカポと歩いてくるジュド。


 「マスターのアイテムボックス内にあった採取物を取り込んだんですよ。データさえ有れば育成、複製はお手のものですしね」


 お前の仕業か、ジュド……!


 「待て待て待て!俺にもわかるように言ってくれ!」


 俺の両肩を掴んでガクガク揺らしてくるフェルトさんを落ち着かせて、ジュドに休憩空間を作ってもらった。けど……


 「ええと、ジュドさんや」


 「なんです?マスター?」


 「なんで一瞬で家作れるんだよ⁉︎」


 「昨日材料集めたじゃ無いですか」


 「だったら、僕昨日野宿する必要なかったじゃないか!」


 「焚き火楽しそうに作ってましたし……」


 「畳に勝るものなんてあるか!……あるな」


  平然と草葺き屋根の平屋を作ったジュドに詰め寄る僕だけど、確かにジュドの体温は素晴らしかった。サラサラの毛皮だったし。


 いやいや、それよりも……思わずジュドに愚痴吐いてたらフェルトさんそのままにしちゃったよ。


 振り向いてフェルトさんを見てみると、パッカーと口を開けたまま立ち尽くしていた。


 ……しかし男前って狡いなぁ、間抜けな顔もそれなりに見えるんだよ。クッ!イケメンめ!


 とりあえず羨ましい気持ちは隠しつつ、フェルトさんに近づいて平屋の中へ入って話をしよう、と誘うと正気に戻ってくれた。


 因みに、草葺き屋根の平屋は、畳の間12畳一部屋を木戸が周りを囲み、四方の軒下の周りに縁側だけの簡素なもの。


 ……靴を脱ぐ習慣はないだろうし……縁側でいっか。


 そう思った僕は、フェルトさんを縁側に案内し腰掛けて貰い、その隣に座りこの世界に来てからの事を話し出す。


 地球という全く違う世界から来た事。

 不運にも異世界衝突に巻き込まれた事。

 創造神からこの体とスキルを貰った事。

 亜空間ワールドとジュドの事。

 アレスタックスとの出会いの事。


 「……それで、街に来たら兵士さん達に囲まれて今に至ります」


 一通り話し終えると僕の隣で頭を抱えるフェルトさんが、唸りながらもなんとか頭の中を整理しようとしているのがわかる。


 ……まあ、あり得ない事満載だし。何より目の前で、現在進行形でジュドがやらかしているからなぁ……


 そうなんだ。僕が話している間、ジュドはずっとこの平屋の周りを整地しているんだよ。それも……


 「しっかりした塀と玄関は、やはり欲しいですね」

 「庭は……全面枯山水はやり過ぎですし、一部だけで後はとりあえず白石で整えましょう」

 「厠も必要ですね……」


 なんて言いながら頭を振って塀を出現させるわ、トイレを作るわ、鼻を地面につけて辺り一面白石だらけにするわと、アレスタックスの姿でカポカポ動き回っていたんだ。


 うん……材料とデータを取り込めさえすれば、ジュドやりたい放題なんだなぁ……と遠い目をしてしまう僕。更に、異世界にいるのに日本式の家屋って……違和感満載だ。まあ、今更か。


 そんな事を思いながら、フェルトさんが落ち着くのを待っていたら、隣から大きなため息が聞こえてきた。


 「はああああああ……!………よーーーーくわかった。お前らだけにしておくと駄目だって事がな……!」


 「アハハハ……言い訳ができません……」


 未だ木を生やしたり池を造ったりするジュドのやらかし中の姿を、遠い目で見てしまう僕とフェルトさん。


 「とにかく、このスキルは隠す事は必須だな。そのかわり、トウタ!お前の全属性魔法は解禁だ。サッサと冒険者ランク上げちまえ!」

 

 「えっと、登録もまだですけど?」


 「この後すぐにやりゃいいだろ。アレスタックスについては知られちまったからなぁ。むしろそれを納得させる動きをこの街でしておけば、他の街でも動き易くなるだろ」


 「っ!助かります!」


 「まあ、依頼だけは山ほどあっからこっちも助かるしな。それに俺も珍しい素材は集めるのに協力すっから、ここを出入りすんの許可してくれねえ?めちゃくちゃ面白そうじゃねえか!」


 「もちろん!喜んで!」


 「あー……チョロマスターは仕方ないとして、変な事考えてたらすぐ追い出しますからね」


 「わあってるって!」


 渋々の表情のジュドの言葉に、笑顔で握手するフェルトさんと僕。


 おし!どうなるかと思ったけど、この世界初の協力者ゲット!

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