第4話 異世界初の街 ヴェルダン

 はい!おはようございます!

 初野宿にも関わらず、ジュドのあったかさと心音がすっごい心地よくて熟睡した淘汰です。


 「おはようございます、マスター」


 「おはよう、ジュド。ありがとな。あと、気温あったかくしてくれただろ?」


 「マスターに体調崩されると、亜空間ワールドの進捗が遅れますからね」


 僕が起きてジュドにお礼をいうと、立ち上がり身体をブルルルッとさせながら捻くれたことを言うジュドだけど、僕に優しいのは知ってるし逆に可愛く見える。


 「ジュド、いい子いい子」


 「や、やめて下さいよ!」


 なんて満更でもない態度のジュドをひとしきり構い倒し、ようやく朝食に。と言っても昨日採った果実だけど、梨みたいな味で食べ易くて気に入っているんだ。


 ……でも、やっぱりご飯やパンや肉も食べたいよなぁ……


 「なあ、ジュド。今日こそヴェルダンに行くんだろ?」


 「はい。私に乗って行くならすぐですし。そこで色々仕入れてきましょう」


 「だね!了解」


 異世界初めての街だし、楽しみだよなぁ……!


 カプッと果実に囓りつきながら、その時は楽しみにしてたんだけどさ……僕は一つ忘れていたんだ。



  ◇


 「おいおい……!アレスタックスだぜ……!」

 「俺、初めて見たわ……!」

 「てか……ちっこいのが乗ってるけど、まさかアレが主人か?」

 「ちょ!あの大きさ!まさか……『閃光』か⁉︎」


 ザワザワと俺達を噂するヴェルダン街門に集まった人々。そして僕はというと……


 「それで、君は本当にこのアレスタックスを制御出来るんだね?」


 「はい、僕の相棒ですから!」


 「……この目で見ても信じられん……!本当に『閃光』ではないとは……⁉︎」


 アレスタックスのジュドに跨って現れた僕に、何度も尋問をする兵士長さんと兵士さん達に現在捕まっております。


 まさか街に入る前に兵士さん達に囲まれるとは思ってなかった僕は、現在の心の中では狼狽えている最中。


 『面倒ですねぇ、人の社会は……』


 『いやいや、考えてみたら当然だって!ていうかジュドは喋るなよ?』


 『わかっていますが、雷で薙ぎ倒したい気持ちになるのは性分ですね』


 『止めてくれよ?マジで……!』


 なんて念話でジュドとも会話をしていた僕達と困惑する兵士長さんの前に、イカつい体格の男性が入ってきたんだ。


 「サード、悪いな。遅れた」


 「フェルト……ようやく来たか」


 兵士長さんが安堵のため息を吐いて背中をバシッと叩いているのは、どうやらヴェルダン支部冒険者ギルドのギルド長さんらしい。


 おおお!冒険者ギルドって本当にあったんだ!


 内心厨二病が疼いた僕だったけど、兵士長さんとギルド長さんが何やら話し合いをした結果……


 「えーっと、坊主?お前、名前は?」


 「坊主じゃありません!淘汰です!これでも13です!」


 「はあ?13?7、8歳じゃねえのか?」


 ……ううう、まさかそこまで幼く見えていたとは……!というか、こっちの世界の人たちがデカいんだっ!


 「まあ、いっか。ほれ、じゃ入国料払ってとっとと街行くぞ?」


 ちょっと恨めしく思っていると、スタスタと街に向かって歩き出したフェルトさん。後ろ姿もなんか男らしくて狡いけど……


 「え?街に入れるんですか?」


 思わず聞き直した僕に、振り向いてニカっと笑うフェルトさん。


 「当然!現Aランク保持者が側に居るんだ。だが、まずはギルドでコイツの従魔登録してもらう。あ、トウタだったかお前も登録しろよ?」


 来い来いと手招きされて、ジュドに乗ったままカポカポついていくと、気にせず先導してくれたフェルトさん。


 ……この人は信頼してもいいんじゃないかな。


 だって、アレスタックスのジュドに触ろうとせずに、僕を見てキチンと話してくれる。正直、さっきからジュドを兵士さん達が触ろうとしていて、ジュドがイライラしてたんだよ。


 『マスター、ようやく入れますね……』


 『お疲れ、ジュド。よく我慢したね』


 『全く……カッコイイのも大変ですよ』


 『自分で言うか?それ』


 念話でジュドと会話しながら手続きをして門を潜ると、広がる街並みと行き交う人々。


 「うわぁ!緑と花がいっぱいだ!」


 思わず僕が叫んじゃうほど街の中はカラフル!あちこちの家の屋上や窓には緑の木々や鮮やかな原色の花達が咲き誇り、それが煉瓦の建物や石畳を彩っているから景観だけでも賑やかだ!


 そして街の中心でとりわけ目立つのは、屋上に大きな角を設置した3階建ての建物。


 「すっげーでっかい角……!」


 思わず口をパッカーと開けてジッと見ていたら、隣から笑い声が聞こえてきた。


 「ハハッ!だろう?アレはこの街の誇り、一角ドラゴンの角さ」


 「一角ドラゴン?」


 「聞いた事ねえか?辺境都市伝説にもなっている一角ドラゴン討伐の話」


 「……田舎から出てきたものですから」


 「ふーん、そっか。ならこの街の何処でも知っている有名な話だから、飯屋や酒場で聞いてみな!まずは、そのアレスタックスの登録が先だ。人が集まってきちまったからなぁ」


 フェルトさんが言った通り、立ちどまった僕らの姿は注目を集めていたらしい。道行く人々だけでなく、住民達も珍しいものみたさで集まってきていたんだ。


 その場はフェルトさんのおかげで解散にはなったけどさ。助かった……!


 そしてフェルトさんは、その後ピッタリ横について街の事を色々教えてくれた。どうやらギルド長自ら案内する事で、住民達に危険は無い事をアピールもしていたみたいだ。


 「大通りを挟んで冒険者ギルドの向かいに立つのが商業ギルド。奥が貴族街になっていて、小高い丘の上にあるのが辺境伯の屋敷だ」


 フェルトさんの案内によると、貴族もピンキリだから貴族街には出来るだけ入るなと言う事らしい。


 うわぁ……いるのか、貴族……!


 関わりたく無いと思いつつ話を聞いていくと、フェルトさんおススメの宿屋なら『緑の雫』や『青の花壇』。食事処は『カレダの食堂』『呉羽亭』で、市場は商業ギルド裏の大噴水公園で常時開催等と、有益な情報を教えてくれた。


 何もかもが目新しくてキョロキョロとしていたら、いつの間にか冒険者ギルド前に来ていたんだ。


 「さあて、目的地に到着だ。おっと、アレスタックスは流石に外だな。獣舎があるからついて来な」


 フェルトさんの後をついて行くと冒険者ギルドの隣にあった大きな建物の中に案内されたんだ。


 中は空気が循環されていて爽やかだったし、開放的な大型個室だったからジュドでも余裕で入れた。


 当然先客の従魔達もいたんだけどさ。鑑定すると、ワイルドグリズリーやライドホークやフォレストウルフ等、様々な従魔がいるのにみんなが大人しいしリラックスさえしているように見える。


 「フェルトさん、ここ色んな種類の従魔がいるのにみんな穏やかですね……?」


 「獣舎全体に鎮静と清浄の付与魔法かけているからな。みんなここでは静かに過ごせるようになって居るんだ」


 カチャンとジュドのスペースに鍵をかけて教えてくれるフェルトさんが、僕にジュドの部屋鍵を渡してくれる。


 『マスター。残念ながら私はここで待機してますが、何かあったら手加減しちゃ駄目ですよ?』


 ふあああと欠伸をしながら危険な事を言うジュドに、苦笑いで了承しながら僕はフェルトさんの後をついていく。


 そして、ギルド長自ら冒険者ギルドの入り口扉を開けて歓迎してくれたんだ。


 「ようこそ!ヴェルダン冒険者ギルド支部へ」


 フェルトさんが自慢気なのはすぐわかった。なんたってすごい綺麗なんだ。


 入って右に掲示板、左に待合室兼食堂、奥に受付窓口は定番通りだけど、煉瓦と白い石のツートンカラーの壁だったり綺麗な観葉植物まであるのは流石に違和感が凄い。


 だって、武装したガタイの良い兄ちゃんたちは健在だからなぁ。


 「お?ギルマス、新人っすか?」

 「ギルマス、例のアレスタックスの主人ってまさか……?」

 「小せえなあ。まだ10にもなってねえんじゃね?」

 「ガハハハ!コイツな訳ねえだろ?アレスタックスだぜ?」

 「おうおう、なんだ坊主?俺ら見せもんじゃねえぞ」


 言葉だけ聞いてると、荒くれ者の冒険者そのままなんだけどさ。5人とも雑巾持って壁や床や机や椅子を拭いているんだ。一人は観葉植物にジョウロで水までやってんの。


 ポカーンとしていたら、僕の前にスッと出て来てくれたフェルトさん。


 「あ“あ”あ“?てめえら、口より手を動かせや。まだ反省足りねえのかぁ?」


 僕でも感じられるくらい殺気を出すフェルトさんに、いかにも真面目にやってますと即座に態度を変える冒険者達。


 おおお……流石ギルド長……!すっげー怖っ!


 そんな内心怯える僕の頭に手を置いて、ニッカリ笑ったフェルトさん。


 「悪いな、アイツら食堂で暴れやがってな。反省中なんだ。さ、行くぞ」


 そう言ってフェルトさんが向かうのは2階へ進む階段で、受付窓口では無いんだ。思わず僕、どうして?って聞いちゃったよ。そしたらさ……


 「ん?じっっくり聞きたい事あるからなぁ」


 ニカッと笑うフェルトさんの顔に、逃さねえぞと書いてある気がした僕。


 ……うん。逃げても良いかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る