第3話 亜空間ワールドの力
そもそも老衰の個体なんですけど……?
なんていう僕の杞憂も何のその。ジュドは亜空間ワールドに入った途端に、アレスタックス[閃光]の身体を光で包み込んだんだ。
「……!メ“ヴェッ……!ッ……!」
「ジュド?何やってるんだ?なんか苦しんでいるぞ?」
『現在交渉中です。……はい、わかりました。安心して下さい』
「………メェ………………」
ジュドがアレスタックスと何か話しているらしいけど、しばらくするとさっきとは違う穏やかな表情になったアレスタックス。
でも、その光に包まれたまま、亜空間ワールドの大地に吸い込まれて行ったのには、流石に驚いた!
「えええ?ジュド?どうして?」
『亜空間ワールドはデータ無しの状況では何も生み出せませんが、データを取り込めさえすれば、再現や複製が可能になります。つまり……』
ジュドが続きを言いかけた時に地面の一部がまた光り出し、スウッと現れたのは……先程までの衰弱したアレスタックスではなく、若々しく勇ましい圧巻の迫力のアレスタックスの立ち姿。
「こういう事が出来るんです」
「うえええ!?喋った!?………もしかして、中身ジュド?」
「そうです。コレで一緒に動ける身体が手に入りましたし、マスターの移動も楽になりますでしょう?」
そう言いながらブルルルルッと首を振るアレスタックス姿のジュド。確かに圧巻の迫力だけど……
「うわおっ!すっごい毛並みいい!!すっごいデカい角!凄いカッコいいな!ジュド!」
語彙力乏しいって言わないでくれ……!僕、動物すっごい好きだったんだよ!それも、でっかい動物に埋もれてみたいってずっと思ってててさ!
「うひょー!」
ボフッとアレスタックス姿のジュドに突進して行った僕を、何も動じず受け止めてくれる力強いボディも最高!
「マスター?私に会った時より喜んでませんか?」
ちょっと不服そうなジュドには申し訳ないけど、確かに……!
スリスリと頬で撫でまくる僕に、呆れつつもジュドは更に亜空間ワールドについて教えてくれたんだけどさ。
どうやら亜空間ワールドには色々情報が足りないらしい。だから、異世界フェンゼルから情報を取り込む必要があるそうなんだ。
因みに、文化に関してはマスターの僕から情報を得て、日本人の歴代の文化がインストール済みらしい。今は戦国時代の文化様式だったら再現可能だってさ。
「ところで、何で石器時代スタートじゃなくて、戦国時代スタートなんだ?」
「その、マスターの私物、既に取り込んでますし……」
「え?……もしかして、バックか?って事は、携帯や財布もか……!」
俺が愛用していた革製のバックは、異次元接触の際に使用不可にはなっていたらしいけど、それがまさかスキルに利用されているとは……
「文化レベルだけは成長させないと再現出来ないのです。で、時代を進めさせる為に、マスターの私物という現代部品を取り込みましたが……それでもスキップ出来たのは、戦国時代まででして。あ、でも大丈夫ですよ!時間はかかりますが、いずれ再現できますし!」
そうじゃないんだよ、ジュド……!
思わずガクンと膝をついて落ち込む僕の背中に、鼻筋を押し付けつつ慰めてくれるジュドには悪いが、家族や友人の写真が消えたのもショックがデカい……!
でもなぁ……考えてみれば贅沢なんだよなぁ……
僕が生きているだけ凄いし、補填も充実してるし。………うん、落ち込んでもしょうがない!
「ん!わかった!すっごい不思議だし、ツッコミどころ満載だけど。いずれ僕好みの現代日本の生活レベルまで引き上げられるんだよな?」
グッと両手で拳を作り気合いが入っている僕の姿を見て、申し訳なさそうな表情のジュドが言うには……
「ええと……まずは文化レベルの前に、樹木や植物や食物の生活必需品の情報が必要でして。とりあえず、この林から植物や木を亜空間ワールドに運んで欲しいのです」
うん、ジュド。ヤギ顔なのに器用に表情作るね……
ちょっと肩透かしをくらった僕が間抜けな感想を思っていると、サッサと亜空間ワールドの入り口を出してカポカポと外へ出て行くジュド。
「わ!ジュド待てって!」
慌てて浮遊魔法で外に出ているジュドに追いついた僕は、そのままジュドの背中に乗せてもらう事にしたんだ。
でもさあ……
「ぎゃああああああーーー!ジュドーーー!」
崖を駆け降りる前にジュドに乗ったのは不味かった。揺さぶられるし、落ちそうになるしで、すっげえ怖かった……!!!!!
「流石に耳元で叫ばれるのは辛いです、マスター」
地上に着いて止まったジュドの背中からズルリと落ちて、地面に横たわる僕の姿は確かに情け無い。
「ハハハ……悪い……!」
ゴロリと仰向けになると、やっぱり地球じゃ見たことのない植物だらけの景色だけど……ここがこれから僕が生きる世界なんだよなぁ。
「うしっ!じゃ、ジュド採取するか!」
ムクッと起きた僕が振り向くと、呑気にムシャムシャ草を食べているジュド。ジュド……君、魔獣なのに草も食べるのか……?
「いっときますけど……私が口にしても採取するのと変わりないんですからね、マスター」
あ、また考え読まれてるわ。え?表情でわかる?……そっか、気をつけるわ。
こんな感じで始まった一人と一匹の異世界生活。
「ジュドー!やばい!コレ毒だった!」
「マスター!すぐ毒消し魔法かけて下さい!あと、鑑定使えって言ってたでしょう!?」
採取しつつもつい魔法が使える事を忘れる僕に、ツッコミを入れてさりげなく言葉が乱れるジュド。更に……
「マスター、あの実取って下さい」
「ん?雷で落とせば?」
「グチャグチャだと美味しくないじゃないですか」
「ジュド君や……君、味までこだわり始めたか……」
こんな掛け合いしながらフヨフヨ飛んでいく僕が採取して、二人?で「「美味い!」」と絶賛して食べまくったりとか、とにかく思いっきりはしゃいでしまったんだ。
もちろん、採取した木々や植物は異次元収納を使って運んでいるぞ。魔法って便利でいいよなぁ。
そんな感じで採取していたら、既に日が暮れ始めてしまったんだ。街に向かうにしても時刻は遅いし、安全な亜空間ワールド内で休む事に。
それで、林で拾ってきた石と細技で焚き火をしながら、地面に座りこむジュドの大きな身体を熱源に眠る事になったんだけどさ。
「なあ、ジュド……これから亜空間ワールドにも拠点が必要になるよなぁ……」
パチパチと音を立てる焚き火を見ながら独り言のようにジュドに問いかける僕は、ジュドに背中を預け心地よい温かさから既に眠気に襲われていた。
「……その為には……木も必要だし……畑も……果実も必要だし……やる事が……いっぱ……い……………」
最後まで言葉を紡ぐ事も出来ずにスウッと寝落ちした僕は、夢の中でもジュドに楽しそうに展望を語ってた気がする。
「おやすみなさいませ、マスター。いい夢を……」
そっと亜空間ワールド内の気温を上げてくれた、ジュドの優しい言葉を朧げに聞きながら、ね。
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