第4話 丸見えジェントル
マダムマダムと来まして、お次はジェントルの登場です。
ちなみに、全然ジェントルではありません。それを言うなら『マダム』もそうです。もうズバリ言っちゃいますけど、もう全然マダムではありません。気を遣ってそう書いてます。実際はもう全然『おばあちゃん』ですし、今回のジェントルも『おじいちゃん』です。
さて、そんなジェントルのお話です。
もうタイトルからして嫌な予感しかしませんね? そういう直感は大事にしてください。当たってます。当たってますけど、たぶん、「何だ、そっちかよ」って思うはず。
それはお昼休憩の直前でした。
前半のお仕事を終え、ウキウキと休憩室に向かいます。まぁそう大してココロオドル昼食は持ってきていないのですけれども、それでも休憩はウキウキするものです。
で、休憩室で昼食の準備をしておりますと、遅れて入ってきたKさんとSさんが何やら、気持ち悪いだの、何だのと話しているのです。何だ何だ、何があった。
経験上、この手の話はお客様絡みです。そして、そのご多分に漏れず、やはり直前に遭遇したお客様に対するものでした。
「宇部さんは見た?」
「何がですか?」
「ジジイよ、ジジイ」
ジジイ呼ばわりです。相当アレなジェントルだった模様。
「どんなジジイだったんですか?」
「丸出しよ、丸出し」
「そう、丸出しっていうか、丸見え?」
出してはない、と。見えているだけのようです。わかりますか、このニュアンスの違い。積極的に露出しているわけではないのです。ただ、すべて見えているだけ。
じゃあ、どこが? って話になるじゃないですか。むしろ一番大切なのはそこ。何がどう見えているのか。
尻でした。
そっちかー! ってなったでしょう?
ジェントル(♂)で丸見えって言われたらフロント部かと思うじゃないですか。バックだったんですよ。
詳細はこうです。ちなみにこれはエッセイでも書いた話です。前回とちょっと違うかもですが、もううろ覚えなので、前回と違う部分は、そういうフェイクだと思ってください。
そのジェントル、どうやら寝具を求めて来店したご様子。ですが、売り場がわからず、サービスカウンターにやって来たとのこと。
そこでカウンターのTさんが店長を召喚。で、基本的にお客様は売り場まで直接ご案内しましょう、ということになっておりますので(ただしお客様が「場所だけ教えてくれ」と言った場合はその限りではない)、店のトップである彼は、そのジェントルを寝具売り場までエスコートすることになりました。
くるりとUターンし、カウンターに背中を向けたジェントル。
その時にTさんは「あれ?」と思ったそう。
「あのお客様のズボン、どうして尻のところだけ肌色なんだろう」
現在、『肌色』というのは差別的な表現だということで、ペールオレンジ、なんて名前を与えられたと聞きますが、Tさんは私と同年代。まだまだ『肌色』の世代です。というか、実際に質感が肌のソレ。ペールオレンジとかじゃなくて、もう完全にジジイの肌――じゃなかったジェントルのスキンです。
ノーガードの視界に飛び込んで来た突然の視覚的暴力に、Tさんは自分の目がおかしいのかと思ったそう。そりゃそうです。だって、ご丁寧にも尻の部分だけ、それも、まぁなんていうかな、全部出てるとかじゃなくて、
そんなデザインのズボンがあるのか?
そんなの私も知りません。
ですが、例えば寝たきりの方の介護用として、そんなデザインのズボンがあったような気がするのです。あったような気がするだけなので、実際にあるのかはわかりません。
ですがとにかく、そんな奇抜なデザインのズボンをお召しになったジェントルだったよう。
百歩譲ってですね。
そのジェントルが現在介護中だとして、そのデザインのズボンを日常使いしていたとしてもです。
なぜお外で履いちゃった?
しかも、肌が出ているということはノーパンです。まぁ、そのデザインのズボンの目的を考えたらノーパンでの着用が当たり前なのかもですけど、外に出るのならパンツは履こうぜお客様。
そして、まだ書いてませんでしたが、その時の季節は冬。東北の冬です。さらに言えば、そのジェントル、自転車でのご来店でした。凍てつく冬が、丸くくり抜かれた穴から容赦なく襲い掛かって来るのです。それでいて、キンキンに冷えているであろうサドルです。猛者。強者の尻です。尻が強すぎる。強すぎるが故にそこだけ鈍感になってしまったのかもしれません。
これまでも奇抜なファッションのお客様は数々ご来店されましたが、私の中では過去一です。ですが、実際に見てはいません。それだけが心残りです。嘘です。見なくて良かった。
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