角煮
ぷるんぷるんの豚肉としみしみの大根。
汁の染み渡った卵にざく切りのネギ。
今日は久しぶりに角煮が食卓に並んだ。
一人一皿。一つの皿には角煮が三つ。
母さんが作った角煮は少し軽めで僕が一人暮らしで作っていたやつより色が薄い。
でも、僕はこの角煮が一番好きだ。
口に入れればほろっと崩れ、優しい味がいっぱいに広がる。
箸なんか止まるわけがない。
「あ、」
弟が悲鳴にも似た声を出した。
みんなの視線は弟の顔に集まる。
「なに?」
母さんが尋ねる。
「いや、ご飯が余った」
弟のおかずの皿には油だけが浮いている。
どうやら、角煮だけを食べてしまって、ご飯を食べ進める為のおかずがなくなってしまったらしい。
すると母さんが
「私の食べわなさい。油っこくてきついわ」
つるんとした角煮を一つ摘み上げ、弟の皿にトンっと置いた。
もったいないことをするもんだ。こんなに美味しいのに。
弟はつつがなく、ご飯を食べ進めた。
また弟が声を出した。
「あ、」
みんなの視線は今度は弟の茶碗に集まる。
ご飯をおかわりしたのはいいものの、またおかずを切らしてしまったらしい。
するとばあちゃんが
「ほい、あげよう」
つるんとした角煮を一つ摘み上げ、弟の皿にトンっと置いた。
惜しいことをするもんだ。こんな楽しみ滅多にないのに。
しかし、僕は気づいた。
どう考えても角煮一つじゃ、ご飯は食べきれない。
そんなのはどうでもいい。僕は角煮を楽しもう。
つるんした角煮を一つ摘み上げ、弟の皿にボトンっと置いた。
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