第4話 わたしの彼
一目惚れだった。まるで雷に打たれた衝撃。
もちろん、いままで雷に打たれたことはない。他に表現するなら、身体中に電撃が走ったとか、心臓を矢で撃ち抜かれたとか。とにかくありえないことがわたしの人生で起こった。
そう、初めて彼を見たとき。
それは流行りのショッピングモールへ買い物に行った時のこと。ひとり気ままに、といえば聞こえはいいが、平たく言ってしまうと彼氏もいない、気のおける友達もいない。そんなわたしがモールを歩いていた時に彼と出会った。雑貨のお店の前にいた彼。出会った瞬間から恋に落ち、わたしたちの関係は始まった。
彼ができてからは、毎日が薔薇色だった。ただ彼は天気の悪い日と真夏日のような日差しの暑い時でないと外へは出かけなかった。正直、偏った彼だけど、好きになってしまえば関係なかった。だって、彼と出かけられるのだから。
そして彼はとてもスマートなスタイル。無地好みのファッションセンス。そんな彼と歩いていると、必ず振り返られるのが分かる。それくらい彼は素敵だった。
でも別れは突然やってきた。
いま思うだけでも悲しくなってしまう。それは季節外れの台風の日だった。やむ負えない事情で外出することになったわたしたちは暴風雨の中にいた。彼は懸命にわたしを守ってくれた。それなのに彼は全身の骨を折ってしまった。なぜあの台風の日に外出してしまったのだろう。悔やんでも悔やみきれない。しばらくして、彼はわたしの前からいなくなった。
そして今日、家に帰ると留守電にメッセージがあった。
『ご依頼の修理が終わりました。ご都合の良い日にお越しください』
次の日、わたしは急いでお店へ行った。彼をお迎えに行くために。新品同様になった彼。一目惚れした日のことを思い出した。
わたしの彼は素敵なアンブレラ。
<了>
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