白銀の騎士

@yakiniku1111111

第1話

白銀の聖騎士-第一話-「出会い」




辺り一面に死の臭いが充満していた

道には死体の山が積まれ、建物は見る影もなく破壊され瓦礫の山を築いている

その地獄のような恐ろしい場所で



一匹の化け物と一人の女騎士が戦っていた



開け物から放たれる辺り一面の空気を揺るがす凄まじい方向

常人であれば その咆哮をあびただけで身がすくみ身動き一つできないであろう それを女騎士は平然と聞き流す


化け物が持つ巨大な腕から振るわれる殺意が籠った殴打乱舞

常人であれば避けることが不可能な速度で繰り出されるその攻撃は一撃で四肢が霧散し確実な死をもたらす殺意の連撃を

女騎士は全て最小の動きで紙一重で回避し続ける


女騎士は圧倒的なまでに強かった 客観的に見れば体格、腕力、速度と化け物が女騎士を遥かに上回っていた

女騎士に万が一の勝ち目はない・・・はずだった


しかし女騎士が、持つ 戦いの技量、経験がその差を縮めていた 縮めているどころではない

徐々にではあるが女騎士が化け物を追い詰めて来ている


化け物の顔に明らかな焦りが現れる その表情が語っている「こんなはずではなかった」と

「俺は白銀ノエルより強い魔族の王に白銀ノエルを超える存在になっていたはずなんだと」


化け物はもう悟っていた、白銀ノエルには勝てないであろうことを そして確実に訪れるであろう戦いの敗北、それに伴い訪れる自分の死を


本当は戦う前からわかっていたのかもしれない・・・白銀ノエルに勝てないであろうことを

化け物にとって白銀ノエルとは特別な存在であったのだから




時は数年前に遡る


化け物と白銀ノエルが化け物と戦う数年前のとある街の片隅での出来事だ

一人の少年が暴行を受けていた

どうやら少年は盗みを働いたらしい

露天商の男から容赦のない罵詈雑言、暴力を少年は受け続けていた


少年は明らかな孤児だった、服とはとても言えないほどボロボロになった ほとんど布切れと言っていい服を纏っており

身なりは薄汚れていて体は異様な臭いを放っていた


周りの町人はそんな少年を憐れみのこもった目で見ている

誰しもが思っていた「盗みを働いたのは確かに悪いことだが小さなリンゴ一つ盗もうとしただけでやりすぎなのでは?」と

だが誰も助けようなどとは思わなかった、この国ではよくある光景

彼のような国籍もないような孤児は人間扱いされないのがこの国では常識なのだ

その証拠に街の衛兵が横目でちらりとこの暴力現場を横目で見たが欠伸をかみ殺した表情で見ないふりをしてどこかへ行ってしまう

国民の平和を守るべき衛兵が 少年を人間として見ていない なによりの証である

けれどもこの世界では珍しいことではないのだ このような場面では少年のような存在は見殺しにされる


それが常識だった


「ごめんなさいごめんなさい、ぼ、ぼく どうしてもお腹が減っていて 頭がふらふらしていてなにも考えられなくなって」

少年の言う事は心の底からの本音だった 盗みを働くつもりはなかったのだが 少年は一か月以上なにも食べていなかったせいなのか

なかば夢遊病のような状態になってしまい 無意識のうちにリンゴを手にしてしまったのである

「知るか そんなもん馬鹿が おまえのような薄汚いガキはな飢えて死のうがどうなろうが この街じゃどうでもいいことなんだよ

おまえの命なんてな その小さなリンゴ一つ分の価値だってありゃしないんだ 死ね死ね死ね 死んでしまえ このゴミくずが」


少年は殴られながら思った「この露天商の人の言う事は正しいな・・・って」

思えば 少年には生まれた時からこの世界に居場所がなかった

父と母はとうの昔に殺され 自分はこの世界で一人ぼっち

自分に価値がないと露天商の男に言われるのも当然だろう


だって自分自身ですら僕は生きる価値のある人間ではないと思っているのだから

その証拠に誰一人として僕に手を差し伸べてくれないじゃないか

こんなにも・・・たくさんの人がいるのに


このまま露天商の男に殺されたとしても構わないかとだんだん思い始めてきた

この先生きていてもどうせ自分など誰からも必要とされない誰からも愛されない人間なのだから、そう思い始めた時だった


「もうやめてください」

少女の声があたりに響き渡った

「盗みをしたことは確かに悪いことだと思います、でも小さなリンゴ一つでやりすぎではないですか?」

少女は切実な表情で露天商に訴えかける

「それと謝ってください その子がその小さなリンゴ一つ分の価値もないなんて暴言を吐いたことを 絶対にそんなことあり得ませんから」

少年は驚きの表情で突如この騒ぎに乱入した少女を見ていた


生まれて初めてだった 父と母以外の人に 手を差し伸べられたことが、暖かい言葉をかけられたことが


「そんなこというならなお嬢ちゃん 商品をこのガキの代わりに弁償してもらおうか こんな薄汚い手で触られてもう売りもんにならなくなっちまったからな

迷惑料含めて売値の10倍の価格で買い取ってもらおうか」


少女は露天商の男に叩きつけるようなお金を支払った

露天商はしぶしぶと言った感じで少年を解放する

最早盗みのことに関してはどうでもよくてただただ少年をいたぶりたかっただけなのかもしれない


「もう大丈夫だよ、君 お腹がすいてるの?行く当てはあるの?ないなら うちに来なよ ご飯も食べさせてあげられるし なんならうちに住んでもいいよ

さぁ行こう」


差しのべられた少女の手を少年は取るのをためらった


「助けてくれてありがとう・・・でも僕に触らない方がいいよ・・・僕、臭いし汚いし 君が病気になるかも・・・」

少女はそんな少年の言葉には構わず しっかりと少年の体を優しく抱きしめる

「そんなことどうでもいいから行こう」と


少女の腕はとても暖かかった

少年は忘れていた 人のぬくもりがこんなにも暖かいことを

人間の腕にこんな優しい使い方があったのだということを


「私の名前はソアラ 君の名前は」

「ティオ」

「ティオ君か いい名前だね これからよろしくね」

少女は太陽のような笑顔で少年に笑いかけた


ティオは後にこう語るー僕たちは出会わなければ良かったーのだと


この出来事は とある街の片隅で起きた 誰の記憶にも残らないような とても小さな事件だった


そんな少女の姿を 街の人ごみの中から見ていた一人の男がいた


この出来事は 普通であれば、あの時はつらかったけど、いい思い出になったねと後の語り草になるような 小さな事件であった


だが確実に ティオの運命をソアラの運命を大きく歪めたきっかけになった 大きな事件だったのである





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