2-4 決闘の最中に

「アラン!!負けないで!!」


 ルビィが腹の底から声を出して叫ぶ。

 アランは声援に応えるように、その身体能力で素早く間合いを詰めた。まるで瞬間移動だ。


「くっ!!」


 上段からの激しい振り下ろし。ハインツの模擬剣は、一気に叩き落とされた。アランはすかさず、ハインツの肩に模擬剣を当てる。


「一本!!」


 審判の声が響く。二本目は速かった。


「ってぇ、なんつー馬鹿力だよ……」


 ハインツは手を押さえながら、笑っている。


「さっきのお返しだ」

「お前さ、見たところ本当はカウンタースタイルだろ?自分のスタイル捨てて、大丈夫かよ?」

「勝てれば何でもいい。ルビィは渡さない」


 ハインツの煽りにも、アランは応じず冷静さを崩さなかった。その後の戦いも、どちらが勝つか分からない接戦が続いた。

 

 「一本!」

 「一本!!」


 ハインツが先制攻撃で一本、アランがカウンターで一本と、順番に取った。

 三本先取制なので、次の一本で勝負が決まる。

 戦闘が長引いているので、二人とも体力の消耗が激しいようだ。身体能力で押しているアランの方が、やや不利とも言える状況かもしれない。

 ルビィはもはや、両手を胸の前で組んで、祈るようにアランを応援していた。


 ――――負けないで、負けないで!まだ二人で、旅を続けるのよ……!!


 「アラン!!」


 アランは力を振り絞り、素早く間合いを詰める。再度上段から鋭い振り下ろしを行う。ハインツが受け止めるが、その隙にアランは足払いをかけた。

 見事にかかり、ハインツの体がぐらりと傾く。

 だがそこでハインツは踏み止まり、剣を思い切り振り上げた。


「もらった……!!」


 アランの剣がそれを受け止める。と同時に、円を描くように剣を滑らせ、ハインツの力をいなした。


「……!?」


 ハインツに大きな隙ができる。絶好のカウンターチャンスだ。すかさずアランは、斜め下から模擬刀を入れようとする。


 ――――勝てる!


 ルビィがそう思った、その瞬間である。

 

 ドン!!

 

 大きな、大きな音がした。

 会場は騒然とする。


「銃声だ!」


 誰かが叫んだ。ルビィが見ると、アランの肩から血がドッと吹き出した。

 円弧を描いて吹き出す血の軌跡を、ルビィは呆然と見つめていた。

 

「銃撃だ!!アランが銃撃された!!」


 もう勝負どころではない。ハインツが剣を捨てて、倒れ込むアランを支えた。


「アラン!!おいアラン大丈夫か!!」

「しょう………………ぶ…………………………」

「それどころじゃないだろ!!」


 ルビィはガラス玉を銃に充填し、魔法を使った。


「残渣追跡≪トラッキング≫」


 しかし銃から出た光は、宙を彷徨った後に、すっと消えてしまった。これが魔法での攻撃ならば、攻撃主を示すはずなのに。


「犯人の追跡ができない!魔法じゃなく、本物の銃だわ」

「ルビィ!!それどころじゃねえ!!毒だ!毒が仕込まれてる!!」

「何ですって!?」


 ルビィは中央に駆け寄ってアランに手を当て、診断を始めた。

 アランは呼吸困難を起こしており、うまく話せないようだ。口唇と指先に痺れが見られる。


「毒鑑定≪アプレイゾル≫」


 魔法を使って鑑定を行う。すぐに結果が出た。


「神経毒よ!!魔草の……ウーリー草の毒!?どうやって弾丸に仕込んだのかわからない……!!これは、特殊な魔法…………と、とにかく早く治療しないと!!」


 ルビィは治療用のケースからガラス玉を選び出し、すぐに起動した。


「解毒≪デトキシフィケーション≫」

 

「……表面の毒は、中和できた。でも体内に回った分は……専門の解毒師がやらないと……!!」


 ルビィはぐったりしたアランを横たえ、意識の有無を確認する。


「アラン!!アラン聞こえる!?」

「……………………」

「すぐに治癒師を……解毒の専門家を呼んできて!!」

「わかってる!!もう呼んでる!!」 

 

 冒険者の誰かが叫んだ。場内は騒然としている。アランは朦朧として、呼吸が難しいようだ。銃の弾丸は、アランの肩を貫通していた。駆け寄ってきた冒険者の一人が自らの衣服を裂き、止血をしてくれている。

 ルビィは片手をアランの額に当て、もう一方の手の二本の指を顎の下に当てて気道を確保した。

 自発呼吸がない。

 すぐに鼻をつまみ、口を大きく開けさせて息をゆっくり吹き込む。人工呼吸を行うのだ。


「脈がなくなった!」


 脈を測っていたハインツが言う。ルビィは人工呼吸を二回行なった後、心臓マッサージを開始した。胸部の下半分に片手の手のひらの付け根を当て、その上のもう片方の手のひらを当てる。肘を伸ばし、胸全体が四センチほど沈むように圧迫する。適切な速さで、十五回。人工呼吸と併せて、交互に行なっていく。


 ――――お願い、お願い戻って…………!!


 どのくらい時間が経ったのだろうか。それは永遠にも感じられるような、長い時間だった。

 人工呼吸と心臓マッサージを十サイクルほど繰り返した時、ハインツが叫んだ。

 

「脈が戻ってきた!やったぞ!!」

「……………………………………ゲホッ……………………ケホッ!」


 脈拍が戻った。それに遅れて、アランがようやく息を吹き返した。


「アラン!!」

「解毒専門の治癒師を連れてきました!!あとは魔法で治療をします!!」


 白い治癒服を纏った治癒師達が、集団で駆けてやってきた。彼らは治癒の魔法を持つ専門家。脈も呼吸も戻っているし、もう大丈夫だろう。


「人工呼吸とマッサージで、脈と呼吸が戻ったばかりです。アランをお願いします!」

「任せてください!!」


 アランは担架に乗せられ、あっという間に治癒院に運び込まれたのだった。

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