2-3 決闘の始まり

 翌日。

 二人の決闘には、多くの見物客が押し寄せた。もはや、街を上げてのお祭り騒ぎ、飲めや歌えやの大騒ぎである。


「頑張れよ!!ハインツ!!」

「絶対負けんじゃねえぞ!!」


 ハインツは馴染みの冒険者達に手を振り、笑顔で答えている。この街を拠点にしているだけあって、男衆のほとんどに応援されているようだ。


「キャー!!アラン様、格好良い!!こっち向いて!!」


 一方のアランは既に、その美貌で女性陣を虜にしており、ファンクラブでもできそうなほど大人気だった。そのあまりの早さに、ルビィは呆然としてしまう。しかしアランはつんとそっぽを向いて剣を磨いており、女性の黄色い声はまるで無視しているようだった。

 そんなクールなところもまた良いようで、女性陣はうっとりとアランに魅入っている。


「アラン、モテモテね?」

「何も知らない奴らに騒がれても、何とも思わない」


 ルビィは少し揶揄からかおうとしたのだが、アランはどこ吹く風だ。


「アラン……負けないでね」

「昨日も言っただろう。負けない。剣に関しては、きちんと師匠がいるから問題ない」

「それなら良いんだけど……」

 

 ルビィは、長剣を持って戦うアランを見たことがないのだ。アランは普段、投げナイフ使いである。信じていないわけではないが、不安になるのも無理はなかった。

 

 間もなく、勝負に指定された時間になる。

 ハインツとアランの二人は立ち上がって、ゆっくりと広場の中央に出た。

 周囲を見物客がぐるりと囲っている形だ。声援がわーわーとうるさい。


「もう一度、ルールを確認するぞ」

「ああ」

「使用武器は、この模擬剣のみ。魔法を使ったらルール違反で即敗北とする。戦闘の範囲は、この会場内に限る。三本先取制で、そこにいる冒険者リンドが審判を行なってくれる。こいつはいつもこういった試合を仕切っていて、公正な審判だ」

「わかった。問題ない」

「お前が勝ったら、情報を全て渡す。俺が勝ったら……ルビィを、もらう!!」


 会場が一気にワッと沸いた。ルビィはあれよあれよと最前列に連れて行かれてはやし立てられ、一体何事かと思う。自分が賞品になっているのは、やっぱり非常に解せない。


「いいぞ!男と男の真剣勝負だな!!俺は、どっちも応援する!!」

「俺はお前に賭けたからな、ハインツ!負けんなよ!!」


 なんと賭けまで行われているようだ。一体どこまで大騒ぎにするつもりなのだろう。


「絶対勝ってよ!アラン……!!」


 気を取り直して、ルビィはアランに声を掛ける。するとアランは顔だけルビィに向けて、力強く頷いた。ハインツはアランを睨みつけている。ルビィが片方だけ応援しているのが、よっぽど気に入らないようだ。

 

 勝負する二人は一度握手をしてから、距離を取った。

 お互いに戦闘の構えを取る。

 ハインツは両手で剣を握り、腰を落とす基本のスタイル。アランは片手で剣を持ち、もう片手は背中に回して構えた。背筋はピンと伸ばしている。剣に関しては師がいると言っていたので、その流派のスタイルなのだろう。


「3、2、1……始め!!」


 審判の声を合図に、決闘が始まった。

 

 ガキィン!!


 その途端、二人とも鋭く切り込んで激突する。観衆からはオオッと歓声が上がった。

 

 ガキン!ガキン!!


 何度か角度を変え、剣と剣が激突を繰り返す。両者とも全く隙がない。

 どちらかと言えばハインツが先手で打ち込んでいくスタイルで、アランはそれを迎えうちながらいなし、カウンターを狙うスタイルのようだ。

 しかし、実力が拮抗している。なかなか勝負がつきそうにないと、ルビィは思った。



 ♦︎♢♦︎

 


 こいつ――――強い!!


 アランは、ハインツの技術の高さに舌を巻いていた。

 本物の暗殺者であるアランの剣に、ハインツは対応してみせている。情報屋という肩書きが信じられないほどの腕だ。こうして打ち合う間にも隙がなく、逆にどんどん押されている。

 

 ガキィン!!


 二人は一度強く打ち合い、その反動を利用して大きく間合いを取った。ハインツは不敵に笑って言い放つ。


「確かにお前は……強い!それは認める!!」

「……」

「けど俺も負けねぇ!ルビィは……渡さない!!!」


 そう言った途端、ハインツは踏み込んで剣を大きく横に薙ぎ払った。速い。

 アランはジャンプして、それを避けた。人間の身体能力ではない――――神狼ならではの、異常な高さだ。男衆からどよめきが上がった。しかし着地するその隙に、下から打ち込まれる。


「ぐっ!!」

 

 アランは何とか剣を下に向けて迎撃したが、ハインツの馬鹿力で腕が痺れたようだ。衝撃に耐えている隙に、ハインツが中断の突きを繰り出した。


「ハァッ!!!」

 

 アランは剣を、胸に強かに打ち込まれた。


「一本!!」


 審判の声が響く。

 ハインツの見事な一本だ。


「取った!まず一本!!さあ――――まだまだ、いくぞ!!」


 先手はハインツ。勝負はまだ、始まったばかりである。

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