第8話 稲荷神社 1

「稲荷神社」 1


四丁目の稲荷は階段を十数段と上る。

津波がきても水につからない高さだ。

時々、立ち寄ることがある。


いつものように、清めの龍水 柏手にお辞儀 手を合わす

社に立つと、きまって大きく下からすくい上げるような風が吹き、

社の両側にさがる提灯が音をたてて揺れる。

私はわずかの硬貨のさい銭で、いくつも願いごとをしてしまう。


今日の心は、少し怒(ぬ)だ。細かいことは忘れたが人との関係

で、不愉快な心持ちということだ。

この日、階段の手前参道から社の中を見通すと、中央に〈ドラえもん〉がいるのが見えた。


少し上を見る感じで胸を張って、口をへの字にしている

威厳のたたずまいのドラえもんだ。

なんで今日は、ここにドラえもんが来ているんだ、しかもかなり

怒った感じ、気になる。近寄って、さい銭箱の先を目を凝らす。


薄暗い社の中には、御神酒の入ったひょうたん型の白い瓶が、

中央に二つ並んでいるだけだった。ドラえもんは、いない。


何度か社へ手を合わせに来るが、もう、ドラえもんには

会えなくなった。

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