第5話 吠える

「吠える」


ノルウェイジャンフォレストキャット

床に垂れる長い毛の、体はほとんど白いが、頭に黒い〈八の字〉

が太眉のように、おしりには黒色のパンツをはいたように、

微笑んでしまうような姿をしている。

ショップのウィンドウ越しに、体をくゆらせ、瞳をこちらに向けて

媚を売るように、肩、耳、腹を順番に擦り付けてくる。

硝子越しの、口パクなき声。

何度も、体をすり寄せる。

私は、硝子越しに、手をあてる。


帰り、バス停まで行く途中で、犬を連れた人に出会う。

連れていた黒のトイプードルに吠え立てられる、かなりひどく

、切れ目なく。

オマエ、キライ! 犬は飼い主の心、か…

歯をむき出して、よく吠える。主は口の中でもごもご何かを言っている。困り顔で必死に止めようと、抱きかかえる。小声で、ゴメンナサイと言って、公園の方へ行ってしまった。


報告‥‥恥ずかしいほどに吠え立てられたこと。

猫を見て来たあとだからニオイがあったんでしょ、と、

硝子越しだ、ニオイなどつくはずもない。

それよりも、ジャンフォレストのその後が気になる。


クリスマスプレゼントも過ぎた、

正月のお年玉も過ぎた、

かなり大きく育った、モサモサの毛並みのジャンフォレスト。

出入り口の展示場所に移っていた。

シールが貼られている

〈家族が決まりました!〉

うれしい別れです、よかった。

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