第5話 五百枝




 ドッゴンバッゴンドジャジャジャジャ。

 確実に判定者である孤樹こじゅの耳にも誰かが立てている騒々しい音が聞こえているだろうに、孤樹はこの音に関して指摘せず、ではよろしくお願いいたしますとかえでに頭を下げると、折り目正しく去って行った。


「どうしたもんかなあ」


 ひらひらと。

 楓は受け取った名刺を人差し指と親指で抓んでは、揺れ動かした。


(引き渡すならさっさと引き渡しているし。でも、僕は引き渡さなかったし。引き渡したとして、五百枝いおえじゃなかったなら、関係ないのでどうぞ責任持って面倒を見てくださいって突き返されていただろうし。う~ん~。あの生真面目っぷりさからして、靴を脱いで、さっさと家の中に入って、五百枝かどうか、確認しようとするはずなんだけど。そうしなかった。緊急性はないって事?もしくはわざと泳がせている?何の為に?牽制はするくせに?そもそも、何であの子は僕のところに来たわけ?ただ隠棲しているだけなんだけどなあ。まあ、隠棲している人間ってのは、噂が付き物かあ。尾ひれが付き物かあ。う~ん~)


「あの。入りました」

「うん。綺麗になったね」


 常備しておいた大人用の楓の浴衣を着崩れなく着膨れなく、綺麗に整えて着付けた少年に拍手を贈ったのち、楓は直球で尋ねた。


 君の名前は、五百枝って言うの。

 はい。

 少年は、真っ直ぐに楓を見て、はっきりと言った。


 俺の名前は、五百枝。

 犯罪者の子どもです。











(2024.12.3)



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