第2話 つみびと




 自分の願いを叶えてくれると一心に信じているからか。

 茅の塀に突っ込んでは願いを告げた時の勢いは鳴りを潜め、おとなしく手を引かれている少年を、かえでは庭、玄関、土間を通り過ぎ、風呂場へと進みながら、どうしたものかと考えた。


(『醜いのは嫌だ美しく死にたい。だから俺を花にしてくれ』ねえ。どこでどんな噂を聞いたんだか)


「はい。ここがお風呂場。脱衣所ね。あの奥の扉を横に引いたら自慢の檜風呂が待っているから。すんごく気持ちがいいからね~。楽しみにしてな」

「………」

「え?何?着物を脱がせろって?君の年頃だとまだ自分で着たり脱いだりできないんだっけ?うん。まあ。この機に自分でできるようになりなさい。ほら。僕を見て。こんな風に脱ぐんだよ~」

「俺を花にしてくれ」

「うんうん。分かった分かった。まずは身体を綺麗にしてからね」

「身体を綺麗にしたら俺を花にしてくれるのか?」

「着物も身体も綺麗にしてからね」

「………」

「はい。行ってらっ~しゃい」


 楓を無言で押し出しては脱衣所の扉を閉めた少年を手を振って見送ってのち、楓は小さく舌を出した。


(花にするとは一言も僕は言ってないからね。分かった、と、まずは、としか言ってないからね。できないって言っても、斬りつけたり突き刺したりしないでよね)


 ギラギラギラギラ。

 人殺しに特化した刃物をさらによくよく研いでは切れ味を増したような少年が、脳裏に焼き付いてしまった楓は罪人かあと呟いたのであった。











(2024.11.14)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る