レモネード
颯 窓舞
第1話
これを飲み干したら、君がいなくなってしまうような気がした。窓から西日が君を差す。君の髪の毛の一本一本が西日に照らされて金色に輝く。私の目の前にあるレモネードは、残りわずか。氷が水と化して、レモネードの黄色を薄くする。
「っていうか、あの先輩尊くない?初めて見た時から美男子!って思ったって!」
西日が当たった君は同じ部活の先輩の話を飽きずに続けていた。濁ったレモネードのように私の気持ちは水のように透明になりそうでならない。そんな複雑な感情だ。
私達は今、喫茶店にいる。レトロで味のある喫茶店だ。そして、私と交互に座った君というのはクラスメートで同じ吹奏楽部の愛川蘭だ。普段は長い黒髪を一纏めにしているが、このように私と喫茶店に行くオフの日は髪の毛をサラッと下ろす。今、部活の先輩話に熱中している君の目はとてもキラキラしている。澄んだ瞳を思いっきり開けてワクワクしながら話しているのだ。こんな君の姿は珍しい。普段はザ、真面目という感じだが、先輩の話になるとこんな乙女になる。君をこんなにも変えてしまう先輩というのが、吹奏楽部の三年生であり、部長の近藤裕樹先輩だ。清楚で、顔筋も整い、性格も優しくてリーダーシップもある。要は王子様キャラなのだ。やはり、そんな先輩はモテた。バレンタインのチョコレートの量は恐ろしかった。
「もともと、吹奏楽好きだったけど、あんなイケメンいたらもうやめられないよね。ユウキ様ったら、顔だけじゃなくて性格もよくて、文武両道だし、ふつうにトランペットうまいとかやばすぎるよ。もう、最高!好きすぎる!」
君も先輩に恋をしていた。学校では真面目キャラの為恋愛しないのでは?と噂されていたこともあったが、それを広めた奴は大馬鹿のようだ。君だって恋はする。私も正直、驚いたけど、君もどこにでもいる女の子と一緒なんだ。
「へー。告白とかするの?」
告白、その一言を聞いた途端、君の頬が少しずつ赤くなっていくのがわかった。
「実はさ、もうしたんだよね。」
「え!で、どうだった?」
「無事、オッケーもらえました!」
「え…。」
胸の奥深くを何かが刺した気がした。刺し傷はじわじわと広がる。
「オッケー貰ったんだ。良かったね。」
ここはもっと明るく言わなきゃいけない。なのに胸の痛みが喉まで広がって、声帯を締め付けている。
「うん。応援してくれてありがとうね。いつも私の話、聞いてくれて嬉しかったよ。これからもよろしくね。」
お礼なんて言われる立場じゃない、私は。君の話をちゃんと聞いてるようで、本当は2人が一緒にならないようにって心のどこかで祈ってた。
私はレモネードを飲み干した。
「あ、私、もう行くね。お金、先に払っとく。」
君は喫茶店から出てしまった。髪の毛が西日に照らされてキラキラと輝いていて美しかった。
一人きりになった喫茶店で私は泣いた。
私は蘭のことが好きだった。初めて、人をこんなにも好きになって、初めてこんなにも誰かにドキドキした。でも、蘭にはこの気持ちは届かない。そもそも、恋愛対象として見られるはずがない。それにもう、蘭は近藤先輩と一緒になってしまった。蘭から先輩の話を聞かされる度、一緒にならないで欲しいと願った。でも、二人は好き同士なんだ。だって、蘭はこんなにも可愛いんだもの。近藤先輩も蘭のことが好きになるよね。これをめちゃくちゃにしたら蘭が可哀想。胸の痛みが少しずつ引いてきて私はボソッとつぶやいた。
「お幸せに」
レモネード 颯 窓舞 @camvl
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