勇者たちの対立②



オスカーの提案は、勇者たちの運命を決定づける分水嶺となった。広間は沈黙の後、大きな混乱に包まれ、最終的に二つの派閥が形成された。


討伐派:「虚無は危険な存在であり、神の命令に従って討つべきだ。」

主導者はリカルドとオスカー。軍事的に強力な者が多く、彼らは討伐の正当性を信じて疑わなかった。


静観派:「虚無が本当に悪かを見極めるべきだ。それまでは手を出さない。」

主導者はカイルとリーナ。彼らは討伐を急ぐことが危険だと主張し、虚無の存在理由を見極めようとした。



討伐派と静観派は、それぞれ異なる進路を取り、虚無の潜むとされる大地の裂け目に向かった。だが、行動を共にする者たちの間にも不信感が芽生え始めていた。



夜の森で焚き火を囲んだ討伐派は、リカルドを中心に計画を練っていた。


「静観派の連中が邪魔をしなければいいが……。」

オスカーが低い声で言うと、リカルドは鋭い視線で頷いた。

「奴らが神の命令を邪魔するようなら、容赦はしない。我々の使命を遂行するだけだ。」


その言葉に、一部の仲間たちが不安げに顔を見合わせた。リカルドの言葉は正論だったが、その過激な言い回しに緊張が走る。



一方、静観派は静かな洞窟で作戦会議をしていた。


「討伐派が急いで虚無に接触すれば、最悪の事態になる。」カイルが鋭く言った。「俺たちは時間を稼ぐために動く必要がある。」


「でも、どうやって?」リーナが問いかける。「戦うにしても、討伐派は数も戦力も上。正面からぶつかれば不利よ。」


「戦うつもりはない。」カイルは険しい表情で答えた。「討伐派の目を引きつけるだけだ。その間に俺たちで虚無に接触して、話をする。」


「……その話し合いが無駄だったら?」一人の仲間が不安そうに尋ねた。


カイルは短く息を吐き、強い目で答えた。「それでも試す価値はある。」



翌朝、討伐派が虚無の居場所に近づいた頃、静観派が待ち伏せしていた。


「お前たち!」リカルドが槍を構え、怒りを露わにする。「邪魔をするつもりか!」


「虚無を討つのはまだ早い!」カイルが一歩前に出た。「俺たちが時間を稼ぐ間に、この問題の本質を見極めさせてくれ!」


「無駄だ!」リカルドは叫んだ。「お前たちが何を見極めようと、虚無は討たなければならない。それが俺たち勇者の使命だ!」


その瞬間、両陣営が一斉に武器を構えた。


「やめろ!」リーナが叫んだが、彼女の声は混乱の中に消えた。討伐派が先に動き、静観派が応戦する形で戦闘が始まった。


剣と槍が交錯し、魔法の光が森を照らす。



戦闘は次第に激化し、双方に負傷者が出始めた。討伐派は数と連携力で優勢だったが、静観派もその機動力を駆使して反撃を続けた。


戦闘の中、リカルドはカイルに突進し、槍を突き出した。

「お前は勇者失格だ、カイル!」


カイルはその攻撃をかわし、リカルドの顔を睨みつけた。

「お前こそ盲信しすぎだ、リカルド!神の命令に従うだけが勇者じゃない!」


二人の衝突は、両陣営の勇者たちの目を引きつけ、戦闘が一瞬止まった。その間にも、虚無のいるはずの場所に近づく影が現れる。



静かに両陣営の戦いを見つめるのは、裂け目の上に佇む虚無だった。

愚かだな……。結局、彼らの信じる神が望んでいるのはこうした争いそのものではないのか?


虚無は冷ややかに口元を歪ませた。戦場に飛び込むべきか、それともこのまま見守るべきか。決断の時が近づいていた。

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