勇者たちの対立
勇者たちが沈黙の中で装備を見直していた広間は、徐々にざわめきに包まれ始めた。エイデンやリーナの疑問をきっかけに、他の勇者たちの中にも同じような思いを抱いていた者たちがいたのだ。
「そもそもさ、神の命令って言うけど、本当にそれだけで『虚無』を討つ理由になるのか?」
金色の鎧を纏った若い魔剣士カイルが、テーブルに剣を置きながら声を上げた。「もしかしたら、神だって間違えることがあるかもしれない。俺たちは、ただの道具じゃないんだぞ。」
「間違えるだと?」
それに即座に反応したのは、銀髪の槍使いリカルドだった。彼は怒りを露わにしてカイルに詰め寄る。「神の意志が間違いだって言うのか?ふざけるな!俺たちがここに召集されたのは、この世界を守るためだ。虚無を討たずして何が勇者だ!」
「けど、リカルドさん!」リーナが声を張り上げた。「私たちは虚無がどんな存在かすら知らないんです。それなのに『討て』って言われて、無条件に信じるなんておかしいと思います!」
「お前もカイルと同じ考えか?」リカルドはリーナを睨みつけた。「神の命令に背くのは、この世界に対する裏切りだぞ!」
その言葉に、カイルが立ち上がってリカルドを睨み返す。「裏切り?じゃあ聞くが、もし神の命令が間違いだと分かったら、お前は何をする?それでもなお従うのか?」
「神の命令が間違っているなんて前提自体があり得ない!」リカルドは槍の柄を握りしめた。
「そうやって盲目的に従うから、戦争や争いが終わらないんだ!」カイルの声は広間に響いた。「俺たちは神の命令を実行する機械じゃない!虚無が本当に討つべき存在かどうか、自分の目で確かめるべきだろ!」
その瞬間、広間は一気に分裂した。
*「虚無を討つべきだ!」派
「神の意志に背くなんてあり得ない!」
「そもそも虚無が危険な存在だって言われてるんだ。それを疑う余地はないだろ。」
「お前ら、神を侮辱するつもりか?!」
*「そっとしておくべきだ!」派
「危険かどうかは自分たちで確認すべきだ。」
「神だって絶対ではないかもしれないだろ。」
「虚無を討つことで、本当に世界が良くなるのか?」
声が次第に大きくなり、議論は収まるどころか、激しさを増していく。
議論が激化する中、ついにカイルが声を荒げた。「だったら俺たちで直接決めようぜ!ここで戦って、どちらが正しいか白黒つける!」
「望むところだ!」リカルドも負けじと槍を構え、周囲の勇者たちもそれぞれの立場から応援の声を上げ始める。
「やめろ!」
その場を鋭く割ったのは、ベテランのグレンの怒声だった。彼は斧を掲げて二人の間に割って入り、鋭い目で全員を睨みつけた。
「ここで争うつもりか?俺たちの使命を忘れたのか!俺たちは仲間同士だぞ!」
「でも、グレンさん!」カイルが食い下がる。「俺たちの中で意見が違うなら、どっちが正しいかはっきりさせなきゃ、この先まともに動けない!」
「そうだ。ここで決着をつけないと、虚無に向かったときにまとまらない!」リカルドも主張を曲げなかった。
グレンは大きく息を吐き、静かに言葉を続けた。「確かに、意見が分かれるのは当然だ。だが、ここで無意味に仲間を傷つけてどうする?お前らが本当に勇者なら、この状況をどう乗り越えるべきか、もっと賢く考えろ!」
その言葉に場が一瞬静まったが、緊張は完全には消えなかった。
「いいだろう。」オスカーが冷徹な声で割り込んだ。「こうしよう。この討伐の指揮を執るのは、神の意志を信じる者たちだ。それに納得できない者は、別行動を取れ。」
「別行動?」リーナが驚いた表情を見せる。
「そうだ。」オスカーは周囲を見渡しながら続けた。「虚無を討つ派と、そっとしておくべきだと考える者。二つの陣営に分かれて行動する。そして、どちらが正しいかは結果で決まる。」
その提案に、広間はさらにざわつき始めた。意見を主張する者、迷う者、無言で状況を見守る者……。
エイデンとリーナは目を合わせ、互いの考えを確かめるように頷いた。そして、同時に思った。
この選択が、この世界にどんな影響を与えるのか……それは、もう誰にも分からない。
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