勇者たちの雑談②
エイデンの呟きに、リーナも口を開きかけたが、そこへ一人の声が割り込んだ。
「知りたいだと?」
その声の主は、白髪混じりの年配の魔導士ロイスだった。彼は杖を床にトンと突き、やや厳しめの視線をエイデンとリーナに向ける。
「お前たち若いのは、いつも好奇心が先行しすぎる。『虚無』という存在が何かを知ろうとするのは構わんが、それで油断して命を落としたらどうする?」
「でも、ロイスさん……」リーナが反論しようとするが、ロイスはそれを手で制した。
「聞け。虚無が人間らしい形をしていようが、話し合いが通じる相手だと思うのは甘い考えだ。神がここまでして我々を集めた理由を忘れるな。それは、虚無がただの敵ではなく、この世界を根本から覆す力を持つ存在だからだ。」
グレンがその言葉に頷きながら続けた。「ロイスの言うことは正しい。俺たちが倒すべき相手だと判断された以上、それがどんな理由でこうなったにせよ、情に流されてはいけない。」
「けど、そもそもどうして『虚無』が生まれたのか、誰も知らないだろ?」エイデンが食い下がる。「俺たちに討てって言われたからって、それだけで動くのは……ちょっと怖いんだよ。もし、何かもっと深い理由があったら?」
その場が一瞬静まり返った。エイデンの言葉に、周囲の勇者たちも心の奥に隠れていた疑問を思い起こしたようだった。
「理由……か。」ロイスが目を細める。「確かに、神の使いが詳細を語らなかったのは引っかかるな。」
リーナが小声で付け加える。「もしかしたら、虚無自身も『自分がどうしてこんな存在になったのか』分かっていないんじゃないのかな……」
その言葉にグレンが顔をしかめた。「リーナ、お前、それじゃまるで虚無に同情しているみたいじゃないか。」
「同情じゃないよ。ただ……私たちと同じように『召喚された』とか、何かしらの事情があったのかもしれないって思っただけ。」
エイデンもそれに頷いた。「虚無が何を考えているのか分からないのに、ただ斬りかかるのは俺には気が進まない。まずは話をしてみることだって……」
「話を?」
冷たい声がエイデンの言葉を遮った。鋭い眼差しを持つオスカーが再び現れ、彼らを見下ろすように立っていた。
「お前たちは甘い。虚無が何を考えていようが、関係ない。もし奴が少しでもこちらに好意的だったら、神がこんな命令を下すと思うのか?神の意志が絶対だ。それを疑うこと自体が、この任務を全うする覚悟が足りない証拠だ。」
エイデンはその言葉に反論しようとしたが、オスカーの威圧感に押され、口をつぐんだ。
「話す暇があるなら、剣を研げ。考える暇があるなら、魔法の精度を上げろ。」オスカーは一歩踏み出し、全員を見渡した。「この戦いで命を落とす覚悟がない者は、今すぐここを去れ。」
その厳しい一言に、広間に再び静寂が訪れる。勇者たちは互いの顔を見合わせながら、黙って自らの武器や装備を見直し始めた。
だが、その沈黙の中で、エイデンとリーナの心にはまだ疑問が残っていた。「虚無」とは一体何者なのか。なぜ神が彼を「討つべき存在」と定めたのか。
そして、もし彼と直接向き合う時が来たら、自分たちは本当に「神の意志」に従えるのだろうか……
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