勇者たちの雑談
「なぁ、虚無って人間だろ?なんでそんな悪いやつみたいに言われてるんだ?」広間の片隅で、剣を磨きながら若い勇者のエイデンがぽつりと呟いた。
隣にいた斧使いのベテラン勇者グレンがそれを聞いて、微かに笑いながら首を振った。「お前、分かってないな。虚無ってのはただの『人間』じゃないんだ。奴は神の秩序に逆らってる……それも、俺たち勇者全員に対する挑戦みたいなもんだぜ。」
「でもよ、逆らったってだけで討つ必要あるのか?」エイデンはなおも釈然としない様子で眉をひそめる。「俺たちもただ命令に従ってるだけで、虚無が本当に悪いことしてるのかは知らないじゃないか。もしかしたら、神の都合に反してるだけかもしれないだろ?」
グレンは斧を肩に担ぎながら、少し難しい顔をした。「確かに、俺たちは神から命令されたから戦うわけだが……その命令には理由があるはずだ。神がそこまでして討とうとするってことは、それ相応の脅威ってことだろう。」
その会話を聞いていた別の若い勇者、細身で弓を携えたリーナが口を挟んだ。「でもさ、もし虚無が本当に悪い人なら、何かもっと噂とか伝説とかがあっても良さそうじゃない?実際には、虚無について聞く話ってほとんどないし、どれもただの『悪だ』って決めつけみたいに思えるんだよね。」
グレンはリーナの言葉に少し考え込み、息をついた。「そうかもしれんが……どうなんだろうな。俺たちがこうして召集されるってことは、それだけの大事ってことだ。お前ら、神が定めた秩序が崩れたときにどんなことが起きるか、想像してみたことはあるか?」
エイデンは困惑しつつも、腕を組んで考え込む。「それって、俺たちが守ってるこの世界が……壊れたりするってことか?」
「そうだ。神の秩序ってのは、ただの規律じゃなくて、この世界そのものを支える力でもあるんだ。」グレンが低い声で続けた。「虚無はその秩序を壊しかねない存在だとされてる。もしも奴の力が制御不能になれば、俺たちが暮らすこの世界自体が、歪んで崩れちまうかもしれない……」
リーナは黙ってその言葉に耳を傾け、やがて小さくため息をついた。「でもね、もし虚無が人間なら、私たちと同じ感情や考えがあるはずじゃない?なんでそんな存在が、わざわざ世界を壊そうなんて思うんだろう……」
エイデンも頷きながら、「そうだよな。俺たちみたいに誰かを守りたいとか、そういう気持ちがあるかもしれないよな。もしかしたら、虚無はただ……」
その瞬間、後ろから低く苦笑する声が響いた。「まさか、そんな感傷に浸ってるとはな。」
振り返ると、鋭い目をした大柄な剣士、オスカーが立っていた。彼は歴戦の勇者であり、他の者たちが一目置く存在だった。
「悪いが、虚無の存在を甘く見るな。お前たちがどう考えようが、奴は秩序を破壊する異質な存在だ。俺たち勇者が集められたのは、ただの脅威を討つためじゃない。この世にいる限り、虚無は全てを侵食していく災厄に他ならない。」
オスカーの冷徹な言葉に、エイデンとリーナは言葉を失った。だが、それでも心の片隅に引っかかる疑念が消えないままだった。
エイデンは小さく息を吐き、再び剣を見つめながら呟いた。「それでも……俺は知りたいんだ。虚無が本当にどんな存在なのか。そして、もしも……」
エイデンの言葉に、リーナも静かに同意するように頷いた。彼らの心には、未だ消えない疑問と好奇心が渦巻いていた。
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