勇者たちの苦悩

とある勇者の視点



彼らは壮大な神殿の広間に集められていた。輝く鎧をまとい、剣や杖を手にし、威風堂々とした雰囲気をまとった彼ら勇者たちは、異世界からこの地に召喚された者もいれば、この世界で生まれ、数々の試練を乗り越えてきた者もいた。彼らの共通点はただ一つ──神から「選ばれし者」としての力を授かった者たちであるということだった。


100人を超える勇者たちが互いに顔を見合わせ、静かに次の指令を待っている。緊張感が場を満たし、一言も交わされない沈黙の中、神の使いと名乗る存在が、祭壇の上に現れる。


「皆、よく集まってくれた。貴公らは、この世界を守護するために選ばれし者たち。神がその身を削り、貴公らに託した力は、この地を闇から救うためのものである」


使いの声が神殿に響き渡り、勇者たちの心にその意味深い言葉が刻まれる。だが、なぜ今、彼らが召集されたのか──その理由を知る者は少なかった。


広間の隅に立つ若き勇者の一人、ルカは、僅かに眉をひそめながらその場を見渡していた。彼はこれまでの数々の戦いで、多くの仲間と共に闇の勢力と戦ってきたが、今回は何かが違うと感じていた。通常の戦場とは異なり、この場に集められた全ての勇者が、共通の敵に対峙することを前提とした指令が待っているような──そんな異様な気配を感じていた。


「なあ、まさかと思うが……神が直接、俺たちに試練を与えるってことはないよな?」


隣に立つ年配の勇者が低い声で呟くと、ルカは小さく頷いた。


「もしそうなら……相手は一体、どれほどの存在なんだ?」


その疑問が、広間にいる他の勇者たちの胸にも浮かんでいるようだった。神の試練とはすなわち、この世界の秩序に反する異形の存在が現れた時にのみ与えられる究極の任務──それも、数多くの勇者が一堂に会して討つべき敵が現れた時のみのものであった。


その時、神の使いが手をかざし、空中に映し出された光の映像が現れる。その中には、一人の男が映し出されていた。虚無に包まれ、ただの人間とは思えぬ力を纏う存在──それが、今回の標的であることを告げるように、使いは静かに告げた。


「この者が虚無の存在……神の秩序を脅かす者だ」


その言葉に、勇者たちの間からどよめきが起こった。虚無の存在──彼らが相対することになる、最も忌むべき敵。その者がもたらすものは破壊と混沌、そして世界の崩壊に他ならない。ルカの拳が自然と握られ、心に熱い決意が湧き上がる。


「俺たちが、この世界のために戦わなきゃならないってことだな……」


彼の言葉に応えるように、周囲の勇者たちも頷き、互いに気持ちを奮い立たせる。勇者の一人が剣を天に掲げ、声高らかに叫ぶ。


「我ら勇者の力をもって、この虚無を打ち倒すのだ! 神が我らに託した使命を果たすために!」


100人を超える勇者たちの視線が一斉に天を仰ぎ、その場で誓いを立てた。虚無の存在を討ち、神の意志を果たすために──彼らは今、共通の使命の下に結束し、決戦の時を待っていた。

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