怒涛の敵襲



魔物の爪が迫る中、彼の体が瞬時に反応した。身の危険を感じ取ったその瞬間、内側から湧き上がる力が、まるで本能のように彼を突き動かす。


「――来い!」


彼の声が響き渡ると、空気が震え、周囲の温度が急激に変化した。魔物の爪が彼に触れるその瞬間、彼の体から放たれた「虚無の力」が一気に爆発的に拡がり、魔物の爪が空中で止まった。


「な――っ!」


魔物はその巨大な爪を引っ込め、何事かを理解したようにうなり声を上げる。しかし、その力に圧倒され、動けないままでいた。彼の周囲には、黒い渦巻きのようなエネルギーが渦を巻き、その中にいる彼自身も、まるで別の存在のように感じられる。


「これが……救世の虚無者の力?」


女性は静かに頷き、彼の力が魔物に効いているのを見守っていた。彼の目の前には、何もかもを消し去るほどの力が満ち溢れているのを感じ取った。自分の中に眠っていた、この「虚無の力」が目覚めた瞬間だ。


「お前の力、まさかこれほどのものとは……」魔物はようやく言葉を絞り出した。


その言葉が、彼の心にさらなる覚悟を与えた。彼は、逃げることなくその力を完全に解放する決意を固めた。


「この力を、止めることはできない」


彼は静かにそう言ってから、その黒い渦巻きの力を魔物に向けて放った。エネルギーが空気を切り裂き、魔物の体を貫いた瞬間、その巨大な体が崩れ落ち、まるで一瞬で塵となったかのように消えていった。


周囲は一瞬、死の静寂に包まれる。


「……これが、救世の虚無者の力。そんな力を持つ者が、この世界に現れたのは、何も偶然ではない。」


女性は冷徹な目を彼に向け、改めて言葉を続けた。


「あなたは、世界の均衡を保つ者として生まれた。でも、その力が与える影響は、時に破滅をもたらす可能性がある。あなたが持つ力を、どのように使うかが、この世界を変える」


彼はその言葉を噛みしめながら、自分が背負っているものの大きさを感じていた。自分の力がどれほどの威力を持っているのか、それを実感し、同時にその力をどのように使うべきか、答えを見出さなければならない。


だが、彼がその決意を固める暇もなく、突如として空気が震え、森の奥からさらに強力な気配が迫ってきた。彼の力を試す者たちが現れたのだ。


その気配は、今まで感じたことのないほどの威圧感を放っていた。どこからともなく現れる魔物たちとは一線を画す、まるで天地を揺るがすような力が近づいてくる。


「来る……」


女性の顔に、初めて緊張の色が浮かんだ。それを見た彼は、覚悟を決め、再び虚無の力を集め始める。力を引き出すたびに、周囲の風が激しく渦を巻き、空が暗くなっていく。


「これが本当の試練か……」


彼は心の中で呟きながら、迫り来る脅威に立ち向かう準備を整えた。その時、森の中から現れたのは、ただの魔物ではない——


巨大な影が現れた。二本の角を持つその姿は、まるで神のように荘厳で、周囲の空気が一瞬で凍りつくような威圧感を放っていた。


「……その力、持っている者がいるとはな」


声が響いた。見上げると、そこには何か神話のような存在が立っていた。それは、人の姿をしているが、その瞳は深淵のように真っ黒で、どこか人間を超越した存在感を放っていた。


「お前が、救世の虚無者……?」


その問いかけに、彼は一瞬躊躇った。だが、すぐに冷静さを取り戻し、言い放つ。


「そうだ。お前こそ、いったい何者だ?」


その瞬間、神のような存在の瞳に一筋の光が走り、周囲の空間が歪み始めた。彼はその予兆に気づき、すぐに身構えた。


「お前の力が、今ここで試される。それが、この世界の運命を決めるのだ」


その言葉を最後に、空間が激しく変動し、戦いが始まった。

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