「秩序」と「混沌」
謎の女性の提案を受け入れた彼は、あっという間にその場を後にすることとなった。周囲の勇者たちは、一瞬のうちに彼とその女性の姿が消えるのを目の当たりにし、言葉を失った。
「いったい、あの男は……」
「救世の虚無者だと? ありえない……」
彼らの動揺が収まる前に、再び静寂が訪れた。しかし、その静けさの中には、確かな恐怖が根付いていることがわかる。救世の虚無者が再び目を覚ましたこと、そしてそれが今、どこかで新たな物語を始めていることを、彼らは確信しただろう。
一方、彼と謎の女性は、数分後には人里離れた森の中に足を踏み入れていた。彼女が導くままに歩きながら、彼は自分の状況にますます混乱していった。森の深い場所、どこか神秘的な力が漂う空間へと導かれていく。
「ここが……?」
「そう。ここがあなたの新たな拠点となる場所よ」
その場所には、古びた石造りの小屋が立っていた。外観こそ素朴だが、その中に足を踏み入れた瞬間、彼は驚くべきものを目にすることになる。室内には、奇妙な魔法陣や、未知の道具が散りばめられており、まるで異世界の研究所のようだった。壁には、見たこともない言語が書かれた書物が並べられており、その一冊一冊が、彼にとっては未知の世界の扉のように感じられた。
「ここがあなたが学ぶべき場所。救世の虚無者としての力を覚醒させるためには、まずこの世界の真実を知らなければならない」
「真実、って?」
彼は不安げに尋ねると、女性は静かにうなずく。
「この世界、そしてその背後にある秩序には、あなたが知らない秘密が隠されている。あなたが“救世の虚無者”として目覚めた理由、その力の源を理解するためには、まずその真実に迫らなければならない」
「秘密……?」
彼はその言葉に引き寄せられるように、女性の目をじっと見つめた。その眼差しは、まるで彼が今後歩むべき道を示すかのように、強い意志を秘めていた。
「まず、これを覚えておきなさい。この世界には二つの大きな勢力が存在している。ひとつは『秩序』を守る神々の意志、そしてもうひとつは『混沌』を象徴する存在。あなたの力は、この二つの力のバランスを取るために目覚めたもの。あなたが生まれたのは、どちらかの勢力が圧倒的な力を持ち、この世界が崩壊することを防ぐためだ」
その言葉に、彼は一瞬思考を停止した。自分が「救世の虚無者」として、世界のバランスを保つ役目を果たすために生まれた——その事実が、まるで一枚の大きなパズルの欠けた部分を埋めるように理解できた。
「その力……どんなものなんだろう?」
彼が思わず問いかけると、女性は微笑んで答える。
「それを知るために、まずはあなた自身がその力を試し、理解しなければならない。でも気をつけなさい。その力は簡単に制御できるものではない」
その時、女性の言葉を遮るように、外で激しい音が響いた。何かが森の中に近づいてくるのを感じ、彼は身構えた。女性は落ち着いた様子で、ゆっくりと扉を開ける。
「来たわね」
その声がどこか静かな期待を含んでいることに、彼は驚いた。振り返ると、巨大な影が近づいてくるのが見えた。それは、恐ろしいほどの大きさを誇る魔物の姿だった——
「この世界の“秩序”を試すために、あなたの力を試す者たちが現れる。さあ、試練の始まりよ」
彼は深呼吸し、覚悟を決めた。救世の虚無者として、これからどんな運命が待ち受けているのか。自分が選んだ道を進むことに決めた今、避けられない試練が始まるのだ。
その瞬間、魔物の巨大な爪が一気に迫り、彼は無意識にその力を解放し始める——
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