クラスで恐れられている田村さんは、実はものすごく可愛いのだ。

NEET駅前@カクヨムコン初参加

 田村さんは、いつも愛らしいのだ

「いらっしゃいませ! ご主人様って……」


「どうも?」


「\\\……な、な、な、なんで貴方がここにいるのよっ!?」


「な、なんでって。一応、お客様のつもりで来たんだけど……」


 俺は『ある確認の為』に立ち寄ったとあるカフェで、猫耳&しっぽ&メイド服姿に身を扮した、見覚えのあるとても魅力的な "ヌコ様" に遭遇した……。


「〜〜っ\\\!」


 そのヌコ様は顔を赤らめると衣装をギュッと握りしめては、恥じらいつつも俺を凝視している。


 うん。やっぱり可愛い……。


 このヌコ様と俺が初めて出会ったのは、数週間前までさかのぼる。


 ♢


 五月の上旬……学校にて。


「はーい! 転校生を紹介します! みんな、席に座って下さい〜!」


 担任の女教師である雨宮かえでが、廊下に立っているであろう一人の生徒を教室へと手招きする。


「田村なつきです……よろしくお願いします」


「や、やべっ!?」

「モデルかよ……」


 挨拶を簡潔に済ませたその女子生徒はクールさをかもしだすその大人びた容姿から、転校初日で多くのクラスの男子達を虜にした――


「ちょっと綺麗だからって……」

「くやしい……」


 と同時に……その光景に不満を抱いた、不特定多数の女子生徒達からはライバル意識を持たれるようになった。


 〇〇県立城ケ丘高校一年生の俺――清水呼世晴しみずこよはるは、その光景を窓側の席から静かに眺めていた。


 転校初日からクラスメート達の目を惹きつけることとなった田村なつきはその日以降、クラスでは一目も二目も置かれる存在となった。


 ♢


 そんなある日のこと……。


 田村さんが転校して来て一週間が経つころ。


 俺が入学して初めての席替えが実施されることとなった。


 最後列の窓側というここのベストポジションを失うのは非常に痛いが、決まりであるならば仕方がない。


 俺は雨宮先生が決めた座席表をしぶしぶ確認しに行く……。


 先にその座席表を見たクラスメートの男子達からは、俺は気の毒そうな反応を示されてしまった。


 何故だろうと思いながらも、俺はその座席表にチラッと目をやった。

 

「っ!?」


 なるほどな。そういうことかよ……。


 座席表に記されていたのは――


 清水呼世晴 ―― 田村なつき


 見ての通り、なんと田村さんの隣の席に俺は選ばれていたのだ。


 俺は席を移動する際に、一度だけ田村さんのほうを横目で見る。


 田村さんは探し物をしているのか、先に指定された席に移動しては何やらカバンの中を探っている。


 はじめはその様子を数名の男子生徒達が心配そうに見ていたのだが、田村さんがそちらに目を向けた途端に、田村さんから目を逸らしては何ごともなかったかのように振る舞っている。


 おい。俺はその彼女の隣にこれから行くのだぞ? 大丈夫なのか? 焦るな……ここは冷静になって一度挨拶を……。


 俺がそう思っていた矢先――


 一人の男子が勇気を出して彼女に話しかけたのだ。


 会話の内容は上手く聞き取れなかったのだが、田村さんの好感度を狙ったそいつの反応から見てどうやら失敗に終わったらしい。


 呼び掛けられた田村さんが少し振り返っただけで、そいつは肩をすくませて退散していった。


 やばい。


 ますます、俺の緊張感が高まってくる。


 俺はそんな気持ちを押し殺し、なんとか田村さんの隣へ座ることに成功した。


 田村さんは今もなお、カバンの中を探っている。


 俺は生唾を飲み込み、念のため二十数えてから軽く挨拶をすることにした。


「た、田村さん。その……今日からよろしくね?」


「……ごめんなさい。えっと、誰かしら?」


 田村さんは転校して来てから一週間経った今でも、まだ俺の名前を覚えていないらしい。


 少しショックだったということは、ここだけの秘密だ。


「あ、あぁ。えっと。一応、同じクラスの清水呼世晴です……」


「なによ、"一応" って……ふふふ。よろしく」


 おっ! 思っていたより意外と良い反応だったな……。


 俺はクラスの男子達が心配そうに見守る中、初めて田村さんと会話をすることに成功した。


 勢いづいた俺は男子達が視線を寄せる中で、田村さんに対してさらに話しかけてみることにした。


「あのさ。田村さん?」


「なに?」


 カバンの中を探っていた手を止めると、田村さんがこちらへ振り返る。


 ここで俺は、気になっていたことを田村さんに尋ねてみることにした。


「さっきからカバンの中を探っているようだけど……何か忘れたとか?」


「……えぇ。その、筆記用具が見当たらないのよ。もぅ、どこに行ったのかしら……」


 そう返答した田村さんに、俺は自分のシャーボペンシルと消しゴムをちぎってはその半分を渡した。


「良かったら使って?」


「えっ。いいの?」


「いいよ。その消しゴムはあげる。シャーボは流石にダメだけどね」


「ありがとう。今度、改めてお礼をさせてもらえるかしら?」


「いいよ。お礼だなんて……」


 それから数日が経ち……。


 ♢


 相変わらずクラス内で田村さんは一目置かれているのだが、俺の中ではひょっとしたら田村さんは "ただ可愛いだけ" なのかも知れないという疑問が芽生え出していた。


 今日は筆記用具を忘れずに持って来ていたのか、田村さんはカバンから筆箱を取り出すと、中からピンク色のシャーペンと俺があげた消しゴムを取り出しては授業の用意をしている。


 驚いた……。


 自分のあげた消しゴムを田村さんが使おうとしている光景を見た俺は、なんだか嬉しくなってしまい、おもわず田村さんに声をかけてしまった。


「田村さん、その消しゴム……」


「\\\……」


 俺がそう言った途端、田村さんは無言で予備の消しゴムを筆箱の中から取り出すと……。


 気のせいだろうか? 田村さんの耳がほんのりと赤く染まっていく。


 うん。どうやらやっぱり気のせいではなかったようだ。田村さんは今日も可愛い……。


 それから数日が経ち。


 ♢


 俺はいまだにクラスに溶け込んでいない田村さんを、出来るだけ気にかけるようにしていた。


 今日も田村さんは、俺の隣でカバンの中を探っている。


 一体、どれだけカバンを探れば気が済むのかとツッコみたいところではあるが、俺はその気持ちを押し殺して男子達の視線が寄せられる中、田村さんに話しかけてみることにした。


「田村さん?今日は、またどうしたの?」


「……ノートをどこかに忘れてしまったみたいなんだけど」


 なるほど、今度はノートか。


 黒髪ロングにキリッとした紺色の瞳で大人びた印象を与えている彼女の外見とは裏腹に、中身は意外と抜けまくっているのかもしれない。


 俺はノート一冊分と同等枚数のルーズリーフを田村さんへと渡した。


「……こんなにもらって良いの?」


「いいよ、いいよ。どうせ俺が持ってても宝の持ち腐れになるだけだから」


「……宝の持ち腐れって、ふふふ。ありがとう。大切に使わせていただくわ」


 そして。その週の土曜日。


 俺はある光景を目の当たりにすることとなる。


 ♢


 俺が路地を歩いていると、一人の見慣れた女性がスーツケースを片手に、おばあちゃんの荷物を持っては一緒に横断歩道を渡ってあげていた。


 それは、『田村なつき』だった。


 田村さんは横断歩道を渡り終えると、おばあちゃんに笑顔を見せては、荷物を預けてからまた何処かへと立ち去って行った。


 俺はスーツケースを持った田村さんが気になったので、田村さんには悪いが少しだけ跡を付けてみることにした。


 そこから少し歩くと、田村さんがあるお店へと入って行った。


「ここって……」


 そこは、『ハッピーバースデー』と書かれている、どこからどう見てもメイド喫茶だった……。



 to be continued……。

 


 




 

 


 

 






 


 


 

 


 



 

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