4.バブみ、ヤバみ、企み
翌朝。
寝ぼけ眼を取れるんじゃないかというくらい擦って、まだ布団から出たくないと主張する体を無理やり起こす。
昨日は奏からのRINE攻撃が普段の五割増しだった。マナちゃんがどうだ美心が何だと質問攻めに見舞われ、結局寝たのは二時過ぎ。そりゃ眠たいはずだ。
カーテンを開けて太陽を浴びる。ぐーっと背筋を伸ばすと、一気に目が覚めるのを感じた。
うんうん、太陽は偉大だ。
そうそう、今日は普段よりほんの少しだけ特別な日なのを思い出す。
「――よしっ」
デスクの近くの壁に掛けられたカレンダーを一枚めくると、こいのぼりに兜のイラストがでかでかと描かれた、”五月”のページが出てくる。
そう、なにを隠そう今日から五月。
僕は”
ま、だから何って話で。
そそくさと身支度を済ませ、地上の偉大な太陽こと奏さんに怒られないうちに家を出る。
さあて本日もそのご尊顔を拝もうかな、なんて呑気に玄関を開けると、今日も今日とて満面の笑みの奏……と、奈乃。
なんだろう。二人ともとっても可愛らしいスマイルの筈なのに、背筋が凍えるね? 風邪の引き始めかな?
「蓮人君、おはよう! 昨日はおたのしみでしたね?」
「おはよう、奏。コーヒーがおいしかったよ」
「蓮人、今日はいい天気ね、屋上に宙吊りになったら気持ちいいんじゃないかしら?」
「うん、それ僕死んでるね」
参ったな。なぜかはわからないけどご立腹だ。奈乃に至っては命のやり取りをご所望らしい。
その後いつも通り(というのもアレだけど)両腕を拘束されながら、朝の通学路を歩く。
最近は女子からの奇異の目線は減り、男子からの殺意の籠った視線は微増。差し引きだいぶマシになっている。
右腕は奏に食われ、左腕は奈乃に匂いを嗅がれ……なにやらもうよくわからない状態で登校するのにも慣れてきた五月。皆様いかがお過ごしでしょうか。
などと冗談を言っていられる状況でもない。
僕の頭を占めるのは、昨日聞いてしまった電話の内容と、奏のおっぱいの感触。奈乃の方からは感じないんだけど、なんでかな?(迷宮入り)
それはさておき。
正直、奏にそのことを話すべきかどうか、僕は悩んでいる。
普通に考えれば包み隠さず話して、身構えていてもらうべきなんだろうけど、余計な心配をかけたくないという思いもある。
結局どうするのが正解なのか、未だに自分の中で答えが出せていないのだ。
さて、どうしたものか。
*****
そんな悩みを抱えていても、時間はいつも通り流れて昼休みを迎える。
授業の内容はさっぱり頭に入っておらず、今からさっきの授業の小テストをやるとなったら半分も取れない自信がある。
なお、普段の授業はちゃんと頭に入っているのかという点については、ここでは扱わないものとする。
はてさて。例によって例のごとく、立ち入り禁止の屋上に侵入し、回収されず置きさらしになっているベンチに腰かけた。
しかしまあ、本来立ち入り禁止の場所に入るというのに、奏の堂々たるや目を見張るものがある。
僕はいつも人目を憚ってこそこそ入っていたのに。
まあ僕の場合、存在を認知されていないので目撃されたとて、ではあるんだけど。……あれ、目から水が……。
「はふぅ~。お昼ご飯の後の蓮人君は格別だねえ」
「もう常にブレザーの右腕が湿っていることにもなれてきたよ」
「あむあむ……しあわせ~♡」
「それホントになにがいいのん?」
いつからか抱き着きだけじゃ飽き足らず、あむあむするようになった奏は、今日も元気にいざ実食。
感心するのはいつの間にかブレザーの替えを用意していたということ。その日一日あむり尽くしたブレザーを、前日クリーニングに出していたブレザーと毎日交換するというサイクルが確立されてからは、仕方なく許して(注 ルビ:諦めて)いた。
ただし、なにが良くてそこまでしているのかはいまだ謎。
「あむあむ~…………あっ!」
と、ご満悦そうな表情で僕のブレザーをあむり倒していた奏が、急に顔を上げ両手を打った。何やら思いついたらしい。
碌なことである確率……十五パーセント。撤退を推奨。
しかしそんなことは許されるわけもなく。奏は僕の右腕をしっかりロックしたまま、にっこにこで今しがた思いついたばかりの自称名案を声高らかに発表した。
「いつもわたしが甘えてるから、今日は蓮人君がわたしに甘えていいよ! 膝枕とか!」
はい、神イベントktkr(懐古)
撤退を推奨? そんなバカなことを言ったのはどこのどいつだ?
僕はつい視線を奏の太ももに向ける。
短いスカートから伸びる、肉感ゆたかな太もも。しかし決して太っているわけではなく、ちょうど僕の性癖のど真ん中を射抜くような、ほどよい肉付きの太もも。
ふむ。太もも。――――たまらん。
「いつでもいいよ?」
あざとさすら感じるような可愛らしさ前回の声で、自分の太ももをぽんぽんと叩く奏。
さすがに照れがあるのか、その顔はほんのり赤い。
嫌でもさすがに、学校でこん「じゃ、お言葉に甘えて」なことするわけには――ってあれ!? 体が勝手に!!?
わずか残っていた理性を一秒とかからずに消し飛んでしまい、僕は自分の欲望に忠実なしもべと化す。
こうなったらもうだめですよ。抗う術がないもんね。
てなわけで、一切の躊躇なくその魅惑の太ももへとダイブする。
「…………ここが天国か……」
出てきた感想はそんな一言。
もっと簡潔に言うなら、「ヤバい」である。もうとにかくヤバい。
こんな柔らかいものがこの世にあるのか。毎日腕に感じていた奏の胸の感触よりも、余計な布を隔てていない分何倍もはっきりと。
最も収まりのいいポジションを求めて僕がわずかに頭をずらすと、伴ってスカートの裾がめくれて、その新雪のような白い柔肌はより
「んんっ……」
くすぐったいのか、奏は小さく喘ぐ。
その声はやけに湿っていて
頭を百八十度回転させ、奏の体の方に顔を向けたくなる衝動に駆られる。
きっとそうすれば、眼前にはスカートに隠されたその中が広がるはずで――いやいかんいかん。そうなったら僕は自我を保つ自信がない。きっと僕がそうしても奏は許してくれるだろうに、勇気が出ない僕に遺憾遺憾。
そんな僕の葛藤を知ってか知らずか、奏はっ右手で僕の頭を優しく撫でて、左手で僕の胸のあたりを
「えへへ……蓮人君子供みたい……。ママのおひざは気持ち良いですか~♪」
ばぶう……。ばぶばぶ、あーうっ!
――はっ!?
奏のバブみに
まあそんなこんなで。
すっかり重要なことを伝え忘れていた僕は、五限目の終わり、不意に届いた一通のRINEに一気に現実に引き戻されることになる。
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