4.幸せなら態度で示そうよ(主にダンス)
翌朝。
いつものアラームとは違う音で目が覚めた。
ポロンという小気味よい音。RINEの通知音だ。
やけに重たい瞼をこすって、スマホを持ち上げると、それもそのはず。普段よりも一時間近く早い時間に起こされたらしい。
いったいこんな朝っぱらに誰だよと半ば恨めしそうな目で通知を確認すると、そこには”一条奏”の文字が。
なるほど、つまり可愛い彼女からのモーニングコールということらしい。
正直この時間からは迷惑……と思いつつも、つい顔がにやけてしまうのも事実。
そりゃそうだよ。あんな可愛い女の子が僕のことを好きだっと言ってくれて、こうしてメッセージを送ってくれるんだから、思春期男児としては諸々昂るのは致し方ない。
初めて感じるような高揚感を覚えながらトーク画面を開くと、そこには朝の挨拶とともに要領を得ない一文。
『今日はお弁当持ってこないでね』
なぜ?
「私と付き合えたんだから昼飯なんていらないだろ?」みたいな新手のドSプレイ?
……まあそんなことはないだろうけど。
経験の疎い僕でもなんとなく想像がつくのは、きっとお昼を用意してくれているんだろうなという事。
まあ違っても最悪学食で食べればいいし、素直に従うことにする。
『おはよう。わかったよ』と送って、気まぐれに猫が両手で大きな丸を作っているスタンプも添えてみる。
しかし女の子から見て、男が猫のスタンプを使うというのはどうなんだろうか。女々しく思われたりするものなのかな。
とはいえこのスタンプは、妹の美心が「お兄ちゃんに似てて可愛い!」とプレゼントしてくれたもので、いたく気に入っているためどう思われようが使い続ける所存。
閑話休題。
一時間早く起きてしまったこの空き時間をどう過ごそうか考える。
二度寝することも考えたが、今日はやけに目が冴えてしまっているためそれは却下。
となると残された選択肢は一つしかない。
というわけで。
ふらふらと一階のリビングまで降りていき、電気ケトルに水を入れてスイッチオン。
お湯が沸くまでの数分間のうちに歯磨きと洗顔を済ませると、台所に向かいマグカップにスティックタイプのカフェオレ粉末を投入。
タイミングよく沸いた熱湯を注ぎ、完成。
朝のホットオレ。いただきます。
普段より早く目が覚めるのは何も今日が初めてではない。
今日の様に二度寝が出来ない場合は、こうして粉末コーヒーを淹れて本を読む。
これがなかなか気分が良い。カフェインが多少なり作用して脳が覚醒。文章がすんなりと頭に入ってきて、読書効率が上がること上がること。
こうしている間はどんな悩みや嫌なことも忘れることができて、僕はたまに早起きした時にだけ味わえるこの時間が大好きだった。
でも、こと今日に限っては一つだけ、ある議題が湧き上がっている。
それは当然、
もしこのまま僕と奏が許婚ということになれば、将来的には結婚するということになるわけで。
奏は一条社の娘。その夫ということになると、僕は会社にとってどういう立ち位置になるのだろうか。
まさか継いでくれとはならないだろうが、かといって忌み子みたいな扱いをされるのもごめんだ。
でも、少なくともこれやこれに付随する問題は避けては通れないわけで。
つまり僕には、今後発生するであろう諸々のしがらみを背負う覚悟がないのだ。
そんな状態で、許嫁だなんだと言われても、奏を傷つけることになるだけだ。
「やっぱ、ちゃんと断るべき、なんだよな……」
無意識にそう呟き、飲み頃の温度になったカフェオレをすする。
無理やりに本のページを進んでいると、どんどん意識は本を読むことに注がれていった。
「うわ、危ない」
読んでいた本の最後のページが終わり、ふと時計に目をやると、なんとびっくり七時半。
いつの間にか二時間近く経っていたらしい。
幸い家から学校までは歩いて二十分ほどなので、八時前に家を出れば余裕で間に合う。
クラスには電車で通う人もいることを考えると、かなり恵まれていると思う。
クラスの人と関わりないからわからないけど。
ま、今日は弁当を作らなくていいわけだから、のんびり着替えるとしよう。
マグカップを洗って、僕は自室へ戻って制服に着替える。
朝食代わりに牛乳とシリアルを腹にシュートし、準備万端。
今出ると少し早いけど、いつも通りの時間に出て奈乃と鉢合わせるのが少し気まずかったので、そのまま出発することにした。
おろしたての靴を履き、誰もいないリビングに向かって「行ってきます……って誰もいないんだけど」と恒例のあいさつをかます。
さあ、朝の始まりだ! 今日は平和でありますように!
ガチャ(玄関のドアを開ける音)
「蓮人君、おはよう!」
ガチャ(玄関のドアを閉める音)
なんかいたぞ今。
僕の目がおかしくなっていなければ、亜麻色のボブヘアが素敵な、主に胸部の発育が目覚ましい可愛い女の子がいたような。
いや、でもまさかそんなはずはない。
そんな女の子は僕の知り合いに一人しかいないはずだが、彼女は昨日僕の家とは反対方向に帰っていったはずだ。
きっとまだ寝ぼけているんだな、そうに違いない。
カチャ(恐る恐る玄関のドアを開ける音)
「蓮人君、おはよう!」
カチャ(ゆっくり玄関のドアを閉める音)
「……っ!」(ドアの隙間に足を挟み込んで妨害する奏の声にならない声)
「くっ……」(思いっきり外からドアを引っ張られて負けそうになる僕の声)
きーばたん(外に引っ張られてドアを閉められる音)
「どうして閉めようとするの!」
「なんで奏がここにいるのさ⁉」
僕と奏がほぼ同時に叫ぶ。
プンスコといった感じでじとーっと僕を睨む奏が、腰に両手を当てて「怒ってます」のポーズ。可愛いね。
「蓮人君と一緒に登校しようと思ったの! 彼女なんだから当然でしょ!」
それくらいわかるじゃん!と不満タラタラの奏に、僕は先も抱いた疑問をぶつける。
「それは嬉しいけど、奏の家は反対方向じゃないの?」
「そうだよ」
それがなに?とでも言いたげな奏。
やがて、すぐ僕の言わんとすることに気が付いたのか、「大丈夫」と続けた。
「ここまでは車で送ってもらったの。二人で歩いていけるように」
だって、と彼女。
「やっと蓮人君とお付き合いできたんだもん、一秒だって長く一緒にいたいよ。……蓮人君は、イヤ、かな……?」
ふむ……可愛すぎない?
なんというか、
しないけどさ。
「そんなことない。すごくうれしいよ。ありがとね、奏」
「はぅっ」
さすがに抱きしめはしないけれど、素直な気持ちはぶつけたっていいだろう。
奈乃なら気持ち悪い!なんて怒るかもしれないけど、奏なら受け入れてくれるだろう。
そう思って、つい奏の亜麻色の頭を撫でてしまった。
さらさらだ。本当に僕と髪と同じ成分でできているのか疑ってしまうほどに見た目も手触りも透き通るような彼女の髪の毛を優しく撫でる。
ああ、一生撫でていられるな。
なんて身勝手なことを考えていたからか、奏の様子がおかしくなってしまったことに気付くのが遅れてしまった。
いつの間にか奏の顔は真冬のストーブの様に真っ赤に燃えていて、ぱくぱくと口を小さく開いたり閉じたり。
その姿は、さながらひな鳥が餌をねだるような。要は可愛い。
「れ、れれれれんときゅんが、あたまなでなで……はうぅうぅ……」
蚊の鳴くような声で何か呟いている奏。しかし、その声は絶妙に聞き取れず。
しばらく奏の艶髪を堪能し手を放すと、彼女は自分の右手を頭の上に置き、左手で体をぎゅうっと抱きしめている。
それにより大きな胸がむぎゅうと形を変えて目のやり場に困ってしまうが、どうせ困るなら見ちゃえよという自分の中の悪魔に唆される。
脳内稟議の結果、全会一致でその様子を目に焼き付けるがごとくガン見することに閣議決定。
ありがとうございます。
「――はっ⁉」
ようやく意識を取り戻したらしい奏は、いそいそと佇まいを正し、こほんと一つ咳払い。
まだほんのり赤いままの顔で僕を見つめ、人差し指をびっと差し向ける。
「勝手に頭を撫でるのは、めっ!だよ!」
なんだこの子。可愛いが過ぎる。
ラッツ&ス〇ーも形無しの「めっ!」に思わずときめきつつ、とりあえず学校行こうか、と二人で歩きだす。
奈乃と美心を除くと、誰かと一緒に登校なんて初めての経験でどうしたらいいかわからない僕は、一メートルほど離れて遠慮がちに隣を歩く。
初めこそいろいろ話を振ってくれていた奏だが、この微妙な距離感にどうやら不満を覚えたらしく、一瞬にしてその距離を詰め、僕の右腕に抱き着いてくる。
「なっ⁉」
驚く僕を尻目に、奏は満足げに僕の腕に頬ずりをしている。
くすぐったいしいにおいだしなんか当たってるしやわらかい!
まさかの縮地使いの登場に戸惑うも、奏は「付き合っているんだから当たり前」の構え。
いくら付き合っていても人前では自重するだろうという指摘も、目の前でごろにゃあと満面の笑みを浮かべる奏の顔を見るとどうでもよくなってしまって、僕は大人しく受け入れることにした。
あ、今の”受け入れる”に”諦める”ってルビ振っといてください。
*****
さて、問題は僕の心情や奏の表情とは別のところにあるのは聡明な皆様なら既にお気付きのことと存じます。
僕は勘のいいガ――方は大好きです、はい。
まあ要は。
「なんで一条さんとあんな冴えないやつが……」
「てかあいつ、昨日桜庭さんに告ってたやつだろ? 〇ねよ」
「女ならだれでもいいのかよ……まあ俺はだれでもいいけど」
「うわアイツサイテー……」
周りの貫くような視線とひそひそ話に苛まれるというのがなかなかストレスだということで。
昨日は昨日で酷かったが、今日は輪をかけて辛辣だ。
最後の女子が言うアイツとは果たして誰なのかを考えて、気を紛らわす僕。
でも奏は、周りのことなど眼中になしと言わんばかりに、その豊満な胸と女の子特有のいい匂いをむしろ強く押し付けてくる。
「周りなんて関係ないよ。大事なのは、わたしが蓮人君を愛してるってこと♪」
きっと彼女は本気で言ってくれているのだろう。その表情を見れば、それが嘘ではないというのは僕にも理解できる。
だからこそ、なし崩し的に付き合っているこの現状が本当に正しいのか、彼女の望んだことなのか、不安に感じてしまうのだけど――。
「れ、蓮人!」
と、目の前に飛び出す人影と僕を呼ぶ声。
「奈乃」
その声の持ち主の名前を僕は呼ぶ。
昨日、決別した幼馴染。
その表情は、いつものツンとしたものではなく、まるで泣き出すのを堪えているような、女の子らしいものだ。
「な、なんで蓮人が一条さんと……⁉」
そして、僕と奏の位置関係を見るや否や、怒髪天を突く勢いでツインテールを逆立て、びしっと指さし。
ヨシ!という様子ではなさそうだ。
「蓮人君とわたし、付き合うことになったの」
僕が答えるより先に、奏が奈乃に言い放つ。
勝ち誇ったように口角を上げ、努めて平坦なトーンで言葉を紡いでいるように感じるのは気のせいではなさそうだ。
「でも、ただの幼馴染で蓮人君をフッた桜庭さんには関係ないよね」
「んなっ⁉」
刹那。
二人の視線がぶつかり、そこには稲妻が走る――ような錯覚。
しかし、そんな一触即発ムードは、直後霧散することになる。
「「「「「「えーーーーーーーーー!!!!!!??????」」」」」」
……
*****
奏の
もちろん噂は一瞬にしてクラスどころか学校中にまで広まり、二日連続で周囲からの視線、ヒソヒソ声に苛まれることとなる。
変わったのは、視線が侮蔑や嘲笑のそれから、羨望、嫉妬になったという事。
結局、イヤな注目を集めているという点においては何ら変わりない。
でも昨日までとは違い、休み時間のたびに奏が僕の席まで来てくれて、話をしてくれるから、不思議と苦ではなかった。
思い返せば、隣に誰かがいてくれるというのは、こと高校生活においては初めてに近いことだった。
さて、現在僕は
僕は普段昼食のために一人で屋上に来ていたが、今日も例に漏れず用件は昼食を摂るため。
ただ、今日は奏が一緒にいて、そしてその彼女がやけに大きなランチバッグを持っているという事。
まだ僕のだと言われたわけでもないのに、どうしても期待してしまう。
屋上の隅のベンチに腰かけると、奏も隣に座る。ちょうど人一人分空けて。
奏はランチバッグを膝に乗せると一瞬もじもじしたが、すぐにこちらに向き直り、わずかに朱の差した顔で僕の瞳を見つめる。
「蓮人君、お弁当、作ってきたの。……食べてくれる?」
正直、今朝のRINEの時点で予想は出来ていた。
にもかかわらず、この高揚感たるや、女子の手作り(かどうかは不明として)弁当とはこうも男心をくすぐるものなのか。
母さんや妹が作ってくれた時とは比べ物にならない嬉しさを感じ、ついつい小躍りしてしまいそうだ。いいや踊っちゃえ。
あそれよいよい。立ち上がり、両手を胸のあたりで左右に揺らしながら小気味よくステップを踏むと、一瞬面食らったような顔をした奏。しかしすぐに「ぷっ」と吹き出すように笑った。
「蓮人君、なにその踊り」
「蓮人喜びの舞'24」
けらけらと楽しそうに笑う奏をみて、僕も嬉しくなってしまう。
しかしこの手のボケは長すぎるとしらけるので、早々に切り上げてまた着席。
「踊もたけなわですが」などと締めのあいさつを済ませると、ひとしきり笑い終えた奏が、涙目になりながら仰々しい弁当箱の蓋を開けた。
するとびっくり。
大きな弁当箱に、唐揚げ、卵焼き、ブロッコリーに蓮根のきんぴら……。お弁当のおかずランキング五十年連続上位ランカー(※藤原蓮人調べ)のおかずたちが所狭しと詰められており、食欲をそそること世になく。
「お、おいしそう……」
つい漏れるのは感嘆の声。仕方ない。それほどまでにおいしそうで、なにより嬉しすぎる。
なんだか、昨日からずっと嬉しがってる気がする。
「蓮人君はどのおかずが一番好き?」
「うーん、僕はやっぱりきんぴらかな」
奏の問いかけに、僕は素直に答える。
そうなんです。何を隠そう僕は蓮根のきんぴらが三度の飯よりも好き。
そもそもきんぴら自体が飯に含まれるのではないかという矛盾点が度々議論されている(されてない)が、僕はこれを「きんぴらパラドックス」と呼んでいる(呼んでない)。
「じゃあ……、あ、あーん」
奏が、弁当箱の中からきんぴらを一口分持ち上げ、僕のほうに差し出してくる。
ふむ、これはもしや。
世に聞く「あーん」というやつではないだろうか。
「……はやく」
恥ずかしさのあまり硬直していると、奏が持ち上げたきんぴらをさらに近づけて早く食べろと催促。
女の子にここまでさせて日和っていては男が廃る。
僕は言いようも無い照れくささを押し殺し、差し出されたきんぴらを一口。
「お、おいしい……!」
そしてもたらされたのは感動。
好物というのもあるが、それ以上に単純に味付けが素晴らしい。
具体的に書き連ねたいところだが、筆舌に尽くしがたいと表現するのが最もしっくりくるくらいのレベルなので、ここでは割愛させていただくとして。
「えへへ、よかった!」
隣で安心したように胸をなでおろしている奏を見ると、おいしいきんぴらも相まって得も言われぬ幸福感が胸にこみあげてくる。
まともに会話したのは昨日が初めてなのに、僕の中で「彼女が嬉しいと僕も嬉しい」と思えるくらいには大切な存在になりつつあるらしい。
我ながらちょろいものだと辟易してしまうが、でもこんなかわいい女の子が相手なら仕方ないと自分に言い訳をして。
「じゃあ次は唐揚げも、あーん♪」
すっかり勢いづいた奏は、結局その大きな弁当箱が空になるまで「あーん」をしてくれた。
*****
「おい、藤原」
五限目が終わり休み時間、トイレから戻って教室に入る直前、クラスメイトの男子から声をかけられる。
一八〇センチを優に越えるその体躯は、目の前に立たれると流石に威圧感がある。
関わりのない僕でも、彼が野球部の次期キャプテン間違いなしと言われていることくらいは知っているが、彼に話しかけられるような用事はないはずだ。
「い、伊藤くん。なんの用?」
「お前、なんで一条さんと仲良くなってんだよ?」
あ、それ僕も知りたい。
とまあ冗談はさておき、どうやら一条さんが僕に構うのが気に食わないらしい。
ギロッっと鋭いまなじりで僕を睨みながら、凄んでいる。
「一条さんがお前と付き合ってるなんて噂も聞いたけど、どうせお前が何かしら弱み握って脅してるんだろ?」
は? 何を言ってるんだ彼は。
「いや、そんなわけないよ。そんなんじゃない」
つい、そんな苛立ちが声音に出てしまう。
「てめえ……っ」
それが彼の癪に触ったらしく、右手を僕に方に伸ばしたと思ったら胸倉をガシッと掴まれる。
どうやら彼はその見た目に違わず喧嘩っぽい性格らしい。
……などと平静を装ってはいるが、実は震えてます。
殴られたらどうしよう。
「何をしてるの?」
しかし、それを制したのは意外と言うべきか予想通りと言うべきか。
「い、一条さん! いや、そのこれは……」
さっきまでの威勢はどこへやら、途端しおらしくなる伊藤君。
そんな彼を、奏は冷たい目で睨む。
「悪いけど、蓮人君から離れてくれる? その手も今すぐ放して」
「あ、ああうん」
伊藤君は、僕を一瞬睨んで、渋々手を引っ込めた。
「はあ……」
呆れたように奏がため息をつく。
そして、僕の腕をぐいっと引っ張って体を密着させた。
「隠すつもりもないし、この際はっきり言うけど」
目の前の伊藤君に向かって、でも教室の中にも聞こえるような大きな声で奏が言い放つ。
「わたしと蓮人君、付き合ってるから」
そして数時間ぶり二度目の
噂程度に留まっていたのであろうものが本人の口から肯定されたということで、俄かにざわめきたつ。
「な、なんで……。俺が告白した時は、他に好きな人がいるって断ったじゃないか!」
しかし伊藤君は真剣な顔で、奏に食ってかかる。
ほう、伊藤君は以前奏に告白してフラれていたのか。なんとなく親近感。
「だからその好きな人が蓮人君ってことじゃん。わかるでしょ」
そんな伊藤君の熱量とは対照的に、当たり前のこと言わせないでとばかりに淡々とした奏の声音に、流石の伊藤君も二の矢が出ない。
「いこっ、蓮人くん♪」
愕然と言う単語を辞書で引いたら彼の写真が口絵として載せられていそうなほど見事に冷温停止した伊藤君には一瞥もくれず、奏は僕の腕を引いて教室に戻っていく。
ふと奈乃と目が合うが、すぐに逸らされてしまった。
きっともう、僕の顔なんて見たくもないのだろうか。
一瞬、ズキリと胸が痛むのを感じる。
だがそれも、今僕の腕に触れる柔らかい胸の感触――じゃなくて奏の太陽のような笑顔でたちまちに和らいでいった。
本日の総括。巨乳は偉大だ。
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