新たなる敵ホワイト・ウインターズ

「うう!! 寒いな!! ここがスノウ・フィールドか!!」

「ええ、寒さに気を付けてください」


 ブラックオニキス伯爵との壮絶な戦いから早くも2時間、流浪の旅人である玄武水柱拳の使い手玄武とホワイトダイヤモンド一族の末裔アリス・ホワイトダイヤモンドはオリオン・コールドマンがホワイトダイヤモンド一族の秘宝を奪って逃げた先である極寒の地スノウ・フィールドに来ていた。


「しかし、こういう雪がたくさん降ってる場所に来るとあの時のことを思い出すな」

「あの時……ですか?」

「ああ……昔俺の友人である白虎と旅をしていた時のことだ、青龍王国の雪山で吹雪に見舞われてな、遭難しかけたんだが偶然山荘を見つけてな、ところがその山荘で事件が起こって……」

「玄武さん見てください!! 雪だるまがありますよ!!」


 アリスが玄武の話を無視して指さした先には一つの雪だるまがポツンと立っていた。


「おお、そうだな……ん? まさか……!?」


 玄武が雪だるまを訝しむと突如として雪だるまの中から人が飛び出してきた。


「ふん!! 雪だるまの中にこの俺様が入っていることにもう気づくとはな!!」

「貴様はいったい何者だ!!」


 玄武は突然現れた謎の男に問いかける。


「俺は白冬雪玉拳の使い手のスノーボール・アイスバーグ!! 我が組織ホワイト・ウィンターズに盾突くものは俺の拳法で死ぬのだぁーーーー!!」


 男はそう叫ぶといきなり雪玉を投げつけてきた。


「アリスは後ろに下がってな……この俺、バトルアクション玄武が相手だ!!」


 そう言うと玄武は飛んできた雪玉を躱し、素早く間合いを詰めると、男の腹に正拳突きを放った。


「うぐぅ!? おのれぇーーー!! だがまだ終わらんぞぉー!!」


 スノーボール・アイスバーグは玄武から間合いを詰めると今度は顔面めがけて雪玉を投げてくる。


「なんのこれしき!!」


 玄武はそれを難なく躱すと、今度は蹴りを放つ。


「ぐはぁ!? まだまだぁーーー!!」


 スノーボールはさらに雪玉を投げるも、玄武はその全てを躱していく。そしてついに隙を見て懐に入ると、渾身の力を込めて掌底打ちを放ち、スノーボールを吹き飛ばした。


「これで終わりだーー!!」


 吹き飛ばされたスノーボールはそのまま地面に叩きつけられる。


「ぐっふっふ……なかなかやるではないか、さすがは噂に名高い玄武水柱拳の使い手と言ったところか……」

「観念しろ、お前には聞きたいことがたくさんある、ホワイト・ウィンターズとは一体何だ、なぜホワイトダイヤモンド一族の秘宝を狙う?」


 スノーボールはゆっくりと立ち上がると不敵な笑みを浮かべて言った。


「いいだろう教えてやる、我々ホワイト・ウィンターズは玄武!! 貴様を倒すために結成された組織なのだ!!!」

「何!? 俺を倒すだって!!!?」

「ああ!! ホワイト・ウィンターズの首領、百冬様は貴様を恨んでおられる!!だから我らの手で葬り去るのだぁー!!」

「ふざけるな!! お前たちなんかにやられてたまるかよ!!」


 玄武はそう言うと再び構えを取った。


「いくぞおおおおおおおおおおおお!!!」


 すると、突如スノーボールは叫び声を上げると、なんと全身が巨大化し始めた。


「なっ何だこれは!?」

「くらえ!! 必殺!! ビッグ・ブリザードアタック!!」


 次の瞬間、巨大な雪玉と化したスノーボールはものすごい勢いで玄武に向かって突っ込んできた。


「くっこうなったら俺も奥義を使うしかないようだな……」


 玄武はそう言うと、精神を集中させ始めた。


「くらえぇーーーーーい!!!!」

「今だ!! 喰らえ!! 玄武流波動砲!!!」


 玄武は迫ってくる巨大雪玉に対して、玄武流波動砲を繰り出した。二人の技が激しくぶつかり合う。


「ぬうぅぅぅぅ……負けるかぁぁぁぁぁ!!!」


 その瞬間、玄武の放った玄武流波動砲の威力が増し、スノーボール・アイスバーグを押し返していく。


「馬鹿なぁぁぁ!!! そんなはずがあるものかぁぁーーーー!!!!」


 スノーボール・アイスバーグは断末魔の叫びを上げるとそのまま消滅していった。


「ふう、なんとか倒したみたいだな」

「すごいです玄武さん!! あのスノーボールとかいう人をやっつけちゃうなんて!!」


 アリスは目をキラキラさせながら玄武に言った。


「まあ、俺にかかればこんなもんさ、それよりホワイト。ウィンターズのアジトを探すぞ! この先の町のどこかにあるはずだ!!」

「はい!」


 こうして二人はスノウ・フィールドの町を目指して歩き始めたのだった。それからしばらくして、ようやく町に着いた二人だったが、町はやけに静まり返っていた。


「……なんだか静かですね?」

「ああ、まるでゴーストタウンだな……」


 二人が町の様子を見ていると、一人の老人が話しかけてきた。


「お前さんたち、旅の方かね? こんな辺鄙な場所によく来たのう」


 老人は二人を労うように優しく微笑む。


「ええ、ちょっとホワイト・ウィンターズのアジトを探しておりまして……それにしても人があなた以外いないように見えるんですが?」

 玄武がそう言うと、老人の顔が曇った。


「ふむ……実はこの町にはもう人はおらんのじゃよ……皆、ホワイト・ウィンターズのやつらにさらわれたんじゃ」

「何だって!? それは本当ですか!?」

「本当じゃとも、ほれあそこを見てみなさい」


 そう言って老人はある方向を指差した。そこには大きな時計台があった。


「あれは一体……?」

「あれが奴らの本拠地なんじゃ、あそこにはたくさんのさらわれた人たちがいる……わしはそれが心配でならんのじゃ……」


 老人は悲しそうに顔を伏せる。


「おじいさん、私たちに任せてください!!」


 突然アリスが言った。


「お、お嬢さん……?何をするつもりだね?」

「私たちがその人たちを助け出してきます!!」

「何と……!! しかし相手は大勢の戦闘員がいるというのに大丈夫なのかね……?」

「大丈夫です!! こう見えて玄武さんは強いですから!!」

 アリスの言葉に玄武は少し照れながら頭を掻く。


「そ、そうか……ならよろしく頼むよ、どうか気を付けてくれ……!」

「任せてください!!」


 そう言うと二人は早速本拠地へと乗り込んでいった。


「ここがホワイト・ウィンターズのアジトか……」

 玄武たちは敵のアジトである時計台の前まで来ていた。


「何だか不気味な雰囲気ですね……」

「ああ、そうだな、気を引き締めていこうぜ!」

「はい!」

「よし、じゃあ行くぞ!!」


 そして二人は勢いよく中に入っていった。すると、いきなり目の前に大量の氷柱が飛んできた。


「うわっ!?」


 間一髪のところで躱した玄武だったが、危うく串刺しになるところだった。


「ほう、まさかここに来るとは思わなかったぞ……だがそれも想定内だ!!お前たちはここで死ぬのだぁーー!!」


 声と共に現れたのは全身に氷の鎧を纏った男であった。


「私の名前はスノー・ドラゴン!!ホワイト・ウィンターズの幹部の一人だ!!」


 スノー・ドラゴンと名乗る男はさらに続けて言った。


「お前たちに良いことを教えてやろう、私はこの通り冷気を操ることができるのだ!!しかし玄武!! 貴様が操る属性は水!!つまりお前ごときでは私に勝つことは絶対にできないということだぁぁぁーーー!!!」


 そう叫ぶとスノー・ドラゴンは再び攻撃を仕掛けてきた。

「くっ!! 確かに奴の言う通りかもしれない、俺の持つ玄武流波動砲はあくまでも自分の中の気を高めて放つ技だ、だから相手と相性が悪いと威力は半減してしまうんだ……」


「玄武さん……」


 アリスは心配そうに玄武を見つめる。


「心配するなアリス、まだ負けたわけじゃない、何とかして打開策を見つけるさ」

「でもどうやって……」

「大丈夫だ、俺には必殺技があるからな」


 そう言うと玄武は構えを取った。


「喰らえぇぇい!!」


 スノー・ドラゴンは叫びながら玄武に向かって突っ込んでくる。


「くらえっ!! 玄武!! 死ねっ!! 百冬様のためにも死ねっ!!!」

 その時だった、突如どこからか声が聞こえてきた。


『必殺奥義:玄武水龍拳!!』


 次の瞬間、なんとどこからともなく巨大な水の龍が現れ、スノー・ドラゴンを飲み込んでしまったのだ。


「なっ何だこれは!?!?!?!?」


 あまりのことに驚き戸惑っている様子のスノー・ドラゴンだったが、やがてそのまま消滅してしまったのだった。


「……ふう、どうやら勝ったみたいだな」

「すごいです! さすが玄武さんです! それにしてもあの水の龍を呼び出す技は一体?」

「あれは以前戦った黄龍という闇のバトルアクションが龍の姿になっていたのを参考にして生み出した技なんだ、その名も玄武水龍拳だ!!」

「へぇーそうなんですかぁ……ってそんなことより早くホワイト・ウィンターズの人たちに捕まった人たちを助けに行きましょう!」

「ああ、そうだな!」


 こうして二人は囚われた人々を救出するため、再び歩き出したのだった。一方その頃時計台の最深部、ホワイト・ウィンターズの首領百冬はオリオン・コールドマンから報告を聞いていた。


「ふむ、なるほど……玄武がこの時計台に来ていると……」

「ええ……その通りです」

「ならばちょうどいい、奴はここで殺す……奴は私の大切な弟を殺した男だ……」

「かしこまりました、私もすぐに出撃の準備をいたします……」


 そう言うとコールドマンは部屋から出て行った。


「ふふふふふ……待っていろよ玄武!!確実に息の根を止めてやる!!」

 それからしばらくして、玄武とアリスは次の部屋に来ていた、そこにはたくさんの女性たちがいた。


「皆さん大丈夫ですか?助けに来ましたよ!」


 アリスが言うと、女性たちは皆安心したような表情を浮かべた。


「ありがとうございます、何とお礼を言ったらいいか……」

「いえ、気にしないでください、それよりここは危険なので安全なところに避難しましょう、安全な場所に心当たりはありませんか?」


 すると一人の女性が手を上げた。


「それならここから少し離れたところにある教会がいいと思います、奴らもあそこでは戦えません、あそこならきっと安全だと思います」

「そうですか、わかりました、それではそこに向かいましょう、ついてきてくださいね」


 そう言って玄武たちは部屋を出た。そしてしばらく歩いていると、突然背後から声が聞こえた。


「玄武!! こんなところまでよく来たな!! 百冬様の命令だ!! ここで貴様を殺す!!」

 振り返るとそこにはコールドマンが立っており、さらにその後ろには大量の戦闘員たちがいた。


「まずいぞアリス!! 一旦逃げないと!!」


 しかし時すでに遅く、玄武たちの周りは完全に包囲されていた。

「くっ……!!どうすれば……」


 焦る二人を見てコールドマンは楽しそうに笑った。

「ふはははははっ!! もう逃げられないようだな!!覚悟しろぉーー!!!」コールドマンの号令と共に一斉に襲い掛かってくる戦闘員たち、絶体絶命と思われたその時だった。

『必殺奥義:白虎雷光弾!!』


 突如眩い光が辺りを照らし、次の瞬間には無数の雷撃が降り注いだ。


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 次々と倒れていく戦闘員たち。


「なっ!! これは白虎の技!! しかし一体これは……」


 戸惑う玄武、玄武が見つめる先に白虎が見えたような気がしたが、しかしそれは幽霊のように消えてしまった。


「一体何だったんだ……?」


 疑問を抱きながらも、とりあえず危機を脱した二人は急いでその場を離れることにしたのだった。その後、無事にアジトを抜け出た玄武とアリスと女性たちは協会にたどり着いた。


「ここまで来ればもう安心ですね」

「ああ、そうだな」

「本当にありがとうございました、このご恩は一生忘れません」


 そう言うと女性は深々と頭を下げた。


「いや、そんなに気にしなくてもいいですよ、それに俺たちもあなたたちを助けられて良かったです」

「ふふっ、お優しいんですね、ところでお二人はどういった関係なんですか?」

「えっ? いや、別に俺たちはそういう関係じゃ……」


 慌てて否定する玄武だったが、それを聞いて何故か悲しそうな顔をする女性。


「あっ、そうだ! まだ名前を言ってませんでしたね、俺は玄武、こいつは俺の仲間のアリスです」

「よろしくおねがいします!」

「私はサファイアと申します、ところであの時計台にはさらわれた町のものがまだいるんです!! これはもうホワイト・ウィンターズを倒さない限りどうにもなりません!!どうかお願いします!!この町を助けてください!!」

「もちろんです!任せてください!」


 こうして二人は再び時計台に向かうことにしたのだった。


「よしっ! それじゃあ行くぞ!」

「はい!」


 気合を入れて歩き出そうとする二人だったが、そんな二人の前に一人の男が現れた。男は長身で端正な顔立ちをしており、まるでモデルのような体型をしていた。


「誰だお前は!?」


 玄武が叫ぶと、男はゆっくりと口を開いた。


「僕はホワイト・ウィンターズ幹部のタイム・フリーズ!! 玄武!! 君を時計台に帰すわけにはいかないんだ!ここで死んでもらうよ!」


 そう言うとタイムは目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出してきた。


「うわっ!!」

 なんとか攻撃を避けることに成功したものの、衝撃で吹き飛ばされてしまう玄武。一方アリスの方はと言うと……

「きゃぁぁぁぁ!!!」

 一瞬で氷漬けにされてしまったらしく、悲鳴を上げながら固まってしまっていた。


「僕の百冬氷止拳はあまりの寒さに時間をも止めてしまうんだ!! 玄武!! 君に勝ち目はない!!諦めて大人しく死ぬがいい!!」


 勝利を確信した様子のタイムに対して、玄武は不敵に笑ってみせた。


「ふっ、確かにお前の技はなかなか強力だ、だが俺には通用しないぜ」

「なにぃ!?どういうことだ!?」

 困惑するタイムに向かって玄武は言った。


「こういうことだよ!必殺奥義:玄武流波動砲!!」

 凄まじいエネルギーの塊が発射されたかと思うと、瞬く間にタイムの体を包み込み大爆発を起こした。


「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」

 断末魔の叫びを上げながら倒れるタイム。しかし次の瞬間には何事もなかったかのように立ち上がっていた。


「残念だったな、この程度じゃ僕には傷一つつけられないよ」

「くっ……! なんてやつだ……!」

 驚愕する玄武に対して、タイムは余裕たっぷりといった様子で言った。


「ふふふ、どうやら万策尽きたみたいだね、それじゃあそろそろとどめを刺させてもらうとするかな」

 そう言って近づいてくるタイムに対して玄武は必死に抵抗しようとした。


(くっ……あいつの拳法は時を止めることができる!! ならばさっきの現象もその力を使って? ならば!!)


 そして玄武はある賭けに出たのだった。


『必殺奥義:玄武水柱拳!!』


 次の瞬間、玄武の水を纏った強烈なパンチが炸裂し、その一撃を受けたタイムは一瞬怯んだがすぐに反撃してきた。


「無駄だと言っているだろう!!」


 しかしその瞬間、なんと突然玄武の体が崩れ始めたのだ。


「なっなんだこれは!?」


 驚くタイムの前でみるみるうちに崩れていく玄武の体。実は先程から何度もタイムの攻撃を受けてダメージを負っていたのだが、それを全て耐えきった後にわざと隙を作って相手の攻撃を受けることで自分の体を脆くしていたのである。そしてその作戦は見事に成功したようで、既に体は崩壊寸前になっていた。


「タイム・フリーズ!! 貴様の弱点はこれだ!! 貴様の拳法はあくまで時間を止めてるだけにすぎない!だからこうやって体を崩壊させればその影響を受けない!」

 そう叫びながら崩れ落ちる玄武を見て呆然と立ち尽くすタイムだったが、やがて我に返ると怒りの形相で叫んだ。


「きっさまぁぁぁ!!!よくもやってくれたなぁ!!!!」


 そんなタイムに対し、玄武は静かに告げた。


「さあ、どうする?このまま俺を見逃すなら命だけは助けてやる」


 それを聞いたタイムは怒りの形相で迷うことなく答えた。


「ふざけるなぁ!! 僕はホワイト・ウィンターズの幹部だぞ!!そんな僕がお前ごときに情けをかけられてたまるかぁぁぁ!!!!」


 そう言うとタイムは再び攻撃を仕掛けてきた。


「死ねぇぇ!! 百冬氷止拳!!」


 無数の氷の刃が襲い掛かってくるが、しかし玄武はそれを冷静にかわすとカウンターを叩き込んだ。


「ぐっ……!!くそっ……まだだぁ!!くらえ!!百冬氷滅拳!!」

 今度は氷撃の嵐が襲いかかる。しかしその攻撃を玄武は全て受けきりながらも、さらに攻撃を続けた。


「これで最後だ!必殺奥義:玄武水龍波!!!」

 巨大な水の渦が出現してタイムを飲み込んだかと思うと、そのまま勢いよく吹き飛ばした。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 激しい絶叫と共に地面に叩きつけられるタイム。それを見た玄武は満足げに笑うと、アリスの方を見た。するとそこには未だに凍りついたままのアリスの姿があった。


「すまないな、少し待っててくれよ」

 そう言うと、再びタイムの方へと向き直った。


「さてと、それじゃあトドメといくか」

 そう言いながらゆっくりと近づいていく玄武に対して、タイムは慌てて立ち上がると逃げ出した。


「くそぉ!!覚えてろよぉぉ!!」

 なんとも情けない捨て台詞を残して逃げ去っていくタイムを見ながら、玄武は小さく呟いた。


「ふん、雑魚が……」 


玄武はアリスの方を見て言った。

「よしっ、行くぞアリス!」

「はい!」

 タイムの拳法の範囲外になったからかいつのまにか氷が溶けていたアリスは元気よく答える、二人は時計台へと向かっていったのだった。そして二人は時計台の内部に再度侵入していた。


「行くぞアリス!! 目指すは時計台の最深部だ!! そこにホワイト・ウィンターズの首領はいる!!!」

「はいっ!!」

 こうして二人の冒険が始まった。二人がたどり着いたのは地下へと続く階段だった。


「俺にはわかる……この奥が最深部だ!! ここに首領はいる!」

「行きましょう玄武さん!!」

 そう言って階段を降りていく二人だったが、しかしその先に待ち受けていたのは意外な人物であった。そこにいたのは一人の美しい女性であり、その姿はまるで女神のようだった。彼女は二人に気がつくと声をかけてきた。


「ようこそ私たちの城へ、私はホワイト・ウィンターズ幹部の一人、美しき女王スノー・ホワイトと申します」

 そう言って頭を下げる彼女に向かって玄武は言った。


「この先にお前たちの首領がいるんだな? ここを通せ!!!!」


 そう言う玄武に対して、スノーは微笑みながら答えた。


「ええもちろん構いませんよ、ただし私を倒してからですがね」


 その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感を覚えた玄武はすぐに身構えたが遅かった。次の瞬間には辺り一面に雪が降り注いでいた。慌ててその場から飛び退くが、既に遅く全身が雪に覆われてしまっていた。焦る玄武だったが、そんな彼の前にいつの間にか現れたスノーが言った。


「ふふ、私の力を思い知りましたか?」


 それに対して玄武は悔しそうにしながらも反論した。


「くっ……確かにお前の力は凄いようだが、だが俺は負けないぞ!」


 そんな玄武の言葉に、スノーは少し考えるような仕草をした後でこう言った。


「いいでしょう、ならば少しだけ本気を見せてあげましょう」


 『必殺奥義:氷河時代』その瞬間、凄まじい冷気によって世界が凍りついていった。


「なっなんだこれは!?」

 驚く玄武に対し、スノーは答えた。


「これが私の力です、さぁどうしますか?このまま死ぬのを待つだけですが……?」  


 その言葉に玄武は覚悟を決めると、叫んだ。


「いいだろう!!受けて立つ!!」

 

 玄武はそう言うと座禅の態勢をとった。それを見て不思議そうな顔をするスノーだったが、すぐに余裕たっぷりといった様子で話しかけてきた。


「どうやら諦めたようですね、では楽にして差し上げますわ」


 そう言って手刀を構えると一気に振り下ろしてきた。しかしそれは玄武の首で止まってしまった。


「なんですって!! 一体どうして!?なんで手刀が首に当たってるのに死なないのよ!!」


 動揺するスノーに、玄武は静かに答えた。


「悪いな、実は今の俺の体は座禅によって鋼鉄よりも硬くなっているんだ」

 そう言うと今度は逆に拳を繰り出した。その一撃を受けて吹き飛ばされるスノー。


「ぐっ……!!なんて威力なの……!」


 なんとか立ち上がろうとするが、体に力が入らないのか立ち上がれないようだ。そんなスノーに対して、玄武はさらに追い討ちをかけようと近づいた。するとその時、突然どこからか声が聞こえてきた。


「そこまでじゃ! もう勝負はついたじゃろう!」


 声の方を見てみるとそこには小さな老人が立っていた。老人は続ける。


「私の名前はスノー・ワイズマン、スノー・ホワイトよ、ここは玄武を先に行かせるのじゃ!!」


 スノーはそれを聞いて驚いた様子だったが、やがて頷くとその場を去った。それを見届けた後に、老人……いやスノー・ワイズマンは口を開いた。


「やれやれ、まさかここまでとはのう……」


 そう言ってため息をつくと、続けて言った。


「まぁよい、とりあえず今は先を急ぐんじゃ」


 そう言って指差す先を見ると、大きな扉があった。それを見た玄武は嬉しそうに笑うと扉を開けた。扉の向こうにはさらに下へと続く階段があり、その先からは邪悪な気配が漂っていた。


「ここだな、間違いない!」


そう言いながら階段を降りていく玄武、それに続くようにアリスも後を追った。二人が辿り着いたのは大きな広間のような場所だった。そこで待ち受けていたのはなんとホワイト・ウィンターズ首領百冬その人だったのだ、玄武はその姿を見て驚いた、何故ならそれは玄武の友白虎にとてもよく似ていたからである。


「お前……白虎……なのか?」


 恐る恐る尋ねる玄武に対して、彼は答えた。


「いや……違う、私は百冬、白虎は私の実の弟だ」


 その言葉を聞いて、玄武は納得したように言った。


「なるほど、そういう事だったのか……道理でそっくりだと思ったぜ」

「玄武よ、貴様は私の弟をあの黄龍の手から救うことができなかった……青龍王国を救うなどと言っておきながらだ、貴様は青龍王国を救ったかもしれないが私の弟を救うことができなかったのだ」


 そう語る百冬の瞳は怒りに満ち溢れており、全身から凄まじい殺気を放っていた。

しかしそれでもなお怯まずに玄武は言った。


「そうだな……確かにその通りだ、俺が甘かったせいでお前を失望させてしまったようだな、すまないと思っている」


 素直に謝る玄武だったが、それを聞いた百冬はますます表情を険しくした。そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さで殴りかかってきた。慌てて避ける玄武だったが、避けきれずに頬を掠めてしまった。


(速い……!)


 驚きながらも反撃しようとするが、既にそこに彼の姿はなかった。辺りを見回すと背後から気配を感じたので咄嗟に蹴りを放つがそれもかわされてしまう。その後も何度も攻撃を仕掛けるが全て避けられてしまうのだった。そんな二人の戦いを見ていたアリスは、このままではまずいと思い助けに入ろうとしたのだが、それに気づいた百冬によって止められてしまった。


「おっとお嬢ちゃん、邪魔しないでくれよ?これは私と玄武の問題なんだ」


 そう言って笑う百冬を見て、アリスは思わずゾッとした。


(この人怖い……!)


 恐怖で動けなくなるアリスを尻目に戦いを続ける二人は次第に激しさを増していき、ついにはお互いに必殺技を放ち合うほどになっていた。『必殺奥義:氷河時代』『必殺奥義:玄武流波動砲』二人の放った技が激しくぶつかり合い大爆発を起こした。その衝撃で吹き飛ばされる二人、だがすぐに体勢を立て直すと百冬は懐からスイッチのようなものを取り出した。


「生身で貴様の相手をするのもいいがこいつを出してやる!! 来い!! バトルロボMK2!!」


 百冬がスイッチを押すと床の一部が開き中から巨大なロボットが現れた。それを見て驚く玄武に向かって百冬は言う。


「こいつは私がスノウ・フィールドの人々に薬を飲ませて生み出した最高傑作だ!! 玄武!! 貴様はスノウ・フィールドの人々の化身に殺されるのだ!!」


 そう言うと同時に、バトルロボMK2と呼ばれた巨大ロボットは動き出し、玄武目掛けて襲いかかってきた。圧倒的なパワーの前になすすべもなく追い詰められていく玄武、そんな彼を助けようとアリスは駆け出した。するとその時、突然どこからともなく声が聞こえたかと思うと目の前に謎の人物が現れた、その人物は百冬によく似ていた。


「あなたはまさか……白虎?」


 そう尋ねると彼は頷いた。


それを見た瞬間、アリスは全てを理解した。何故彼がここにいるのかを……。


「やはりあなたは……」


 悲しそうな顔をするアリスに対して、白虎は静かに語り始めた。


「そうだよ、俺はあの時死んだんだ、でも玄武のことが心配だったから成仏せずにずっと見守っていたんだよ」


その言葉に涙を流すアリス、そんな彼女の頭を優しく撫でながら白虎は言った。


「泣くなよ、あんたは玄武の相棒なんだろう?だったらあいつを助けてやってくれよ」


 そう言われて涙を拭くと、力強く頷いてみせた。それを見た白虎は満足そうに微笑むと再び百冬の方を見た。そこには今にも力尽きそうな様子の玄武の姿があった。それを見た白虎はゆっくりと玄武に近づいていきながら言った。


「おい、いい加減にしろ! お前の力はこんなものじゃないはずだろ!? 今こそバトルアクションの真の力を見せてくれ!」


 その言葉を聞き、ハッとした表情を浮かべる玄武、そして立ち上がると大声で叫んだ。


「そうだ……そうだよな、ここで負けるわけにはいかないよな!! よしっ、行くぜ!!」


 そう言って拳を構えると、勢いよく走り出した。

「うおぉぉぉぉっ!!!」


 雄叫びを上げながら繰り出す連続パンチが炸裂するたびに衝撃波が発生し、それによって徐々にではあるが確実にダメージを与えていった。そしてバトルロボMK2は耐えきれずに膝をつくとそのまま倒れてしまった。それを見届けた後にゆっくりと立ち上がる玄武だったが既に体力も限界に近いようでフラフラしていた。そんな彼を心配そうに見つめるアリスであったが、ふと気づくと白虎の姿がどこにも見当たらなかった。


(一体どこに行ったのかしら……?)


 不思議に思うアリスであったが、今はそんなことを気にしている場合ではなかったのですぐに気持ちを切り替えて玄武の元へ駆け寄った。


「大丈夫!?」


 そう声をかけると、彼は笑いながら答えた。


「ああ、なんとかな……それよりあいつは……百冬はどうなった……?」


 そう言いながら前方を見ると、百冬は倒れたバトルロボMK2に巻き込まれながらもまだ辛うじて生きていたようだった。


「玄武……貴様は……弟の……仇だ……絶対に許さないぞ……!」


 苦しそうにしながらも恨み言を言う彼を見て、玄武は思わず目をそらしてしまうのだった。


「……すまない」


 ただ一言それだけ言うと玄武はその場を立ち去った。その後玄武とアリスは時計台から脱出しスノウ・フィールドに戻っていた。


「しかしいいんですか玄武さん、百冬をそのままにして……」


 心配するアリスに対し、玄武はこう答えた。


「いいんだ、あいつが俺を恨むのは当然のことだからな……それに今の俺にはやるべきことがあるからな、だからあいつのことはもういいんだ」

 そう言う彼の顔はとても悲しげだった。それを見て何も言えなくなってしまうアリス、玄武はそんなアリスの様子を見て明るい調子で言った。


「さぁて、俺はまだユニコーン公国をまともに見ちゃいない、アリス、案内してくれよ!」


それを聞いて思わず笑顔になるアリス、彼女は元気よく返事をすると彼の手を引っ張って歩き出した。

こうして二人は旅を再開したのだが、この後更なる苦難が待ち受けていることをこの時の彼らは知る由もなかった……。


~続く~


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