第12話 新たなヒーロー
青龍県の夜の山奥、今堀陸尉は不気味な静寂に包まれた吊り橋の前で立ち止まっていた。目の前には、信じがたい光景が広がっている。吊り橋の先には、巨大な怪物がうごめき、山の闇を裂くようにその姿を現していた。今堀は一瞬、目の前の現実が信じられず、言葉を失ってしまったが、背後から聞こえてきた一声で我に返った。
「兄貴、俺たちも腹をくくるしかないぞ!」
そこには、彼の幼い頃からの仲間であり、彼を「兄貴」と慕う不知火の姿があった。彼もまた、怪物に立ち向かう決意を秘めていた表情を浮かべていた。
怪物はさらに巨大化し、吊り橋が今にも崩れそうなほどに揺れ始める。今堀は決断の時だと悟った。彼は不知火に目で合図し、二人は吊り橋に足を踏み入れた。吊り橋の板は不気味な音を立てて揺れ、足元が崩れ落ちそうな感覚が二人を襲うが、恐怖を抑えつつも前進する。
「陸尉、次の手はどうしますか?」と不知火が問いかける。今堀はその問いに一瞬の迷いもなく応えた。「俺たちは、この怪物に立ち向かう。そして、ここから誰も犠牲にしないんだ!」
吊り橋の中央に差し掛かったその時、巨大な怪物が吼え、長い腕を振りかざしてきた。その一撃で吊り橋の一部が崩れ、二人は足を滑らせそうになるが、互いに支え合い、何とか耐え抜いた。
二人の決死の覚悟を察知したのか、怪物はさらに激しく襲い掛かってくる。しかし、不知火が投げたフレアが怪物の目を一瞬眩ませた隙を突き、今堀は持っていた武器で怪物の足元を狙って突進する。巨体が揺れ、怪物はバランスを崩して吊り橋から落下しかける。
息を切らせながらも、不知火と今堀は最後の力を振り絞り、怪物を吊り橋から突き落とすことに成功する。怪物のうめき声が山々に響き渡り、谷底へと消えゆく中、今堀と不知火は互いに息を整え、戦いの終わりを実感した。
「兄貴…俺たち、やり遂げたな…」と、不知火がかすかな微笑みを浮かべて呟く。今堀は彼の肩を軽く叩きながら、夜空に輝く星を見上げ、無事に戻れることを心から祈った。
今堀と不知火が山の奥深くから戻り始めたその時、何かがまだ終わっていないという不安が二人の心に影を落としていた。暗闇の中から聞こえてきたかすかな足音がその予感をさらに強める。振り返ると、陰気で威圧的な雰囲気をまとった男が立っていた。それは内藤という名の男で、かつては紀伊の山々で“追跡者”として恐れられていた人物だ。彼が現れたことで、二人の心に新たな緊張が走った。
「お前ら、ここに何しに来た?」と、低い声で内藤が問いかける。彼の目には冷酷な光が宿っていた。不知火が思わず一歩前に出ると、今堀が静かに彼を制止する。「落ち着け、相手はただの追跡者じゃない…」
内藤の周囲には、不気味なほどに蚊が集まっていた。そして、彼が手を振り上げると、それらの蚊がいっせいに今堀と不知火の方に向かって飛び立っていく。二人はすぐにそれがただの蚊ではないと悟った。それらの蚊はウイルスを媒介しており、内藤はそれを武器として操っていたのだ。
「なんのウイルスか知っているか?」内藤が冷笑を浮かべて問いかける。「こいつらは相手の身体を侵して、動きを鈍らせるウイルスを運んでいるんだ。お前たちには、それがお似合いだ」
二人は蚊を振り払おうと必死に身をよじらせるが、徐々に追い詰められていく。内藤はさらに冷酷な笑みを浮かべ、二人に近づいてくる。「逃げるつもりか?いや、逃がすわけがないさ。」
今堀は苦しい息の中で、不知火に目配せする。「ここから抜け出すには、巣穴を見つけてそこに身を潜めるしかない…」そう呟くと、不知火はうなずき、二人は何とかして蚊の群れをかいくぐりながら暗闇の中にある巣穴を目指した。
追跡する内藤とウイルスに感染した蚊に追い詰められつつも、二人は巣穴にたどり着いた。だが、その狭い巣穴の中で逃げ場を失った二人は、お互いに焦りからか激しい言い合いを始めてしまう。
「お前、どうしてもっと早く動けなかったんだ!」不知火が苛立ちをぶつけると、今堀も負けじと返す。「言っておくが、これは俺だけの問題じゃないんだ。自分だって対処できたはずだろ!」
言い合いが激しくなる中、蚊の羽音がさらに巣穴の中に響きわたり、二人の体力が限界に近づいているのがわかった。だが、そのとき、不知火が内藤の弱点に気づく。
「今堀、あいつは恐らく自分も蚊のウイルスに感染している…もしそうならば、そのウイルスを逆手に取れば…」
二人は巣穴から顔を出し、内藤を逆に罠にはめるための策を考え始めた。
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