青天の霹靂。“暗黒面”とは?
スマホが鳴った。画面にはメッセージの通知。送り主はアキラ。やっと待ちに待った返信だった。
「おつかれさま。急な話になるけど……」
通知ではメッセージの全文が見れない。“……”の先が想像出来て、心がざわついた。サキは通知を押してメッセージを開いた。
「おつかれさま。急な話になるけど、現実的に遠距離して、結婚まで、って難しいんじゃないかと思う」
「お互いの為に早めに決断して、違う道で頑張れたらいいんじゃないかなって」
2つに分かれて送られてきたメッセージの意味が理解できなくて、サキは3度読み返した。
読み解けると頭の中の冷静な部分は「そうきたか」とだけ言い、感情的な部分がまずは「いやだ!」次に、「なんで?別れたくない」と取り乱した。
「時間がある時に電話して」
サキはやっとのことで、メッセージを打つと少し迷ってから送信を押した。吐き気がする。手足の先が冷たくなって痺れるような感じがした。
10分もたたない内にスマホのバイブがなった。いつもならメッセージの返信に1時間以上かかるのに。サキは深呼吸をして通話にした。
「……もしもし?」
当たり前だけど、アキラの声だ。少し固い感じがした。
「もしもし。……どういうこと?」
冷静な声で、でも優しく聞こえるような声を出したつもりだ。
「色々考えたけど、2人の今後を考えたら別々の道で頑張ったほうがいいかなって」
「……何?もう気持ちは無いってこと?」
「そうじゃないけど……。いや、やっぱり会わなくなって、仕事も忙しいし、前と同じわけじゃないかも」
気持ちが少しでも残っているなら、希望があるのだろうか?
「じゃあ、どういうこと?まだ気持ちがあるなら、他の問題はどうにか出来るって思ってるよ?」
めんどくさい女って思われてるだろうか。いや、本当にそうなんですけど。語尾は柔らかくしてるけど、淡々と話すせいで責めてるように聞こえるかな。でも、必死に引き留める“結婚に焦った30歳女”だなんて思われたくない。
「でも、現実的に考えて難しくない?ちゃんと伝えなかったのは悪いと思ってるけど、やっぱ色々さ」
サキは眉をぴくりと動かした。
「色々って?」
「……環境の違いとか、金銭感覚の違いとか。あと、やっぱり忙しいから時間作れないし、距離的にも……」
わかるよ。人種の違いでしょ?でも、人種が違って、問題が出てきても話し合って、気持ちをすり合わせて、解決していく。そうやって行くもんだと思ってたよ。私たちならそういう関係を築けるって信じてた。馬鹿みたい。
サキは何とか説得を試みた。
「それも、話し合って何とか出来るんじゃない?私、今は働いていないし、会いに行けるし」
「働いてないのもさ、なんで俺だけ頑張ってるんだろうって思ってしまうし……。前はいくら稼いでいたか知らないけど、今は国からの補償を貰ってくらしてるんだよね?賢いやり方だと思うし、そういう人を否定するつもりはないけど、俺はもっと頑張ってる人がいいな、って」
サキは血の気が引いた。あぁ、これは私のミスだ。転職活動中、無職という説明で受け入れてくれて理解があるんだって思ってた。ただ、お金を貰ってぶらぶら遊んでる奴だと思われてたんだ。
「……言って無くて悪いのは私なんだけど、前の職場、メンタルやられて体壊して辞めたんだよね。……だからさ」
言葉が続かない。今は、まだ働けない。たぶん、あと少し待ってくれたら……。
「知らなかったから……」
アキラの声色で今さら知った所で、もう変わらないのであろう気持ちが伝わってきた。アキラの離れてしまった気持ちを取り戻す方法が思いつかなくて、頭が真っ白になった。
「メッセージはふわっとしてたけど、結局別れたいって話だよね?」
声が震えないように頑張った。せめてハッキリさせようと思った。サキにも無駄なプライドがあった。
「……うん」
アキラのバツが悪そうな声が聞こえて、その表情が頭に浮かぶ。短い付き合いでも、それくらいには近い距離にいた。
「そっか、わかった。遠回りな言い方が、気に入らなかっただけ。意地悪してごめんね」
「いや、こっちこそ。ごめん」
あぁ、終わっちゃう。ハッキリなんてさせなきゃよかった。それでも。サキがどんなに嫌でも、これ以上は無理なんだと悟っていた。
「あー!悔しいなぁ。そっちで行きたい所あったのに。あと、アキラと付き合うために1人フってるし!」
サキは精一杯強がって、どうでもいい事を言った。アキラは曖昧に笑った。アキラはどう思ったんだろう。言わなければよかった。
「今までありがとう。楽しかったし、付き合えてよかった」
サキは言いたくもない言葉を言わなければならなかった。体が震えて、声にも影響してきた。これ以上、話すと泣き出してしまいそうな気がした。どうにかこうにか軌道修正して、大人の女性を演じたつもりだ。
「こっちこそ楽しかった。ありがとう。ごめん」
ごめん。で、すむかよ。と、心で悪態もつきたくなる。
「じゃあ、またね……、じゃないか。ばいばい」
サキはアキラの返事を聞かずに電話を切った。サキしかいない家の中は静まり返り、キーンという耳鳴りだけが、やけに大きく聞こえた。
やばい。急展開に涙もでない。いやだ。正直、運命だと思ってたよ。ばかみたい。てか、何が「お互い別の道で頑張る」だよ。私は十分がんばってんだよ。
いらいらしていて、悲しい。どうすれば、よかった?どこを間違えた?いや、間違えた所は分かってる。でも、私は精一杯合わせたし、努力した。お酒もタバコも、後の細かいとこも、本当なら嫌な事もアキラだから受け入れられたんだよ……。何か気に入らなかったとして、なんで、そっちは許してくれないの。
サキは親指の爪を噛んだ。まさか、アキラが別れを考えていたなんて。そんなにすぐに、気持ちが離れるなんて考えていなかった。
すぐに電話する?いや、もう無理だろ。こういうことは考えても仕方ない。わかってる。もう終わってしまったし、ここで
サキは自分をどうにか慰めようとした。“私”は悪くない。選択は間違えたけど、“私”の存在が否定されてるわけじゃない。合わなかっただけ。アキラの中で、“私”といるプラス面より、マイナス面が多くなっただけ。ただ、それだけ……。いや、辛い。悪い。
サキはさっきまでアキラと繋がっていたスマホを手に取ると、何をしでかすか分からない未来の自分を救うために、アキラとのメッセージと連絡先をすべて消した。
そして、すぐさまマッチングアプリをインストールした。入会設定をして、プロフィールを書く。このアプリにお世話になるのは3回目だな。設定が終わるとスマホをベッドの横の棚に置いた。
ケイゴと別れてアキラと出会えたみたいに、すぐに見つかるといいな。いや、アキラほど完璧な人が見つかる気がしない。最悪。どん底だ。死のうかな。
サキは落ち着こうと、水を飲みに一階に降りた。絶対に寝れない。そうなると“暗黒面”が姿を現し、朝になるまで寝かしてはくれない。と、思って副作用に眠気がでる抗鬱剤を薬箱から取り出す。以前飲んでた、あまりだ。今の薬と併用してたこともあるから大丈夫なはず。念の為、ハサミで割って半錠だけ飲んだ。
そして2階に戻り、部屋を暗くするとベッドに横たわる。頭の中では、とりとめのない後悔とアキラに対する執着心、今までの2人の思い出がぐるぐると回る。
すぐに別れるくらいの気持ちなら、結婚したらこうしようとか話すなよ。誰にでも言ってんのかよ。あんなに、かわいいとか言ってたのに。あんなに優しくしてくれたのに。少し離れただけでこれかよ。
薬のおかげで、いつの間にか眠っていたが、どうしようもない悪夢と、勝手な願望の夢の途中で何度も目を覚ました。その度に、そういえば別れたんだ。と、現実的を思い出して辛かった。
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