第5話 平和を求めて
マスターとの戦いを終えた数日後、ミラクルは多くの軍勢を率いて、数光年離れた敵領惑星の自然豊かな都市の前に立っていた。そこには、彼女が守りたかったはずの自然が広がり、鮮やかな木々が空を覆っていた。澄んだ川が流れ、そこかしこで小鳥たちがさえずり、住民たちが穏やかに暮らしている──自分が大切にしたいと思っていたものが、目の前に広がっている。
だが、彼女の心にはマスターの言葉が深く刺さっていた。「未来のためには、犠牲が必要だ。」彼の意志がどれほど強かったか、どれだけ信念に満ちていたかを思い出すたびに、自分の信じてきた平和と自然の守り方が脆く、揺らいでいくのを感じた。
「私が守っているものは、本当に意味があるの……?」彼女は自らに問いかける。平和を守りたいという思いが、ただの理想論に過ぎないのではないかと、心が引き裂かれるような痛みを感じた。信念を貫いたマスターの強さが、彼女の心に棘のように残り、刺さり続けていた。
そして、ミラクルは重く動かぬ足を前に進め、震える手で魔法の杖を握り締めた。目の前に広がる美しい自然が、自らの手で破壊されていく運命を悟ったかのように、彼女を見つめ返しているような錯覚がした。彼女の中には、深い悲しみと絶望が入り混じっていた。
軍艦からの一斉砲撃が後に続く。
「これが……未来のためだというのなら……」ミラクルの声はかすれていた。自らの手で、この平和な都市を破壊することが正しいと信じ切ることはできない。それでも、マスターの信念に少しでも近づくために、彼女は杖を掲げ、魔力を込めてゆっくりと振り下ろした。
轟音と共に、地面が揺れ、緑が次々と焼かれていく。草木が炎に包まれ、川が赤く染まる光景に、ミラクルの目は見開かれた。まるで、彼女の内なる信念そのものが崩れ落ちていくかのようだった。彼女が求めた「平和と自然を守る」という信条が、今や自らの手で消し去られていく。その行為が、自分自身の存在をも否定しているように感じた。
ミラクルが杖を振り下ろすと同時に、街に轟音が響き渡り、静かな自然が一瞬で地獄へと変わった。周囲の森が焼かれ、地面は裂け、彼女の圧倒的な力の前に何もかもが無力に飲み込まれていく。
その時、敵軍の防衛部隊が動き出した。兵士たちは恐怖を押し殺し、こちらに向かって突進していく。彼らの目には決意と怒りが宿っていた。「我らが街を、平和を……貴様の手で破壊させるものか!」一人の兵士が叫び、次々と弾丸が彼女に向かって放たれる。しかし、そのすべては彼女の周りで無力に砕け散り、彼女に届くことはなかった。
ミラクルは無表情のまま、次々と防衛隊を薙ぎ払っていく。彼女の放つ一撃で、大気がえぐられ、兵士たちは爆風に巻き込まれて吹き飛んだ。彼女の前に倒れていく兵士たちの表情には、守りきれなかった無念と、彼女への憎悪が浮かんでいた。
「くっ……あの街を、俺たちの家族を守れなかった……」一人の兵士が血を吐きながら、地面に倒れ伏す。「平和を愛したこの街が、こんな……!」涙を浮かべながら、最後の力で銃を構え、震える手で彼女に向けて引き金を引いた。しかし、その一発もまた、彼女の力の前に無力だった。次々と無惨に倒れていく兵士たちの命が、彼女の足元からはるか遠い地面に散らばる。
ミラクルは、彼らの痛みと絶望を目の当たりにしながらも、進み続けるしかなかった。心がどれほど引き裂かれようとも、ここで止まるわけにはいかない──そう自分に言い聞かせ、前へと歩を進める。周囲には、彼女の放つ力によって崩壊した街の風景が広がっていた。
必死の抵抗もむなしく、兵士たちは次々と地に伏せていく。彼らの目に浮かぶのは、守りたかった家族、友人、そして何よりもこの平和な街への強い愛だった。そのすべてが、ミラクルの手によって奪われていく。
「この街の命が……こんな形で奪われるなんて……」彼女は目を閉じ、わずかな瞬間だけ涙をこらえるようにまぶたを閉じた。だが、再び目を開くと、冷たい決意を宿し、炎に包まれた街を見つめた。
彼女が進むたび、破壊されていく街々の象徴である緑の木々が炎に飲まれ、兵士たちの叫びが次第に静まっていった。彼女の前に立ちはだかる者はもう誰もいない。残されたのは、炎に焼かれ、破壊され尽くした静寂だけだった。
「マスター、あなたの言葉が……正しかったのね。でも……私は……!」ミラクルの声が震え、涙が頬を伝う。彼女が信じた平和と自然は、今や自分の手によって無惨に破壊されていた。絶望と後悔、そして彼女自身の選択に対する深い虚無が胸を締めつけた。
静寂の中で、彼女はかつての自分を捨て去るように、崩れた街の上で泣き崩れた。
「私は……何をしているの……?」瞳に涙が浮かび、頬を伝う。マスターとの戦いを通じて得た覚悟は、皮肉にも彼女の心を引き裂き、かつての自分を裏切ることになった。泣き叫びたい衝動を抑えきれず、彼女はただ、炎に包まれる都市を見つめ続ける。
「マスター、あなたの言葉は……正しかったのかもしれない。でも……私は……!」声は、喉から絞り出すように漏れた。今、自分がしていることが、どれだけ理不尽で、どれだけ痛みを伴うものかを知りながらも、彼女はその手を止めることができなかった。
最後に残ったのは、焦土と静寂だけだった。彼女の心には、深い後悔と虚無感が広がり、胸を押し潰すような苦しみに襲われた。未来のために犠牲を払う──その覚悟が、今や彼女を蝕んでいた。
魔法少女激戦外伝3037 スノスプ @createrT
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